第2話 帰してくれ!
「ようこそ!我が国へ!」
満面の笑みで俺にそう言った彼女はことの発端の張本人である
「おいおいおい、嘘だろ?・・・・・うそだよなあ」
目の前にいる女の後ろ、広がるのは知らない世界
具体的に言うと—————
「ドラゴン飛んじゃってるよ・・・・・」
もう完全にファンタジーだ
「勇者様、ご無事ですか?」
「全然ご無事じゃねぇー・・・・」
しかもなんか気持ちワリィ・・・・
酔ったような感覚の吐き気を抑えるために、俺は手で口をふさぎながら女の言葉に返答した
「真っ白で透き通ったようなお肌が素敵ですよ」
「ただ顔真っ青にしてるだけだろ・・・・!」
こいつ分かったうえで絶対からかってやがる
「大丈夫ですよおそらくは初めて魔力に触れた時に味わう魔力酔いでしょうから」
「マジでテンプレート世界すぎるんだが」
まさか異世界がここまで予想道理だとは思わなかった
「なぁ、これ夢じゃないのか?なんかの撮影とか」
「残念ながらこれは紛れもない現実ですよ?確認したい様ならおなかに風穴でも開けて確認いたしますか?」
「死ぬわ!」
全力で突っ込んだ
「なあ、返してくれないか?俺さ、今日学校だったんだけど。毎日まぁまぁ幸せだったんだけど?今日もその普通の日常送るはずだったのに。なんで俺が選ばれたんだよ?」
「それはもちろんその顔がおもしっ・・・・あなたが特別だからですよ?」
「おい、今本音もれてなかったか?お前気まぐれで俺のこと選んだんじゃねぇだろうな?」
「まさか・・・、歓迎いたします勇者様!」
「テンプレセリフでごまかすんじゃねぇ!」
俺はもう諦め半分にため息を吐いた、いやそれしか気を紛らわす方法が見当たらなかった
だが諦めん。絶対に家に帰ってやる
「でわコチラへ」
言われるままに大きな扉の向こうに入っていった
「どこだ?なんかでけエけど・・・・」
連れて行かれるままに何やら豪華な絨毯の上を歩きながら問いかける
「ここはこの国の中心、国王様のお城ですよ?」
「いきなり!?」
「なにをおしゃっているのですか!この国を救ってくださる勇者様なのですよ?しっかりおもてなししなければ」
そう言って得意げに鼻を鳴らす
俺はこの国に勇者として今さっき無理やり連れてこられた
ちなみに話によるともう戻れないらしい・・・・・
もう、・・・・泣きたい!
「では勇者様、まだお食事は済ませてはいらっしゃいませんね?」
「うん、まぁな」
「というわけでまずはお食事をしましょう。すでに準備は出来ております」
ガチャッと音を立てて扉が開かれると、そこにはこれまた豪華な食事が大きなテーブルの上にいくつも
「す、すっげ」
思わず感嘆の声が漏れた
「こちらは王国の最高のコックたちが手掛けた食事です」
だろうな、豪華に装飾された大きなエビ
ホクホクと湯煙を立ち上げるキラキラと光る光を幻視してしまいそうなピラフのようなお米
そのまんまの豚の丸焼き
明らかに普通の人たちが作れる食事ではないだろう
「いろいろとお話はありますが、まずはしっかりと精をつけてください」
「これ食べなかったら国に帰れたりは?」
「できません」
「ですよね。そうですよね・・・・」
笑顔で告げる美女の言葉に、俺はがっくりとうなだれた
まぁ、食っていいというのならばせっかくだから食べよう
どちらにせよ、自分がここの地形を知らない以上、従っておいた方が身のためだ
俺は促されるままに、席に着いた
とりあえずフォークを手に持って・・・・・
「・・・・・あのさ、ちょっと悪い」
「何でございましょうか?」
クルッと顔を美女の方に向けて
「俺さっきから酔ってんの分かってての仕打ちかこれは?」
「ああ~、失礼いたしました」
あははは、と苦笑いを浮かべて謝罪された
「ではお食事は後にしまして、お部屋で休憩されてはいかがでしょうか?」
「あのさ、そんな至りつくせりでこんなこと言うのも何なんだけど。俺って何するためにここに来たんだ?」
こんなにいい待遇はかえって怪しい
「勇者様のお仕事につきましても、お部屋でご休憩なさりながら聞くのはどうでしょうか?」
「ああ、まぁそれでも別に構わねぇけど」
席を立ってまたついていく
高そうなダイヤモンドがキラキラ光るシャンデリアがいくつも天井につるされた廊下
なんだか自分には理解できない大きな絵が飾られている会談を通って、彼女は立ち止まった
「こちらが勇者様のお部屋になります」
また扉を開いて俺を招き入れる
大きなフカフカそうなベットがあった
「まずはこちらのベットで横になるとよろしいかと」
彼女はベットを手で指す
確かにちょっと気持ち悪いし、いったん横になろうかな?
あ、いや
「まず説明しろ。なんで俺をこんなことに巻き込んだのかを」
「休みながらでも説明できますよ?」
「いや、お前の目を見て俺は話したい」
「そんな!ワタクシと見つめあいたいだなんて!」
「言ってねぇ!俺はお前が怪しいからそうしたいっていてるんだ!」
頬に手を当ててああからさまな態度をとる女
「あら?怪しさもしかして増しちゃいました?」
「もしかしなくても増してんだよ!」
あはははっと彼女は笑って
「申し遅れました。ワタクシ、この国で軍の上司を務めております、ハグリズ・ニーンと申します」
「軍?上司?」
「略してハニーと呼んでくださって結構です」
「呼ばねぇ」
「呼んだらちょっと引きますけどね?」
「バカにしてんのかこの野郎・・・・」
あははははっとまた彼女は笑う
やっべーこの笑った時の顔めっちゃむかつく!
「なにかあったのですか?頭に血管なんて浮かべちゃって」
お前のせいだよ気づけよ・・・・・!
「さっさとここに連れてきた理由を教えろ」
「そんな警戒しないでくださらなくて結構ですよ?」
「するわ!今城ン中、俺ら以外誰の気配も感じねぇんだよ!」
「わぁ!そこに気づくなんてほんとに勇者様みたい!」
またニコッと笑う
ほんとにひねりつぶしたいんだけどこいつ!?
「何より一番お前が怪しいんだよ!」
「なぜですか?」
「ネコ被ってるのバレバレなんだよ!」
「ああ、ばれちゃいましたかー」
今度はごまかすような諦めたような笑いを浮かべて
「もしかして最初から警戒心むき出しだったのってワタクシが原因ですか?」
「他に何があるんだ」
「例えばご飯の中に入った独の匂いをかぎ分けたとか?」
「そんな物騒なもん入れてたのかテメェ!?」
「嘘ですよ。アハハハ!面白いなー、私あんた好きだわ」
「俺はすでにあんたのこと嫌いだよ!」
俺を指さしてそう笑ってくるハグリズに思いのたけを突き付けてやった
てか、言葉が敬語じゃなくなった、素が出てきた
「いいからさっさと教えろ。俺は何をするためにここに連れてこられた」
腕を組んで聞いた
「いや、言ったとおりだよ?君にはこの世界を救ってもらいたいのさ」
「嫌だ!」
「アハハ、即答だねー」
全然気にした様子なくそんなことを言ってくる
「俺にメリットがないだろう?」
「でも知らない土地で知らない言葉を話す人たちとさ、君、生きていけるの?」
「赤子だって生きていけんだ。俺だって生きていける」
「その場合は全力で国を挙げて君の邪魔をするけどね?」
「ハッ!出来るもんならやってみろ!どうお金持ちの貴族だろお前ら?道理で人が居ねぇと思ったぜ!」
「いや、ほんとに王国のお城だよ?ここ」
「じゃあ聞くが、なんで軍の上司が俺の付き添いなんてやってんだ?人がいないのも説明してみろよ!」
「私が付き添いやってるのはあなたが勇者だから、それと人がいないっていうけど、これだけの家を持つ財力があるのに人が集められないと思う?」
「・・・・・たしかに」
「ま、そんなわけだからとりあえずしたがっといた方がいいと思うよ?」
「その言い回しが逆に怪しんだよ。怪しい言い回ししかできないのか?」
「困らせるのが趣味だからねー」
「死ね」
「あっはははは!怖いなー」
また笑って相手にされない
「それにメリットならあるよ。もし魔王が倒されたときに君が生きて戻ってきたら好きなものくれるって言ってたよ?」
「おい。それ俺が死ぬの前提なんて奴じゃないだろうな?」
「考えすぎだって。それにここにいるうちは何でもみんな言うこと聞いてくれるから、至りつくせりだしさ?」
「おうちに返してください」
「だからしたくても無理なんだって」
「今までの発言聞いてるとそれすら本当か怪しくなってくるぞ」
「だよね!わかる!」
「死ね」
「まぁ、とにかく私たちは君にこの国を救ってもらいたくて来てもらったの」
ああー、とりあえず嘘は言ってなさそうだが
「じゃあ、おひるごはんができたらまた呼びに来るね。なんかリクエストある?」
「おうちに帰れるご飯」
「睡眠薬盛っておくね♡」
「盛るな!」
また扉を開けて彼女は出て行った
まぁ、嘘は言ってなさそうだったが・・・・・
言葉のやり取りを思い出しながら考える
ん?そういえば、なんか途中で気になることを一言言ってたような・・・・
ダメだ、思い出せねぇー