第1話 嘘だよね!?
早朝、まだ日が昇り切っていない、外は少し暗い時間
「ふぁ~・・・。寒っ!」
家の廊下はそんな時間帯のせいもあって、まだ少し肌寒い
あくびを引っ込めて、体を抱いて身震いした
そのまま摩擦で温めるように体をさする
さっさとトイレ行ってもう一度布団に入ろう
まぁ今日は平日なので、結局学校に行くためにすぐ起きねばならないのだが、寒い時間に起きているよりはましだな
俺はトイレのドアノブに手を掛けると、また一つあくびをしてドアを開けた
「ふぁ~~・・・・・・!?」
固まった、そりゃあまさにビシィ!って効果音が聞こえてきそうなほどに
そりゃそうだ、だって
「こんにちは、勇者様!」
トイレの中では知らない美女が立っていたのだから
「なぁ!?」
「そんなびっくりなさらないでくださいませ。勇者様ともあろうお方が情けないですよ?」
「いや、だ、だだだだだだだ、だれだお前!?」
目の前にいるそいつを指さして、当然の疑問をそいつにぶつけてやった
だがその女はわからないんですか?とでもいうように首をかしげる
わ、わかんねぇよ!いきなり人様のうちのトイレに出現した美女のことなんて知るわけねぇだろ!?
「う~ん。この国にはマンガというものがあると聞いたので、この状況も理解していただけると思ったのですが・・・・」
「ま、漫画!?」
漫画で似たようなシチュエーション?え?いや待て、てことは何か?
「あ、あれか。お前は俺が住んでる世界とは別の世界から、勇者である俺を迎えに来たとでもいうのか?」
俺がまだ少し動揺しながら投げかけた質問に、彼女はにっこりとほほ笑むとしっかりと頷いた
はは、はははははは
「あはははは。お前!バカにすんのもたいがいにしろよ!この不法侵入者め!」
「バカになんてしていませんよ?私は事実を申し上げているだけですので」
「そうか、わかった。お前はあれか?厨二病だな?今度いい精神科医を紹介してやるよ。俺もかかったことがある」
「勇者様と同じお医者様にかかることができるなんて光栄です」
こ、こいつは、相当重度の病気の様だ、DNAレベルできっと精神が侵されていることだろう
というか不法侵入者だ、警察に連絡しねぇと・・・
「言っておきますが、ワタクシは本当にあなたたちの国で言う異世界人ですよ?」
「バカ言え!本当に異世界人ならなんで日本語しゃべってんだ?設定からもう一回やり直して来いよ3流が!」
「それは私の能力の一つが言語理解だからでございます」
「とってつけたような設定だな!発想が無理矢理すぎるぞ!」
俺はケータイの番号を押す手を止めてそう言ってやる
それを聞くと美女は顎に手を当てて「ふむ」とうなった後
「わかりました。では実際に異世界に来て頂くのはどうでしょうか?」
「は?」
「ワタクシのもう一つの能力は、時空間転送です。ワタクシが勇者様を異世界へと今からお送りします」
「え?あ、いや」
い、異世界転移?時空間転送?あ、朝からイタイ世界観見せつけてきやがって
「ははは、やってみろよ。不法侵入者。早速だから、お前の痛い妄想に付き合ってやるよ!」
「・・・・確認をいたしますが。本当によろしいのですね?」
「当たり前だ。俺は妄想なんかにおびえたりしねぇよ」
こういうタイプは下手をすると一番危ない人間になりかねない。だったら、ある程度付き合ってやって、頃合いを見て警察に連絡するのが得策だろう
「承知いたしました。では・・・・」
そう言って彼女は俺に向かって手をかざした。
そして目をつむると
「『彼のものを送るは使命なり 我が力をもって 新たな世界への扉を開く』」
「おお、詠唱とは気合が入ってるじゃねぇか!あはははは・・・・、は?」
俺は笑った、そのなりきりように、コスプレイヤーでもここまでなり切れる奴は少ないのではないかと思って。でも・・・・
「な、なんだよ。これ・・・」
驚愕に目を見開いた、自分と彼女を包み込むかのように、床に現れた光輝く魔法陣を見て
「さて、準備が完了いたしましたので。今から転送を行います」
ま、待って。これほんとに?え?待って待って待って!
首筋を冷たい汗が伝っていく
「あ、あのさ。もし仮にほんとに異世界に行ったとして。俺、帰ってこれる?」
「まことに申し上げにくいのですが、この転移は私以外のものは一生に一度しか行えないので難しいかと」
「待て!わかった!信じるから!!信じるから待って!連れて行かないで!!」
状況を理解した俺が、必死の形相で彼女に縋りつくと、彼女はにっこりと笑って
「嫌、です♡」
「悪魔ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
まばゆい光とともに、俺は地球から姿を消した
感想を!どうか感想を恵んで下され!・・・・ガクッ