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ヤシャとの死闘で全身の十数カ所に骨折や裂傷を負っているファイは、マシンガンを構えた警備ロボットの集団に、残った気力で手榴弾を投げつけた。
目的地には到着したが、待っていたのはアシモを4倍に拡大したようなロボットたちの洗礼だった。
「チッ、こいつら走りやがる。アシモもそのうち背が伸びてこんなになっちまうのか? ミチカ、ジープのエンジンをかけてろ」
片手でショットガンに弾を詰め、その手でグリップを握って撃ち放つ。
そろそろ身体が限界の悲鳴を上げている40のオヤジに向かって、
「エンジンがかかったわ。どっち? 前? 後ろ?」
と運転席からミチカが叫ぶ。
「ああ? 俺の言葉を忘れちまったか? こんな時は......」
「『押して押して、押しまくれ』でしょ。了解」
ファイが助手席に転がり込むと、ミチカはアクセルを踏んでそのまま建物の正面に突っ込んだ。
ショットガンが半透明の正面扉を狙い撃った。
────が、狙いは狂った。命中したはずのファイヤーバレットが〈弾かれた〉のだ。
ジープは急ブレーキをかけてドリフト走行し、寸でのところで正面衝突を免れた。
「ファイ、こんな時はどうするの?」
ミチカが経験豊かな大人の判断を仰ぐと、
「んなこたぁ、神様にでも訊いてくれ」
案の定、子どもの判断が返ってきた。
人間ほどではないが、警備ロボットはそれなりの俊足で追いかけてくる。まだ10体くらいはいるのではないか。射程範囲に入るとマシンガンを連射するので、距離を保って逃げながら応戦するしかない。
「神様ねぇ......」
天を仰ごうとしたミチカの視線の先に、
「あら......来ちゃったみたいよ、可愛い神様が」
有刺鉄線の大穴を潜ってやってきたのは、小型ワゴン車とバイオディーゼルターボ4WD。
「おっさあああああん!」
小型ワゴンのサンルーフから身を乗り出し、愛嬌溢れる丸い笑顔で手を振っているのは、サトミだった。
キャビテーションの二階東側に位置するバイオインフォマティクス研究室の、『そこ』と言われたところにいるヴォイドの顔を見ながら、スグルは森羅に問う。
「どうしてこの人が奇形種なの?」
若干、声が震えた。
『私が作ったから』
ここ十数年間誰とも話さない生活を送っていた森羅は、左脳が疲れてきたのか本来感情の伝達に乏しい人工声帯でさえ、どこか気だるげに言葉を吐き出している。
「でも彼は人間だ。どこからどう見ても」
不満げに噛み付いたスグルだったが、森羅が嘘を吐いてなどいないことは、なんとなく分かっていた。
『19年前日本人以外の民族のDNAとグリーディの種を植え付けて作った。見た目はそこそこだが何の役にも立たない失敗作』
ヴォイドは激しい動揺の中、身動き一つできないでいた。
初めて知らされた出生の秘密は、あまりに衝撃的なものであった。行方知れずだった生みの親が目の前にいる機械の身体をした科学者で、このキャビテーションで他の奇形種同様に遺伝子操作をされて誕生したというのか。
しかも「親」は何と言った? ”失敗作”────仮にも我が子に向かって言う言葉だろうか。
「ヴォイドさんが人間だろうが奇形種だろうが、僕はどっちでも構わない。だけど失敗作っていうのは撤回してもらいたい。この人は危険を顧みずにこれまで多くの人を救ってきた。人間を生かすというのがあなたの目的ならば、それを粛々と実行してきたのも、この人なんだ」
反応を失くしたヴォイドに代わってスグルが明確な憤りを見せる。
『けれど奇形種を殺してもきたはず。その剣で』
森羅の表情は変わらない。万が一愛する人に再会できても、肝心な喜びが表現できなくてどうするというのか。
「やはりあなたの主張は矛盾している」
『矛盾などしていない。奇形種が絶えれば何世紀か後に人間も滅びる。再びアトミックブライトを稼働させて』
「また誰かがアトミックブライトを開発するとでも?」
『開発しなくてもアトミックブライトはこの世に〈ある〉』
「えっ......」
スグルの驚きをよそに、森羅は茶褐色の卵を選んでガラスのトレイに中身を割り入れる。ドロリと出てきたジェル状の栄養膜の中に、成体に成りきらない段階で既に凶暴さを宿した恐竜のような形状の物体が見て取れた。
「アトミックブライトは700年前にアカツキスグルが使ったんじゃなかったの」
『起動装置は生きている。宇宙空間のサテライトも使用可能』
「そんな......。だけど日本は沈没したはずじゃ......そうか、発射したのは他の場所だったのか。きっと日本中の学者たちがそこに集結して生き残ったんだ。だからこんな遺伝子操作の技術も廃れずに済んだということか。......どこにあるの? アトミックブライトの起動装置」
『最果ての地』
「オーストラリア大陸?」
『正解』
森羅は、細切れにした奇形種の肉片をピンセットでシャーレに小分けする作業を中断し、ふいっと顔を上げた。謎かけ問答のような分かりにくい言葉のやり取りで「正解」が出た時に見せる、彼なりの能動的な動作であった。
『けれどあれは厳重にロックされていて発射はできても破壊は誰にもできない。私も無理だった。パスワードすら攻略できない』
「扱うのがアカツキスグル本人だったら?」
『本人であれば次こそ確実に世界は終わる』
スグルとの会話は、これにて一旦中断された。
その1分後には、新たな訪問者が研究室に足を踏み入れ、新たな会話が始まっていた。




