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ホモに恋するFOOTBALL - triumph or beauty -  作者: 幼卒DQN
妖精の羽が抜け落ちる前に
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反復練習

 なんだか最近は気が晴れなくてサッカーに熱が入らなかった。  

 久々にゲームでもやろう。


 おそらく今、最も戦闘が面白いゲームはBoderlands2だ。

 俺はsteamセールでこれのgame of the year版を980円で買ったのでなんだかひどく申し訳ないような気分になった。Boderlands3は定価で買わせてもらおうと思う。


 ログインすると見慣れた面々が未だにアイテ掘りに勤しんでいた。さっそく乱入し、ボイチャしながら戦闘に参加。


 もっと流行っていいゲームだが、日本では難しいだろう。

 WW2(第二次世界大戦)が日本に与えた影響は計り知れない。反動で日本人はすっかりトラウマになってしまい、銃に対して忌避感を抱く。だからインクを撃つスプラトゥーンがヒットしている。


 Boderlands2はCo-op(協力プレイ)も充実、神ゲーと呼んで差し支えない。ハクスラFPSで破天荒な世界が魅力的、多種多様な特殊能力を持った装備に多彩なスキル、ビルド(組み合わせ)を考えているときでさえ楽しい。ソウルシリーズも一つ一つの武器の使用感に変化があって楽しいがキャラの自由度とビルドの相乗効果シナジーの多様さで、戦闘ではこちらに軍配が上がる。難を言えばお目当ての装備を出すための時間が作業になりがち。AがBという装備を落とし易いという傾向がほぼ決まっているのでひたすらその敵を倒し続けることになる。


 率直に言ってこの手の縛りはなくした方がいいと思う。効率のために同じ行動を反復するのが最適解であるという仕様は、ゲームを作業化する。グリーンスライムがエクスカリバーを落とすのはリアルとは言えないかもしれないが、ゲームが退屈になるよりはマシだ。もっとも、Borderlands2はまだその辺に配慮してあるほうだ。街に落ちている箱に最高クラスの装備が入っていたり、雑魚キャラも同様の装備を落とすことがある。


 作業化はすべてのゲームの敵だ。もちろん、ハクスラだけではなくゲームデザイナーはあらゆるゲームで反復が効率的なプレーにならないよう配慮すべきだ。装備を作るのに材料を集めるゲームの多くが作業感を伴う。材料なんて、気がついたら溜まってたな、ぐらいの仕様が望ましい。

 

「おい、fieldbeast? どうした?」

「寝落ちか? 日本は今何時だ?」

「ああ。……悪かった。大丈夫だ」

 

 胸の片隅に、まだカットラスの言葉が引っかかっていた。いや、抜けないトゲだった。突き刺さっていつまでもシクシク痛む。

 気を取り直して先行するフレンド達に向かって走る。

 なんか最近の練習(・・・・・・・・)つまんねえ(・・・・・)


 俺には人の創ったゲームに文句を言える権利なんてない。

「No profit grows where is no pleasure ta'en」

「そりゃ、そうだな」

「最後なんて言った? taken?」

「どういう意味?」

 俺は口を開く。

「古典だよ。シェイクスピア。『楽しんでやらなきゃ何事も身につきゃしません』」

「お前プレイは脳筋なのに意外と博学なのな」

「ハッ、いつもサル使ってる奴に言われたかねえなあ」

「面白いからaimもうまくなるってもんだ」

 基礎は大事だ。だからといって同じことをいつまでもやってたら。

 俺の練習はいつの間にか作業化していたようだ。




 最近の事務室は深海の底にあるのかと錯覚するほど重かった。

 トップチームは連敗街道をひた走っている。眠れないのだろう、顔がくまだらけのおっさんBは今日にも自殺するつもりで。ネクタイと間違えて首にロープを掛けている。

 

 練習場には俺を待つ選手達が準備を始めていた。

 そうか。悪かったな、お前ら。


 俺はすべての練習にボールを扱うシーンを組み込んだ。ウォーミングアップや瞬発力を養うトレーニングまでコーンやミニハードルを使い複合的なコースにして難度を上げた。

 皆の目の色が変わる。


 その日、居残り練習をする者は誰もいなかった。ドレッシングルームに全員が引き上げる。いや。

「U-20W杯は観た?」

 手裏剣がドリブルしながら寄ってくる。最近、手裏剣はこのようにしてずっとボールを触っている。

「ああ」

「久保君すごかった。ウルグアイ戦は先発で出るよね」

「俺だったらスタメンにはしない。ウルグアイは強いからな」

「え?」

「日本がリードを奪ってからリトリートすると南アフリカの猛攻が始まった。すると久保の存在感が完全になくなってしまった。ダビド・シルバをサンダーランドに入れてチェルシーと戦わせればおそらく同じ状況になる。久保は滝壺にもまれる木の葉でしかなかった。なんとか守り切ったが、危うかった。俺はやはり日本人にはリトリートは向いてないと思う。なるべくポゼッションの時間を増やすべきだ」


「コーチさ。体が小さい選手嫌いだよね」

「そんなことはない。メッシが一番好きだしな。

 ただな。メッシがいるからそのチームが勝てるかと言われたら、そんな保証はまったくない。メッシがいても現在アルゼンチンはW杯予選で苦戦している。

 

 メッシは料理人だ。自分でタックルして獲物ボールを奪うのがひどく苦手だ。だが、強いチームに所属すれば味方が獲物ボールをくれる。そうでなければメッシは力を発揮できない。


 メッシのように尖った一片ピースもあれば、デ・ブライネのようにあらゆる能力を備えた丸い一片ピースもある。人々はメッシを褒めそやす。やはりああいう選手は華がある。だが、だからといってメッシ11人のチームはフィジカルコンタクトに弱く、強いとは限らない。


 久保はまだ15歳だ。これから体に肉が付いてくる年代。170cmの身長がどこまで伸びるか、日本代表の未来に大きく影響するだろう」

 手裏剣は周りを見回し、人の気配がないことを確かめた。

「コーチはさ、私のことは好き?」

 俺は手裏剣を眺めた。俺の話なんか全然聞いてなかったんじゃないだろうか。メッシは好きだがお前は……。

「ああ、大好きだ」

「ふーん……」

 手裏剣はきびすを返すと歩き出した。そして突然走り出して闇に溶ける。

Boderlands3は……駄作でした。買わない方がいいと思います。

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