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ホモに恋するFOOTBALL - triumph or beauty -  作者: 幼卒DQN
妖精の羽が抜け落ちる前に
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カンプ・ノウは夢を見る ①

「練習場が賑やかみたいね」

「サッカーファンよりテニスファンが多いようだな」

「まあ、今までバレなかったのが運が良かったと思うわ」

 フランに誘われてLINEをするようになった。

「またお話がしたいわね」

 

 3月12日の夜。

 俺はDiscordを起動しサーバーを立てる。下準備を済ませるとフランに入ってくるよう促した。

「久方ぶりだな」

「ランス!?」

 そして次々とマン・ゴーシュを除くヴァッフェの選手達がフランに声を掛けた。

 はしゃぐ田すずめのようにちちちち鳴いて旧交を温める。俺はコーヒーを淹れ、十分ほど過ぎて一通り騒ぎ終わったところで口を開いた。


「今朝、CL(チャンピオンズリーグ) 2ndレグがあったな。俺はもちろんバルサPSG(パリサンジェルマン)を観た。俺はバルサが好きだからどうしてもバルサ目線の話になることはご容赦願いたい。


 フラン。以前、俺はバルサの新加入選手に対しどんな評をしたかおぼえているか?」

「今夏補強した選手は微妙だ。ディーニュは可能性の片鱗を見せている。ユムティティは非凡。だがアルカセル、アンドレ・ゴメス、デニス・スアレスは現状バルサレベルとはとても言えない」

 俺はフランの記憶力にあきれた。

「そうだ。バルサ監督(ルイス・エンリケ)はどうもアンドレ・ゴメスがお気に入りのようで、いやもしくは81億も払って獲ってしまったからか、アウェー(パルク・デ・プランス)の1stレグでも起用する。


 今フランが言った5人のうち、前者の二人はDFで後者の三人は攻撃で力を発揮しなければならない選手だ。この前目の三人が使いにくく、起用すると明らかにバルサが弱体化する。一方でウムティティは欠かせない戦力に数えられている。


 バルサの弱点は二つ。右SB(サイドバック)の人材不足。アレイクス・ビダルは十分な選手とは言えず、しかも長期離脱になってしまった。セルジ・ロベルトは頑張ってはいるが初速が遅くスピードスターの対応に手を焼き、SBとしては欠陥があると言わざるを得ない。


 もう一つは創造性だ。パスサッカーに必要な、DFの裏をかくパス、効果的なパス、相手の急所を衝くパス、仕上げの一つ前のプレーができる選手がいない。


 以前は、いた。シャビだ。

 選手人生の晩年を生き、監督人生を踏み出そうとするシャビはペップの足跡を踏みにカタールの地におもむき宣教を行う。


 1stレグ、PSGはバルサの誇る世界一の3トップへのボールの供給を封じようとした。中盤を制圧しゲームを支配する。

 メッシもネイマールも料理人であり自らボール狩りをするのは苦手だ。食材の供給がないと役に立たない。

 バルサにしてみれば悪夢のような試合だった。4-0の敗北。アンドレ・ゴメスは木偶でくの坊、酷評を浴びる。

 現地紙は浮かれ驚喜した。『ほぼ決まりだ』


 エンリケは今期限りでの退任を発表し選手の奮起とマスコミの雑音を封じようとした。そして根本的な戦術の見直しを求められた。中盤に前線と有機的にリンクする選手がいない。

 いや。

 実は今もいる。メッシだ。

 他者を活かすパサーであると同時に世界最高のドリブラーであるメッシは右WGを担っていた。

 エンリケは2003~04シーズンにライカールトが採用して以来バルサのスタイルになっていた4-1-2-3フォーメーションを変えた。

 超攻撃的な3-4-3ダイヤモンド(3-1-2-1-3)。もちろんホーム(カンプノウ)2ndレグを見据えて。トップ下はメッシ。メッシがいた右WGはラフィーニャが任された。メッシは自由に動き攻撃を創る。

 この陣形でアウェー(ビセンテ・カルデロン)でアトレティコを破り、ヒホンとセルタに大勝、予習は済んだ。


 一方、PSGはトラブルを負う。ここ4年のPSGは圧倒的な強さでリーグ・アンを征し、CL前はレギュラーを休ませることができた。しかし今期はまさかの2位。そんな余裕はなく、ディマリアは負傷からベンチスタートになった。


 昨日、記者会見でエンリケは大言した。『PSGが4点取れたのだから我々が6点取れてもおかしくないはずだ』

 6点と言ったのは1点は取られるかもしれないと思ったからだろう。とにかく攻め倒す。だからカウンターも覚悟していた。

 CLノックアウトラウンドはホーム&アウェー方式、2戦の点数の合計で多い方が勝ち上がる。合計した結果同点だった場合はアウェー側の点を倍にして計算する。

 

 このルールは革命的な発明で、不利なアウェーの試合でも点を取りに行く意味をもたらし、試合をエキサイティングなものにした。

 この試合の場合、第1戦をPSGの本拠地ホーム4-0で終え、第2戦でPSGが1点、バルサが5点取ったとすると合計5-5。同点なのでアウェーゴールを倍にするとPSGの1点が2点になって5-6。PSGが勝ち上がる。つまりPSGに1点取られたらバルサは6点取る必要がある。


 逆転勝利なんて夢物語だ。だがバルサは諦めていなかった。

 今朝。舞台はカンプ・ノウ(バルサのホーム)。アンドレ・ゴメスは起用されず、ラキティッチが入った。

 笛が鳴るとバルサはハイテンポの猛攻、近年バルサの得意とするスローなスペイン流パスサッカーではなかった。息もつかせぬ怒濤の波状攻撃。PSGは専守防衛に徹した。当然だ。点が入らない湿った試合にしてしまえば3点取られてもPSGの勝利。狙ったのは2010年のCLバルサ対インテルの再現だ。このときインテルは1stレグ3-1のリードを守って勝ち抜けた。今回は4-0だからより有利だ。

 

 前半3分、ルイス・スアレスのヘッドで先取点。36分、バルサのチャンスになりそうだったが主審が流せずPSGの反則を取ってしまい、抗議したブスケツにイエローカード。40分、イニエスタのヒールキックに慌てたクルザワが蹴り上げたボールは右後方に、オウンゴール。後半5分、ネイマールがPKを獲得、メッシが決める。

 残り40分で1点取れば追いつく! カンプ・ノウは最高潮。

 しかしPSG監督(ウナイ・エメリ)は後半、余りにもラインを上げ攻撃一辺倒のバルサに対し、反攻の策を忍ばせていた。機を見てカバーニ、ルーカス、ドラクスラーの3人でカウンターを仕掛ける。バルサは幾度か冷や汗をかいた。

 後半17分、PSGの策が実った。カウンターを止めるために犯したFKからクルザワが頭で落としたボールをカバーニが蹴り込み、3-1。


 カンプ・ノウは一気に静まりかえった。

 バルサは後3点取らなくては敗北、に条件が変わってしまった。 

 バルサのテンポが落ちる。しかしメッシ、ルイス・スアレス、ネイマールのプレーは変わらなかった。

 後半22分、ボックス内でスアレスが後ろからヴェラッティに押され倒れるが、ダイビングの判定でスアレスにイエローカード。この判定は逆に見えた。

 後半40分、PSGのカウンター。途中から入ってきたディマリアが駆け上がりGKと1対1だったが後方からマスチェラーノがスライディングタックル。ディマリアの足を刈るが主審はもうファールを取れなかった。マスチェラーノは試合後にこのタックルがPKだったと認めている。ビッグゲームを裁く主審のミスジャッジは一個の人間が背負うには余りに重すぎる。サッカー界のバランスを変え、世界中から批判に晒される。その癖、選手のように賞賛されることはほとんどない。満点を常に求められる難しい仕事だ。

   

 後半43分、ネイマールが角度のあるところからFKを決める。GKはケヴィン・トラップ。この26歳のドイツ人は腕すら伸ばさなかった。『まさか、こんな角度からシュートは来ないだろう』そんなぬるい想いが透けて見えた。


 後半45分、スアレスの首にマルキーニョスが肘打ち、PKを獲得。

 メッシは本来、誰よりも点を取りたい人間だ。しかしメッシはこのPKをネイマールに譲った。二本目のPKはコースが読まれやすいという読みもあっただろう。ネイマールが確実にPKを決める。


 延長3分。PSGのゴールキック。ラテン系のGKなら、まず間違いなく時間稼ぎのイエローカードを提示されるまでゴールキックを蹴らないはずだ。残りわずかな時間を消費することが相手チームにとってどんなに痛いか、考えたことすらないのだろう。今期まだ一枚もカードを貰っていないトラップは余りに無垢むくだった。時間稼ぎは相手を苛立いらだたせる効果もある。相手に気持ちよくサッカーをさせないのも、サッカーだ。


 延長5分。メッシのFK。バルサGKシュテーゲンが空中戦に参加する。跳ね返されカウンターのチャンス、必死で戻ったシュテーゲンがセンターサークル付近でボールを奪い窮地を脱する。ネイマールがクロスと見せかけ中に切り込む。時間がなくても落ち着いている。バイタルからバックスピンをかけた浮き球スルーパス。途中投入のセルジ・ロベルトが走り込み、滑り込みながら軽く触れてゴール。

 6-1。

 

 ハリーポッターシリーズで知られるJ・K・ローリングはラグビー日本代表がW杯で南アフリカを破ったとき『こんな話は小説でも書けない…!』とツイートしているが、この逆転劇も同様の、いやそれ以上の物語だった。こんな小説を書いたら『リアリティーがない夢物語だ』と言われボツになってしまうからね」

CLアウェーゴール方式と並ぶ革命が『勝ち点3』です。昔は勝利で勝ち点2でした。これにより貪欲に勝利を目指す意義ができました。

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