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ホモに恋するFOOTBALL - triumph or beauty -  作者: 幼卒DQN
妖精の羽が抜け落ちる前に
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沙羅双樹の花の色 ①

 やられてから後悔しても仕方ない。


 プランツの攻撃はサイドから始まる。となると以前のようにSB(サイドバック)のマン・ゴーシュをマーク要員としてくのはリスクがある。 

「モーニングスター。沙羅双樹のマークについてくれ」

 彼女は深く頷いた。


 沙羅双樹はモーニングスターに笑いかけた。モーニングスターは無反応。

「ああ、そうですか」思わせぶりにため息をついて。「ご健闘をお祈りしますよ」

 とつぶやく沙羅双樹の声は感情に乏しい。

 モーニングスターは沙羅双樹の太腿にきつく膝をぶつけてやろうと心に決めた。それが自分のやり方だ。

 

 ボールを受けて弓は前を向き直す。と、そこにくわっと口を開けて沙羅双樹がんだ。弓に足を突き出す。

 弓はキックをかわそうと身を翻した。沙羅双樹は空中で足を引っ込め、置きざりのボールを奪う。


「危ない……」

 レイピアがつぶやく。

の審判、名にし負う悪辣な堕天使の黎明頌歌をけ、魂が遊離しているわね」

 スタッフには何か常人には見えないものが見えている。

「もちろん足裏タックルは反則だ。だが主審は沙羅双樹が足を引っ込めたから問題ないと判断した」

 ヴァッフェベンチは酸素が少ない。


 やろうとしていたことをやられてしまった。

 目には目をだ!

 早速、沙羅双樹にモーニングスターが付く。

 

 沙羅双樹はボールを靴の内側で引き寄せ、足の下に置いた。沙羅双樹には当たり負けしない、と判断したモーニングスターは予定通り膝蹴りに出る。

 ゆら~ぁ。

 速くはなかった。しかし的確なタイミングでモーニングスターを避ける。モーニングスターは前のめりによろめく。

 抜いた。

 弓がカバー。

             こっちだよ。

   さあここだ。


 速くない。が、絶えず動く。ゆらゆらと。

 

 沙羅双樹に接近すると、彼女は足の下にボールを置いた。足裏でボールを巧みに操る。何度も足を伸ばすがぎりぎりで届かない。


 ずっと後方。最後尾のティンベーははっとして顔を上げた。

 ガムラン音楽? アヌイナグ踊る(ウドゥユン)とヌゥか楽器ヌ オトゥが聞こえる。


「ジンガだ」エロスが口を開いた。

「ジンガ?」と、手裏剣。

「テンガ?」と、クリス。

「ブラジル流のステップのことですわ。カポエイラという武術やサンバから派生したものだと言われていますわ。ロナウジーニョのドリブルが代表的なジンガ」

 とレイピアは補足しながら、あれ? 私ってなんか知将キャラっぽくない? と自分の立ち位置に満足感を覚える。

 

 のらりくらりとドリブルを続ける沙羅双樹を取り囲むようにヴァッフェは迫った。それを見て出し抜けに沙羅双樹は右サイドにボールを送った。

 右SH芹セリがボールを受ける。芹は進めるだけ進むとマン・ゴーシュに行き当たった。目がいい。これは抜けそうもない。ヒールで落とす。そこに右SB山葵ワサビが上がっていた。ボールを止めて顔を上げると慎重に浮き球クロス。高い弾道で逆サイドへ。

 誰もいない。と、そこに褐色の肌が飛び込んできた。背後からモーニングスターが追ってくる。


 ()()()()()! 園児が昼食の挨拶をするように沙羅双樹は礼をして。ヘディング。サイドネットに突き刺した。


「油断した……」

 モーニングスターが手を膝に付く。

「少し沙羅双樹に人数をかけ過ぎた。サイドががら空き」

 ランスは率直に意見する。

「ドンマイ。集中していこう」

 ショーテルが明るく声を出す。


 守備時も沙羅双樹は大暴れだった。シャツを引っ張る、突き飛ばす、足を振り上げる、足を踏む。反則か、反則ギリギリ。

 仕方ないので沙羅双樹を避けて攻める。すると沙羅双樹の激しい守備が伝播し、プランツ全体の守備まで荒くなっていった。

 そうだ。今日はそこまでして勝ちたい試合なのだ。更に一歩、強く、深くヴァッフェに踏み込む。

 鎖鎌がボールを止めようとした瞬間、鎖鎌の体はピッチに転がっていた。主審はファールを取らない。

「ごぉめんねぇ~」

 ソフトモヒカンの女が大きな体を揺らして鎖鎌の顔を覗き込む。独活ウドだ。


 ボールをもらった沙羅双樹の元にはすぐにヴァッフェのプレッシングが寄せた。

「おー怖い怖い」

 今度こそと意気込むモーニングスターをすかすように沙羅双樹はパスを出す。モーニングスターは荒く息をつき大きく目を見開いて逃げていくボールを見つめた。


 あ。

 そうだ自分の役割は。

 モーニングスターは沙羅双樹を探す。


 沙羅双樹は良さげなスペースを探す。ゴール前はCBが二人いる。ここは無理。沙羅双樹は逆サイドを指さす。左サイドの芹からクロスが来た。少し高いが沙羅双樹は跳躍し飛びつく。そこにモーニングスターが追いついた。

「やっほ!」

 沙羅双樹は口の端を上げた。ボックス内。モーニングスターは強いタックルができない。沙羅双樹の足は小刻みにボールに触れモーニングスターに備える。両腕を左右に広げくねらせる。モーニングスターはそれが気になりだした。

 沙羅双樹はその瞬間に動き出す。

 抜いた。

 錫杖がカバー。

 さてさて。

           こちらですね。

 右足左足ダブルタッチ。小気味よくボールを当てて。

 二人抜き。

 ティンベーが駆け出す。

 沙羅双樹は重心を後ろに傾け、右足を振り上げた。ティンベーはシュートコースを消す。両手を上げてダイブ。

 いいね!

 シュート中止。倒れ込むティンベーをすり抜け、つま先でボールを押し込んだ。


 どうしてそのスピードで突破できるんだ。エロスは二、三歩進み出て立ち尽くした。

 そうだ。イニエスタやルイス・フィーゴ。世の中には速くなくても突破力がある選手がいる。

 沙羅双樹は、そんな種類の人間だ。

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