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ホモに恋するFOOTBALL - triumph or beauty -  作者: 幼卒DQN
妖精の羽が抜け落ちる前に
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決意

今になってようやく書きますが今作の紹介文に『ただひたむきに、ひたすらサッカーについて書いていきます』と書いていますが、これは大嘘です。読めばおわかりでしょうが。

 ……嘘は良くないのかなあ

 フランベルジュは俺を認めると山猫の目を向けた。俺はサングラスに隠れて突っ立ている。

 サングラスはいい。視線をどこに這わせようと気を遣う必要がない。


「えー、今日から皆さんのコーチになる、エロスさんです」

「よろしく頼む」

 何名かが顔色を変えた。

 ぱちぱちぱち。フランベルジュは微動だにしなかった。


 期せずして俺は再び芝の上に戻ってきた。

 しかし雑草の入り交じったひどい芝だ。そして目の前にU-18ヴァッフェ東京の選手達が大体が神妙な面持ちをして居並んでいた。

 

 どうして俺はこんなところにいるんだろう。

 も?

 何か違和感を感じて目をらすと、妙な選手がいた。この暑いのにゆったりとした黒い外套を長身にまとい、黒くつばの広い円錐形の帽子をかぶっている。彼女は口のを上げた。

 !? 俺は目をそらす。

 前にどこかで会ったっけ?

「あの……コーチ」

 フランベルジュが俺の前に立った。顔が真っ赤だ。

 突然だな。

 ……そうかあ。

「なんだい?」

 俺は色っぽい声で応える。

「あの……。ズボンのチャックが。開いています」

 ……。うん。チャックか。そりゃそうだ。今日はこの暑いのにびしっとスーツで決めてきた。そして、練習場に入る前にわざわざチャックを開けてからここに来た。そうじゃないと四日前、股間を全開にしていたことが俺の不覚ってことになっちまうからな。

「気にするな」

「練習は何をすればいいですか」

 質問に抑揚よくようがない。一転、フランベルジュの目には力があった。すっと自然に俺を射貫いぬく。じっと威圧的に俺を虎視する。

 ああそうだ。サッカーの練習をさせなけりゃいけない。

 で?

 どうすんだ。

「普段やっているようなアップをしてくれ」

 フランベルジュは無感情にきびすを返した。

 

 ランニングで体を温め、ストレッチで筋肉の可動域を広げ、エクササイズで整える。

「それにしても外国人が多いな」

「私とは違い、上のスカウトはプロですからね。国籍を問わず優秀な選手を集めています。私が知る限りの情報をさっきのノートに書いておきました。では、以後、よろしくお願いします。何かありましたら教えてください」

 そうしておっさんAはさっさと行ってしまった。

「コーチ。何をすればいいですか」

 その白い肌と高い鼻梁からすると違和感を禁じ得ない、流暢な日本語だった。

 俺は濃淡のはっきりした流雲を見上げて風が強いのに気がついた。

 

サッカーって、何をすれば強くなるんだろ?


 まあ、持久力が必要なスポーツだというのは知っている。体と体がぶつかり合う激しいスポーツだとも。

 で?

 フランベルジュの目は俺の能力をはかろうとするようにぐいっと乗っかってきた。


「普段やってるような練習をしてくれ」 

 俺にのしかかる重しがずるっとずれた。

「わかりました」

 フランベルジュの視線が俺をざくざく刺す。 

 そうだ。俺はサッカーのこと何にも知らない。

 

 背後に気配を感じて、振り返る。

「ねえ、アンタさ、ボッKINGでしょ?」

 この前の試合で目についた小柄な10番。俺は目を見開いた。おっさんAに渡されたノートを開く。10番……手裏剣だ。手裏剣は口のを上げた。


 息が、吸えない。

 ぱらぱらと手裏剣の体ががれ落ちる。芝生も。背景も。そうして無地の風景ができあがる。

「スタッフちゃんが教えてくれたんだ」

 手裏剣の声はまるで二次元アニメから飛び出してきたようで耳の奥にキンキン響いた。めまいがやむとぽつぽつとモノ達が視界に浮き出た。さっき俺に微笑んだ外套の女子が手裏剣の背中から首に手を回し、しなだれかかる。この暑苦しい女がスタッフか。

「おそらく、ボッKINGはサッカーに関しては門外漢。優しい闇のお導きで召喚よびだされたに違いないわ」

「どうするの?」

「とりあえずは伏せおきましょう。有事の際には漆黒よりお伺い致します」


 辞めよう。大体俺に務まる仕事じゃねえ。

 練習が終わると、スタッフと手裏剣に声を掛けた。

 いざ二人を目の前にすると、ぬるりと真っ黒な大蛇が鎌首をもたげ、俺を取り巻いた。いやいや。なんだかスタッフに感化されてるな。ぶんぶん腕を振るって大蛇を細切れにする。

 

 俺が辞めた後、ボッKINGがサッカーのコーチにやってきたと言いふらされたらどうする????


「お前らは可愛い。そしてこれからのプレーに期待している」

「気の毒に。優しい闇に身も心も牛耳られたのかしら」

 スタッフは俺の頬に手を当てる。すげえ熱い。

 手裏剣はコロコロ笑っている。ああ、俺は何を言ってるんだろう。俺はアドリブがかない。手裏剣が口を開く。

「筋肉のつけかたぐらいは知ってるんでしょ? 少しは働きなさいよね。あ、そうだ。あたしたちは必ずスタメンでフル出場させること。あたしはトップ下でよろしく」

 脅迫じゃねえか。文句を言いたくなったがお口チャック。下手なことを言えばどんな目にうかわからねえ。

 俺はおっさんAに挨拶することもなく家路についた。


 現役を退いてから車に乗らなくなった。どこに行くにも自分の足を使った。つまり走った。移動とは、貴重な体力維持かつ運動不足解消の機会である。君もやればいい。四つん這いじゃなくてもいいからさ。

 なあ、俺。このまま日本を出てどこか辺鄙な国にでも行ってしまおうぜ?

 そうして手裏剣が。俺のことを言いふらして。んああ!


 俺は住処に戻るとパソコンに向かい、動画配信サイトでサッカーの試合をクリック。同時に、サッカー専門誌のバックナンバーも何十冊と注文。ゲームも買った。FIFA 16、ウイイレ、Football Manager。サッカー有料チャンネルにも加入。

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