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ホモに恋するFOOTBALL - triumph or beauty -  作者: 幼卒DQN
妖精の羽が抜け落ちる前に
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リスクマネジメント

 オー・ド・ヴィはここ最近経験したことのないような疲労感を覚えていた。

「フランベルジュに集中しすぎた。今、点を決めたFWが今日、まったく、何もしていなかったからつい存在を忘れていた」

「聞こえるよ」

 ヴェンティラトゥールがたしなめる。オー・ド・ヴィが口を結ぶ。いや、聞かせようとしたんだが。ああ、意地が悪いな。いらいらする。


 刀は聞こえたが、聞いてはいなかった。

 オー・ド・ヴィが苛立ちながらボールを取りに行く。しかしフランベルジュがもうボールを手にし、自陣へと急いだ。

「おい! お前もさっさと戻れ!」

 オー・ド・ヴィが叫ぶ。

 刀は一歩も動かず立ち尽くしていた。


 それがしが、首級ごおるを挙げた!


 ヴァッフェ東京に入団して、初めてのことだった。

 日々の練習が走馬燈のように駆け巡る。

「駄目だ。帰ってこない」

 フランが夢うつつの刀を担いで自陣に持って帰る。


 横浜の笑顔は渋面に変わった。

 このチームは接戦クロスゲームに慣れていない。反撃は薄弱に終わり、間もなく長い笛が鳴り響いた。


  

「やっぱりクラウンエーテルがいなかったのは痛かったな」

「確かに」

U-16(ヨルダン)であいつらも頑張ってるだろ」

 エレメントの面々は客席に一礼した。

 観客の拍手は温かい。日々の成長を見守っている。

 エロスは羨ましく思った。こんなに客が入ったら普段の練習にも身が入るだろう。

 

 くそBBAがやってくる。

「一言ご忠告申し上げます。サングラスは止めた方がいいですよ。子供達が怖がります」

「そうか」

 あいつら怖がってるんだろうか。

「いいゲームでした」

「そうだな」

「フランベルジュは想像を超えていました」

 なんだ意外と素直だな。とりあえず、悪い人ではない、か。

 なぜ女なんだ。

 


 中華街で早めの夕食を摂り、バスは東京に向かう。

「中華料理は油を多く使う。カロリーが増えるからと油は往々にして毛嫌いされるが脂溶性ビタミンの吸収率が上がるので野菜を食べるときなどは使った方がいい。ノンオイルドレッシングなんかはとてもおすすめできない」

 

 今日の試合、ランスは代えたくなかった。疲れていたカットラスを代えるつもりだったのに。

「ランスという男が主人公のゲームがあるんだが、いやまったく、同じランスでもお前は正反対の性格をしてるな」

 ランスはキョトンとしていた。そりゃそうだ。

「いや、まったくですよねえ」

 俺は振り返った。雲母女史(せんせい)は急にそっぽを向く。

 雲母女史(せんせい)……。結構美人なのに。

「あの……ランス10、楽しみですね」

と、振ってみる。

「そう、ですね……」

 サッカーにすべてを投じる女子を満載するバスで、何を話しているんだろう。

 まあまさか雲母女史(せんせい)もこの俺がエロゲーに求めているのはくまでゲーム部分でエロシーンはskipしてるなんて思わないだろうなあ。男女の性交に興味はないもんでね。そんなことをつい口にしてしまったら「貴方はエロゲーを冒涜ぼうとくしている!」なんて激昂するかもしれない。

 と、思っておいて、俺は頭を抱える。だからこの思考が駄目なんだっつーの! ああ、エロくなれ俺。

 

 

 明くる日、出勤前に俺はコンビニに駆け込んだ。

 金輪際WAONは使わないと心に決めている。この前とは違うクレカを差し出した。はははイオン潰れちまえ! 犬に魂を売りやがって!

「これ下さい。袋は要りません」 

 店員は戸惑う手でピリピリポリ塩化ビニルを裂いて中身を取り出した。

「どうぞ」

 俺は素手で森永の濃厚チーズスティックをつかんだ。

 あれ? 何かがおかしい。ああ、そんなことより、溶けちゃう。俺は手をべったべたにしながらアイスを口に運んだ。うまい。満面の笑みだ。なにせこのアイス、20%がチーズ。すんげえコクだ。店員も愛想笑いを浮かべている。俺は店員とにらめっこしながら最後の一口を終え、すっかり汚れた手を舐め回した。そして、首をひねりながらコンビニを出る。

 俺からチーズのいい香りがしたのだろう。突然、そこに繋がれていた犬が吠えだした。ひいいい。全速力で走り出す。



 そして今日も指導は始まった。今日はミーティングルームからだ。

「なんだろう。甘い匂いがする」

 どうやらマン・ゴーシュは犬並みに鼻が利く。

「昨日の試合は反省材料がいっぱいあった」俺はホワイトボードにおはじきを並べる。スタッフの顔が曇る。一点目の失点の場面だ。

「オー・ド・ヴィはわざとパスコースを空け、スタッフのパスを誘った。スタッフは狙われていたことに気づかなかったのも問題だが、何よりリスクを考えなければならなかった。端的に言って自陣ゴールに近ければ近いエリアほど安全度の高いプレーをするべきだ。ボールを奪ったとき、味方は全員で攻撃体勢に移る。守備陣形を解除する。そこにバイタルエリアでボールを奪われたらそりゃこうなる」


 そうは仰いますがあんなに攻められていては反撃の一つも狙いたくなりますわよ、と思ってはみたものの、それは言い訳に過ぎない。

 自分が悪かったことは認めるしかなかった。

ひるがえって、攻撃時にボールを大事にし過ぎるのは問題だ。チャンスがあれば喜んでボールを奪われるリスクを負うべきだ。

 

 敵陣ゴールに近い場所(アタッキングサード)でボールを奪われたとしても自陣ゴールは遠い。ボールがこちらに到達するまでに守備陣形を作ることも可能だ。リードを奪うまではどんどん勝負していけ。失敗を恐れるな。でもここでボールを奪われたら失点のリスクがあるぞという場面では失敗を恐れろ」

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