こんなはずじゃ
「先程はお恥ずかしいところをお目にかけました」
そう言っておっさんは自嘲する。
俺とおっさんがやってきたのはヴァッフェのクラブハウスだ。簡素で安普請な造り。
俺の鼓動は高鳴った。
「あの……。社会の窓が開いてますよ」
はっとして首を曲げ、ジーパンを見た。全開。して真っ白なブリーフが覗いている。カッと顔が熱を帯びる。今日、ずっと俺は白ブリを見せびらかしてきたのか。まずい。俺が相当なうっかりさんだと思われたら俺の評価が落ちる。
「わざとです」
俺は胸を張った。
「ああ……。そうですか。……座ってください。少々お待ちを」
おっさんが部屋を出て行って、すぐにもう一人年輩のおっさんがやってきた。
まさか……三人で? 俺は震えた。
盆に茶色の液体の入ったコップが載っており、俺の前に置かれた。俺は勢い込んでそいつをつかむとのどを鳴らして飲んだ。さあ来い。
「あの、突然に恐縮なのだけれど、その……君のコーチの資格を何かで証明できないかな?」
俺はもう一人のおっさんに目を遣った。ああ、そんなこと言ったっけ。うーむ。まあ、箔を付けとくのも悪くない。
「出そうと思えば」
俺は立ち上がった。
「突然なんで、こんなものしかないけれど」
俺は常に首に掛けている物がある。そいつをどやっと見せてやった。おっさんAはまばたきをする。縁の黒いめがねを直す。
「本物ですか?」
「ああ」
「Olympiad London 2012……。ロンドンオリンピックの金メダルだ!」
「触ってもよろしいですか? ……。これは本物だ! 本物に触れるなんて」
はったりだ。バレたらどうなるかわからない。でも明らかに二人は興奮している。まあ、この場だけやり過ごせればそれでいいからな。
「現役は引退したんですか?」
「ああ」
おっさんとおっさんは顔を見合わせた。
「あの、私どもにご提案があるのですが」
「うん?」
「私どもには、サッカーの経験がある者がおりません。そこであなたにあの子達を指導していただけないかと思っております」
「は?」
茫然自失。そして俺の体には一向に何の変化も起きなかった。
「あの……もちろん無償でと言っているわけではありません。些少ながら手当も出します」
あっと、我に返った。いけない。そうだ。俺は更生しようとしていたはずだ。はずみで右手を差し出した。
「やる」