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ホモに恋するFOOTBALL - triumph or beauty -  作者: 幼卒DQN
妖精の羽が抜け落ちる前に
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香川真司論

「タイ戦はご覧になりました?」

 フランはいつも俺にお小言をくらわせる癖にこうやって済ました顔で感想を求める。なんて図々しい奴だ。

「ああ。寝そうになる試合だった。三浦がいなきゃ寝てたな」

「三浦?」

「なんでもない。まあ、

この二戦は長友の不在が響いたな。彼のスピードがあればUAE戦も勝っていたと思う。俺の中では日本で最も優れたフットボーラーが長友だ」

「長友も含め、欧州組は大多数が苦戦しています」

「まず留意すべきなのは日本人の立ち位置だ。欧州クラブは可能であれば日本人を獲得し、活躍させたい。どうしてか解るか?」

「解りません」

「日本の金が欲しいんだ。まあサッカーに限らんがね。日本企業のスポンサー料、日本人選手の名が刻まれたユニホーム、日本人観戦客が落とす金、高くふっかけても払ってくれる放映料……。実に有益だ。結果、日本人は実力より高いレベルのクラブに行ってしまいやすい」

 フランは小さくため息をついた。ことによると彼女は俺の解答を予期していたのかもしれない。

「どうして香川は代表で活躍できないのでしょう?」

「香川は日本人の特徴を際立たせ具現化したような選手だ。高いテクニックを持ち、視野が広く、敏捷性があり、体は小さく、外国語が苦手。

 

 もしかしたら全盛期ピークを過ぎているかもしれない。香川も中田ほどではないが若い頃はずいぶん奔放ほんぽうな食生活をしていたようだ。キレは明らかに落ちた。クロスは上手くなったがシャドウストライカーとしてドリブルに有用な敏捷性を失ったのは痛すぎる」

 俺に促されてフランと手裏剣が腰掛ける。

「香川の性質を示唆したものとして南アフリカW杯日本代表監督岡田武史の言葉がある。

『彼は自由を与えないと輝けないが自由に活かす余裕がチームになかった』」

「自由……」

「自由とはどういう意味か。二つの可能性があると思う。前者は攻撃面での自由。香川は一つ所にとどまらず、サイド、ゴール前、バイタルエリア、様々な場所に動いてマークを外そうとする。運動量の多さは特長だ。しかしやって欲しいプレーを指示しても状況をかんがみず自分のサッカー観と感覚にたのんだプレーを優先してしまう。得意とする潤滑油リンクマンとシャドウストライカーとしての役割、ワンツーによる突破。違うパターンのプレーをして本命への布石を打つとか駆け引きをするなどの引き出しはゲームメーカーならもっと持っておくべきだ。タイ戦でも上手くいってないと思ったら、変化をつけたプレーを選択し相手を混乱させるなど、やりようはあったはずだ。香川には対応力がない。苦戦していると感じても同じ事をやり続ける。


 そしておそらくこちらが本命なのだが、後者は守備面での自由だ。香川はフィジカルコンタクトに弱い。そして体の大きな選手がドリブルして来るとタックルに行かない。行くときは相手の背後からぐらいだ。何度かケガをしたことで臆病になってしまったのだろう。

 香川はビッグマッチになるとベンチ行きになることが多い。どうして、だ?」 

「コーチは本当に意地が悪いですね。品性下劣な人間です」

 どうやら皮肉でも冗談でもなかったし、フランの言葉の抑揚には一部の緩みもなかった。そして彼女の顔はどんな感情も有してはいなかった。ああ、そうかい。

「香川は料理人だ。猟師ではない。他人が狩った獲物ボールを貰ってプレーする選手だ。

 香川がドイツに渡った2010~2012シーズンのドルトムントはドイツではバイエルンと肩を並べるほど強いチームだった。ほとんどの試合でハーフコートゲームになった。ドルトムントがやたら強いので対戦チームがリトリートせざるを得ない。そしてずっとドルトムントの攻撃が続く。そうなると如何いかにゴールをこじ開けるか、がとても重要になった。美味しい肉や魚がまな板の上に乗っている状態だ。そして料理人が腕を振るう。いい素材と料理人は足し算ではなく乗算の関係になる。(プラス)と+が掛け合わされれば爆発的な攻撃力を生む。ドルトムントが攻勢に出て守備側は混乱状態。香川の輝く時間だ。ボックス内(ペナルティエリア)に侵入する。フィジカルの弱さが、そこでは武器になる。DFがちょっと手を掛けて香川が倒れてしまったらPKだ。CF(センターフォワード)が香川に良質なポストプレーをしてくれるバリオスだったこともあり、自由を与えられた香川は躍動した。


 ひるがえって、日本代表ではどうか。ブラジルW杯、対戦国はどこも日本より強いチームだった。すると日本の守備の時間が増える。単純な話だ。そうなれば香川は(マイナス)になる。乗算すると大変なデメリットになる。それなりのフィジカルを有する選手から見れば香川の守備するエリアは自動ドアだ」


「crycrycry! 真っ暗! まっく~らあ! 暗い暗い暗い! Don't Cry!」

 外で誰かが叫んでいる。おそらくスタッフだろう。

「光がないと影はできない。香川のようなシャドウストライカーは、太陽のように輝く強いチームでこそ活きる。めざとく影を見つけて飛び込み、決定的な仕事をする。しかし強豪相手となると獲物はなかなか捕まらない。日本がW杯で対戦する国はどこもかしこも強豪だ。となればやはり同様。光はないから影もない。侵入しても易々《やすやす》とDFに見つかってしまう。

 

 今、言ってもせん無きことかもしれないが、香川はMFではなくFWになるべきだったと思う。MFにしては守備力がなさ過ぎるし、ミドルシュートが打てるパワーもない。だったら、ボックス内(ペナルティエリア)でちょこまかと相手が嫌がる動きをする選手になったほうが良かった。ワンタッチプレーでの得点やアシストも得意だ。

 

 残念ながら日本にはトップ下信仰がある。『トップ下、攻撃を取り仕切る! かっこいい!』みたいなね。そんな日本人の精神性が香川に影響を与えているかもしれない。


 余談だが、一説によると日本人がトップ下信仰になったのはキャプテン翼の影響もあると言われている。これを反省し作者の高橋陽一は破天荒なCF(センターフォワード)が主人公の『ハングリーハート』を描いている。人気は出なかったがね」


「手裏剣ちゃん。顔色悪いよ?」

 そういえばさっきっから手裏剣がずっとおとなしい。

「そう……かな」

「ドイツ人は真面目で人種差別は比較的少なく、黄色人種である日本人も受け入れられやすい。組織力を求められること、ファールに厳格なこともフィジカルに弱点を持つ日本人にとってはプラスだ。迷ったら日本人はブンデス(ドイツ)に移籍した方がいいだろう。ブンデス勢は経済の繁栄を背景にここ数年間、良質な選手を獲得してきた。おかげでだんだん日本人が活躍することが難しくなっている。もちろん、その中で活躍できれば力をつけるチャンスでもある。周りのチームが力をつけてきたこともありドルトムントもリーグ戦で気を抜けない。若い将来のスター候補(ワンダーキッド)も加入し、香川にとっては厳しいシーズンになりそうだ。あきらかな格下相手になら無双《大活躍》だろうから、下位相手のリーグ戦や国内カップ戦、CLレギア・ワルシャワ戦はチャンスが来るだろう。しかし二列目に怪我人が出ないとそこすら若手の経験を積ませる場になるかもしれない」

「本田圭佑はどうですか?」

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