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ホモに恋するFOOTBALL - triumph or beauty -  作者: 幼卒DQN
そして自分の足で立つしかなかった
134/148

二重人格

 これで1点差。 

 ヴァッフェは少し、活気づいた。


 相変わらずヴァッフェのボール保持率は低い。だがひとたび奪ってしまえば横浜はハルバードのキープ力に苦慮。横浜は度々ピンチに見舞われた。

 ヴァッフェの目の前をちょろちょろとボールが行き来する。だがヴァッフェは食いつかない。「取れないボールを追いかけ回しても仕方ない」と、事前に剣は伝えていた。

 だが、リードしているのは横浜。横浜は少しずつ攻めの姿勢マインドを弱める。仕方なく東京は前進した。


 よし、行こう。

 

 横浜が応じた。だがパス回しに本来のスピード感はない。

 今日の芝は摩擦係数が異様に高くボールの勢いが止まってしまう。浮き球にしてもボールスピードは望めず、ゴロのパスより蹴るときに神経を使う。

「無理はなさらないでくださいまし!」

 シロガネーゼが声を出す。

 奪われたらハルバードに出される。安全セーフティにパスをつなぐ。しかしWGヴェンティラトゥールがブレーキになった。リズムが悪くなる。

 ヴェンティラトゥールはかろうじてマン・ゴーシュをかわして大きくバックパス。GKソリッドがボールを受けた。作り直し。


 CBオー・ド・ヴィはCHクラウンエーテルに緩いパス。クラウンエーテルは小気味よくボールを処理しハルバードがチェックに来るとCH辰砂にパス。


 やはり、私たちは徹頭徹尾これだ。

 ロンド(パス回し)

 確かに芝は悪い。不適かもしれない。でも、このサッカーをするために、私たちはエレメントにいる。駆け引き、頭脳戦で勝利するサッカーだ。


 じりじりとヴァッフェは間合いを詰めた。そしてハルバードがボール狩りに駆ける。それを見て手裏剣とククリも続いた。

 

 ボールをよこせ!

 渡さない!


 気圧けおされるようにクラウンエーテルと辰砂は後退。


「危ない……か?」

 剣はつぶやいた。

 左SB鐵がゆったりとロングフィード。定位置からわずかに下がったST銀将が左サイドでボールを受ける。右SBショーテルは銀将のドリブルを恐れて距離を詰められない。銀将はタメてからバイタルエリアにパス。

 スタッフの目が大きく開いた。パスを受けたのはCB(センターバック)オー・ド・ヴィ。後ろから駆けてきた勢いそのままぐいっとボックスに潜り込む。

 どっちがオー・ド・ヴィにつくの? スタッフと錫杖は躊躇。オー・ド・ヴィは右足を強振。シュートはコースが甘くティンベーががっちりキャッチ。こぼれ球を期待して詰めた銀将をがっかりさせる。


 ハルバードにはオー・ド・ヴィと鐵が当たった。左SBには金閣寺が戻っている。横浜は今日のスタートポジションに戻したのだろうと剣は少し安堵した。CBの鐵にSHククリの相手はスピード面でしんどかったのだろう。ともかくこれなら対処できる。

 いずれ、体力差で戦況は傾くはずだ。


 ただ、ヴァッフェが有用な攻め手を失ったことも確かだった。

 時間がたつごとに存在感を増しているのがDH(アンカー)漂白剤だった。ヴァッフェが起点にしようとする選手にいつの間にか忍び寄っている。剣はランスに期待していたのだが現状、うまく封じられていた。ランスはすっかり色を失い目つきが死んでいる。


 今度は右SBシロガネーゼが上がってきた。左からは金閣寺も。なんとか攻撃をしのいでさてカウンターと思って顔を上げると、WGのヴェンティラトゥールがちゃっかりSBの位置にいる。銀将も下がって拙者はSBでござるとすまし顔。


 気が付くとCFハルバードの隣にはフランが立っていた。フランはハルバードとよく競り合い、東京は攻撃の計算が成り立たなくなる。

 それだけでは済まなかった。右も左も、前も後ろも関係なく横浜はポジションを入れ替えた。この試合、ずっとマンツーマンで戦ってきたものだから東京はギャップに面食らい混乱。ティンベーの奮闘がかろうじて東京を救っている。


「人には付くな! ゾーンで守れ!」

 剣はテクニカルエリアから叫ぶ。 

「たいしたものですね。横浜の選手達のサッカーIQは甚だ高い。全員、すべてのポジションがこなせるかもしれません」

 小野は呆れたようにつぶやく。

「それだけじゃない。全員スキルフルだからできる芸当だ。いいなあ。楽しい。本当に楽しい。わくわくする。まさかこの夏の間にトータル・フットボールまで着手していたとはな。

 これで前の選手は運動量を減らして後ろで休むこともできる。理に叶った戦術だよ」

 

 

 シロガネーゼはCK(コーナー)を蹴りにサイドに出ると横浜から駆けつけたサポーターに叫んだ。

「もっとわたしをご覧なさい! この試合の主役はわ・た・し!」

  

 ……そうでござる。

 白金ーぜはそうやって高飛車に、前に構えているのが似つかわしい。まったく。うちはみんながみんな攻撃を好む。

 銀将は後ろで一人ぽつんと次の手を考える。


 ようやく、横浜の攻撃に慣れてきたところだったのに。また、初めから。

 まるで敵の構成がランダムなタワーディフェンス。噛み合わせを思案しどう守るか各自が即興で判断するパズル。神経をすり減らす、東京にとってストレスフルな時間が訪れた。

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