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ホモに恋するFOOTBALL - triumph or beauty -  作者: 幼卒DQN
そして自分の足で立つしかなかった
132/148

ゾーン

 守備になるとカットラス、ククリがプレスバックして、横浜のボール保持者をつつく。余裕がなくなったところを後ろからプレスしてボールを奪い、ハイボールをハルバードに。

 これが前半のパターンでそれなりにボールを奪えていた。


 ククリがまたもボールを追いかけ回す。

 CH辰砂はつま先にボールを引っかける。CHクラウンエーテルへ浮き球パス。


 いらっしゃい。

 クラウンエーテルはももでトラップ、そのままリフティングを始めた。

めてんのこの腐れボケナス!」

 カットラスがクラウンエーテルに詰める。クラウンエーテルは微塵みじんも表情を変えず。いや、もともと破顔して。浮き球で銀将にパス。金閣寺がささやく。

「まあまあ。下品な言葉遣いやなぁ。女の子がそんなこと言いなや~。……あかんえ?」

 

 ピッチの状態が悪いなら浮かせてしまえばいい。

 横浜は時折、ボールを浮かせてパス回しをした。

 剣の目から見て、自分達とはテクニックのレベルが違うと感じさせられた。カットラスは持ち場を離れてどこまでも追いかけていく。


 横浜はできたスペースを起点に右サイドから攻める。辰砂はカットラスを引きつけておいて右WGヴェンティラトゥールにふんわりパス。

 チャンスだ。

 しかしヴェンティラトゥールの前にはマン・ゴーシュが立ち塞がった。この子、見た目は中学生にしか見えないがなかなかどうして難敵。フェイントしてもぶれず正対し、抜き所を作らせない。

「ご機嫌よう!」

 右SBシロガネーゼが後ろから駆け上がり援軍に来てくれた。彼女をマークするはずのカットラスはいない。仕方なくDH(アンカー)独鈷杵がカバーに向かう。独鈷杵が近づく前にヴェンティラトゥールはパスを選択。シロガネーゼはかちっとボールを止め、クロスを放った。

 フランはバイタルエリアにいた。アクセルを踏みこみゴールに向かう。薙刀が食らい付いていく。しかし走力の差でわずかに引き離された。ゴール前のスタッフと競り合いながら頭一つ抜け出しヘディング。ゴール右上隅に飛んだシュートにティンベーは右手を伸ばしまたもボールを弾いた。着地したフランの右足に薙刀は膝を突き立てる。弾いたボールをマン・ゴーシュがクリアー。


「フラン?」

 ヴェンティラトゥールが呼びかける。

 フランはわずかに顔を上げたのみで動かなかった。


「……どうして倒れないんだ」

 剣は首をひねる。そこで倒れたらPKがもらえるだろう。着地時に蹴られたからフランは抵抗できなかった。薙刀は調子に乗って右足を削りまくっている。


 思い出せ。

 お前の右足には古傷がある。


 そろそろ限界だろう?

 剣は横浜ベンチを見やる。ピッチサイドで原子時計が正岡子規かと思うほど左を、ピッチの方を見ている。おそらく、フランの様子を注視している。

 もう交代してくれよ。

 

 フランは歩き始めた。風に薄紫のシュシュから伸びる白髪が舞う。



「ノッちゃったね」

 漂白剤は笑顔でつぶやいた。

「まあ、勝ってはいるけど」

 鐵はあきれ顔だった。

 2人の視線はティンベーに注がれている。

 後半のティンベーはなにか威圧感めいたものがあった。これはさすがに入っただろと思われたシュートにぐわっと飛びついてくる。恐ろしいまでの反応速度で手が伸びる。

 オー・ド・ヴィは口をとがらせた。

 以前、ヴァッフェと試合したことがある。そのときもあのキーパーは突然変身した。だが、それも長くはもたなかった。一点決めたらまた元に戻るはず。

                

 ボール保持率ポゼッションは横浜が8割方支配。しかし最後の壁が突破できない。

 フランは水を飲みにピッチを出た。しかし忠義にあつい薙刀はフランのお供。

 51分。

 自分はまだできる! フランは後ろにスプリントしてボールを受けると痛みをこらえドリブル。ランスを抜き去る。独鈷杵はフランの右足を引っかけファールで止めた。


「フランを片時も離すな!」

 剣は叫ぶ。


 ゴール正面。だが30mはある。

「わたくしが蹴ります」

 フランは躊躇せずボールを拾い上げる。


 薙刀はフリーキックまではさすがに関与できない。

 助走。何気なく、振り抜く。

 ボールは高く浮いた。しかし急激に落ちる。

枯れ葉(フォーリャセッカ)!」

 剣は初めて見る。

 冬、木は水分を奪われないよう、葉を落として春を待つ。ボールはティンベーにadidasの6文字をしっかと見せつけたまま。無回転なのでボールの後ろの空気が渦巻き、ボールは奇妙に揺れる。ジュニーニョ・ペルナンブカーノやマルコス・アスンソン、日本人では本田圭佑などがその使い手だった。


 ティンベーは大きく息を吐いて。体の力を抜く。

 マジュンヤサ(一緒だ)

 魚を素手で捕まえる時に似ていると思った。水中で急激に曲がる。その動きはなかなか予想がつかない。ボールは枯れ葉が舞い落ちるようにゆらゆらと。

 ティンベーは両手を突き出しボールを弾いた。バーを叩いてボールは真上に、ゴールラインを越えた。ティンベーが必死に掻き出すももう遅い。

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