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ホモに恋するFOOTBALL - triumph or beauty -  作者: 幼卒DQN
妖精の羽が抜け落ちる前に
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思惑

 7月8日は朝からとある女子高に乗り込んで試合だった。刀のハットなどで大勝。

 現地解散して電車で世田谷区に戻り、レイピアと落ち合う。 

 ジャージを着たままのレイピアについてって蒸し暑い代沢二丁目を歩いていくと、ふっと視界が開けた。

「へー、ずいぶんとご立派なレストランだな」 

 住宅街に突然、洋風建築の城が現れた。敷地はざっと見て25mプール10面分はある。やたらと尖塔が並んでいて、銃眼まで見える。レイピアはどこかと戦争しているに違いない。一対の騎士像、翻る紋章旗、近づくと鉄の門が轟音と共に上がっていった。

「さ、お入りになって」

 なるほど……まごう事なきお嬢様だ。


 さすがに兵士は見当たらなかったが、中庭で使用人が六人出迎えてくれた。放し飼いのシェパードが数匹寝そべっていて俺を観察。死を覚悟した。火曜にヴァッフェに押しかけてきたじいさんがにこやかに駆けてくる。

「お待ちしておりました!」

「実はね、ここ、あたくしの両親が建てた別荘なのよ」

 どうだ驚いたか的、得意気な顔でレイピアは微笑む。

「まじか! そいつはすごい! 早く中に入れてくれ!」 

 と、俺は両手を挙げて感嘆してやった。犬に気を取られてそれどころではない。

   

 レイピアは自室に戻ると言って階段を上った。城は部位によって様々な石を用いて造られており天井近くにはステンドグラスが嵌められている。そこらの壁際には美術品的な何かが整然と並んでおりここでサッカーしたら叱られそうだ。

 じいさんに案内された大広間では見慣れた一団が調律をしていた。俺の顔を見るやグランドハープに手が伸びて演奏が始まる。フォーレのシシリエンヌだ。 

 フルートが胸を刺し貫く。無性に札幌に帰りたくなった。

 座ると、見たことない卦体けったいなテリーヌのゼリー寄せと野菜がオサレに盛られた皿、食前酒アペリティフが運ばれてきた。そこにコーラルピンクのシフォンワンピに着替えたレイピアが現れ、俺の正面に座を占めた。四方の壁からご先祖様の肖像画が俺ににらみをかせておりひどく落ち着かない。

 

「さ、さ、どうぞお召し上がりください」

 じいさんが白ワインに香草を混ぜて俺にサーブ。

「睡眠薬とか入ってないよなあ?」

「滅相もございません」

 仕方ないので一気飲み。

「箸をくれ」

 みんな一口で喰ってやる。食べやすくカットしてあるのがフレンチのいいところだ。

「今、悩んでいることがあるのよ」

 レイピアはフォークで器用に食べていく。仕方なく俺は「何がだ」と相づちを打つ。

「あたくしが貴方とお付き合いすることになったら、ヴァッフェの皆さんが悲しむでしょう? それが気がかりなのよ」

「確かに」

 ん? 

 やっぱり何かおかしい。


 そこからスープが出てきて魚が出てきてフルコースを食わされた。名前が出てこないが、確かドビュッシーの曲が始まる。

「お前は日本生まれか?」

「いいえ、フランスです。六年ほど前に日本へ留学してみないかというお話があって、両親がこの家を建てましたの。以来、あたくしはここにきょを構えていますわ。あたくしの部屋に参りましょう」

 

「ここに殿方が来るのは初めてですのよ」

 現代に生きる貴族、なんと華美でメルヘンな部屋だ。天蓋付きベッドなんて初めて見た。

「料理はいかがでした?」

「美味しゅうございましたよ」

「コーチのお好きな料理は何ですの?」

「エビ餃子だな。日本人は海老が大好きだ。うちでは皮から作るんだ」

「まあ! それは本格的!」

 レイピアは思いの他、驚いた様子だった。中華料理なんかは余り食べないのかもしれない。


 コーヒーを啜りながらチェス盤としばし、にらめっこして「さて、帰るわ」と立ち上がった。

「ああん……お待ちになって。もうすぐ両親が帰ってきますの。紹介したいわ」

「いや、やりたいこともあるし」

 レイピアは目を大きく開いてせわしなく動き回って。俺のそばに立ち、あさっての方を向くと「それにしても……紳士ですのね」とつぶやいた。

「たぶん……使い方を間違ってる。高校一年生が言うセリフじゃないぞ」

「以前読んだ小説にこんな台詞がありましたの! 言ってみたかっただけですわ!」

 と、急に声を荒げてレイピアはベッドに突っ伏した。

「あの……殿方というのはこういった密室に二人きりにされたら、野獣のように女に襲いかかると聞いたのだけれど」

 野獣と言うより色情魔じゃないか。

「お前さ、彼氏とかいたことあるのか?」

「……ありませんわ。仕方ないのよ。あたくしと釣り合う殿方がおりませんもの」

 そいつはお気の毒なことで。

 みんな、サッカーが恋人なんだな。

「……またお越しになって。うちの者にエビ餃子を作らせますわ」

 まじか!

 ここのシェフが創ったエビ餃子なんて、どんだけ旨いんだろう。

「わかった」

 ああ。抗いきれない。

 

 頭ん中はエビ餃子でいっぱいだった。じいさんの運転するシトロエン・C6に乗り、家の近くで下ろして貰う。

 18時。家に帰ると寝ぼけまなこのフランと三浦が俺を出迎えた。ベランダにはフランが履いてきたラメラメしいミュールが転がっている。

 PCもスリープから起こして、クロームを開く。……今日も順調にヴァッフェは負けていた。カップ戦含めて1勝もしていない。記録的なんじゃないだろうか。

 2ちゃんねるを開く。まず、芸スポを。

「ファッ!?」

 

『東京ツーリスト社長がヴァッフェ運営からの撤退を示唆』

当時は5ちゃんねるではなく2ちゃんねるでした・・・

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