それぞれの”すき”
すき。
この一言で、世界が変わって見えるなんて思わなかった。
「美ー緒っ。なにニヤケてんのー」
「り、梨子……っ。に、ニヤケてなんかないしっ!」
だけど、そんな言い訳なんか通じないくらいに、たしかにあたしの頬は緩んでいたんだ。
梨子ぉ……。絶対面白がってるじゃん。
「梨子はさ。いないの?好きな人、とか彼氏とか」
そう言うと、梨子は真っ赤になって。
「わ、ワタシのことはいいじゃん、どうでも!ね?」
あ、この反応……。これはいる。
「そんなこと言わずにさぁ。いるんでしょ?」
我ながら意地が悪いかなと思ったけど、知りたいものは知りたい。
「美緒ってば自分のことは棚にあげて……。しょうがないな、でも内緒だからね?隣のクラスの、有馬君。ちょっと前に告られて、付き合ってる」
ま、マジか……。彼氏だとは思わなかったよ……。
有馬君……ねぇ……。
うーん。隣のクラスなら体育とか一緒のはずなんだけどなぁ……。全然顔分かんないや。
「やっぱりいたんだ。でもごめん。あたし顔わかんない」
自分で聞いといてわかんないとか情けな……。
「いいって。でも……洋平、女子の間では人気らしいよ?」
そ、そうだったんだ…。知らなかった…。
「まぁ、美緒、そういうの興味なかったし、今は立森のことで頭いっぱいだもんね?」
そういって梨子が笑ってくるから、あたしはまたリンゴみたいに真っ赤になってしまった………。




