気づいたキモチ
翌日。今日も生物室に向かう。
宏翔は、いつもあたしからは見えない死角にいる。
あたしが近づくと宏翔も近づいてくる。
学校の王子様が、あたしのためだけに時間を割いて、あたしのためだけに微笑んでくれる。
その笑顔も、キラキラして見える。
やっぱりこれは、恋、なんだろうか。
「なぁ、美緒」
「何?」
いつもはなんにも言わずにキスしてくるくせに。
なんでそんな優しい声で話しかけてくるの。
「今度の金曜……ってもう明日か。明日は、来なくていい。俺用事あるから来れない」
「え……あ、そ、っか。わかった…知らせてくれてありがと」
必死で言葉を紡ぎながら、内心は自分の言ってることもわからないくらい動揺してた。
だって、来なくていい、なんて言われたの初めてだったから。
もしかして会いたくないのかな、とか考えてしまう。
「おいで」
「……っん……」
だから、思考を停止させるように、いつもより深く口づけた……
あのあとも、なんだか気まずい沈黙が部屋を覆って、あたしはその空気から逃げるように早々と帰ってきてしまった。
だけど、家に帰る気にはなれなくて、梨子の家に行った。
「美緒。いらっしゃい」
「突然ごめんね、梨子……」
「いいよー。でも、なんかあった?今日、いつもより早いよね?」
もぅ……。梨子には隠し事できないなぁ……。
今日のことを話す。
「そっか。来なくていいって……。ちょっと待ってよ、立森ってばひどっ!!」
「ま、まぁまぁ、梨子。あたしも、最初はなに言われてんのかわかんなかったんだけどね」
変なこと言ってないと思うけど、心の声がでてたらどうしよ。
「ちょっと、美緒!?そんなのんきな事言って!どうすんの、立森の用事が本命とのデートとかだったら!!」
……デート……!?そ、その考えはなかったなぁ……。
「え、美緒?じょ、冗談だよ?」
突然梨子がうろたえだした。え、なに、なんかあったの?
そこでようやく、あたしは自分が泣いてることに気づいた。
え、なんでだろう。早く泣き止まなきゃ。
だけど、涙は止まらない。
「美緒……。ごめん、変なこと言って。でもさ、それって泣いちゃうくらい立森のこと好きってことだよね?」
言われて顔が熱くなった。
だけど、それがあたしの今の気持ち。
あたしやっと、宏翔のこと、好きって気づいたから。