第7話 修行開始 (倫理編)
ゆかりがベルの誘いに承諾してから二日経ち、土曜日……。
その日は学校の授業や部活動があるわけでもないのにも関わらず、彼女はなぜか学校の制服を身にまとっている。
一方のベルも等身大でYシャツとネクタイ、スラックス、そして、白衣を着ていた。
「なんで、学校が休みなのに制服なの? 私服でもいいじゃん」
「えっ、なんとなく」
「なんとなくって……」
彼女は不満そうにルーズリーフのバインダーの角で彼の頭を何回かチョップする。
「イテッ、イテッ……。その方が勉強しています! というのが分かるかなって思って……」
ベルは痛そうに彼女のチョップを受けながら、率直に答える。
「そういうこと!?」
「あぁ、そういうこと。だから、それでチョップをするのは止めろ!」
「ハーイ」
ベルは自分の頭を撫でながらゆかりに注意し、彼女は素直にルーズリーフのバインダーでチョップをすることを止めた。
「さて、始めるぞ! まずは魔術の倫理についての説明からだ!」
「そこから!?」
「そうだけど。ゆかりは魔術についてはド素人だろう?」
「まぁ、確かに、私は能力とか何も持ってないから、一から説明してくれると助かるけどね」
ゆかりはそう言うと、そのバインダーを机の上に置く。
「大丈夫! オレが一から説明していくから!」
ベルはどこから取ってきたのか分からないが、カラカラと音を立てながら、ホワイトボードと水性ペンを持ってきた。
*
その倫理は自分の心理でいかにコントロールすることができるか。
それによって、自分や周りにどういう影響をもたらすのか。
それを使えるようになると、どのようなメリットとデメリットがあるのか……などといった内容をホワイトボードに書きながら、ベルはゆかりに分かりやすく丁寧に教えていく。
「そこで重要なことはオレに操られている間はいつ『人格崩壊』が起きてもおかしくない状況であることを忘れないでほしい」
最後にベルはゆかりにそのことを忠告する。
ゆかりは一つ気になったことがあった。
「ところで、ベル。『人格崩壊』って、何?」
彼女はベルに問いかける。
彼はその質問にはすぐに答えず、数秒間考え、彼女からの問いの答えを導き出す。
「例えば、Σ(シグマ)を使ったとする。まぁ、簡単に言ってしまうと、天使が一時的に悪魔になってしまうみたいな現象が起こるという話を聞いたことがある」
彼は彼女に先ほど導き出した答えを例えを入れながら説明する。
「どうして、そんな現象が起こるの!?」
「それは今までのオレの経験上からは分からないのさ……。実際にオレはその様子を見たことがないからなんとも言えない」
「そうなんだ……」
あれからしばらくの間、二人の間に沈黙が流れる。
ゆかりの息を吸う音で長く保たれた沈黙が破られた。
「人を操るベルは大変だね」
「そうだな。次は実際に魔術を覚えてもらう」
「実践的になるね」
「そうでもしなきゃ、オレがゆかりのところにきた意味がなくなってしまうからな」
ベルが悲しそうな口調でそのようなことを話した瞬間、ゆかりは何かを察し始めていた。
書き下ろしエピソード
2015/10/24 本投稿
2016/06/19 改稿




