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第4話 少しずつ始まろうとしている時間

 あれから二人でゆっくり歩き始めて十分くらい経過した。

 ようやくゆかりの住む自宅マンションの自転車置き場に到着したのだ。


「じゃあ、私は一回部屋に行って荷物を置いてくるから、ベルはちょっと待っててくれないかな?」


 ゆかりは右肩に通学用の鞄、両手にスーパーのビニール袋を持ち、一旦部屋に戻ろうとする。


「うん。じゃあ、オレは怪しまれないように小さくなって自転車のかごに入って待ってる」

「分かった」


 ゆかりは自転車置き場からマンションの部屋へ向かった。

 一方のベルは最初は等身大だったが、自転車のハンドルの上で小さくなり、かごの中に入って彼女がくることを待っていた。


「……まだかな……」


 小さくなったベルは小声で呟く。

 彼は心配になり、ゆかりの自転車のかごの中から顔を覗こうと必死になってよじ登る。

 しかし、手が滑ったり、足を踏み外したりして、中に落ちてしまいながら待っていた。



 *



 あれから数分が経ち、制服姿のゆかりが自転車置き場に戻ってきた。


「ごめんね。こっちに戻る時にちょっと管理人さんに捕まっちゃって……。ベル、なんか疲れてるみたいだけど大丈夫?」

「あぁ……大丈夫だぁ……」

「鞄は部屋に置いてきちゃったから……この段ボールの中でもいい?」

「いいよ」


 ゆかりは疲れてぐったりしている小さくなったベルを自転車のかごの中からそっと取り出すと、例の段ボールの中に入れた。

 そして、自転車の鍵とチェーンをつけ、『北海道産ジャガイモ』と書かれた中身が軽いダンボールを両手でしっかり持ち、彼女の部屋へ向かう。

 その途中に本当は通りたくない管理人室をチラッと覗く。


「おう! ゆかりちゃん、ジャガイモの箱を持ってるけど、一人で持って大丈夫かい?」


 男性の管理人がそのダンボールを見て、彼女に声をかけてきた。

 彼女は本当なら声をかけられることを避けたかったが、また捕まってしまったのだ。


「先ほどはどうも。大丈夫ですよ。ジャガイモは五個か六個くらいしか入っていませんので」

「そうか。重いものがあったらいつでも声をかけてな」

「ありがとうございます!」

「いやいや、気にしなくていいぞ」

「ハイ」


 ゆかりは管理人に声をかけられ、本当はダンボールにボールやバスタオル、小さくなったベルぐらいしか入っていない。

 彼女はそれらをジャガイモと嘘をつき、その場を凌いだ。

 運がいいことにエレベーターが降りてきており、誰もいなかったため、彼女はそれに乗り込んだ。

 五階に合わせてドアが閉まり、エレベーターは動き始める。


「さっすがベル! 『北海道産ジャガイモ』の箱にしてよかったよ」

「だろ? 違和感がないって言ったのは正解だったろ?」


 ゆかりは段ボールの中にいるベルに声をかけた。


「うん。もうそろそろ、私の部屋に着くよ」


 エレベーターは四階に着き、ゆかりの部屋がある五階はあと少しだ。


 彼女はこれから何が始まるのか知らずに……。

書き下ろしエピソード


2015/08/30 本投稿

2016/06/19 改稿

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