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第2話 彼との出会いは突然に

 ゆかりが遅刻しかけた日から約一週間くらい経った日のことである。


 その日もいつもと変わらない一日が終わり、一人の女子生徒が『文芸部』と書かれた部屋のドアを開けた。

 その部屋にはすでに何人かの部員がおり、わいわい話している。


「こんにちはー」


 彼女はその部屋の中にいる部員に挨拶(あいさつ)をする。


「こんにちは」

「ゆかり先輩、こんにちは!」

「ヤッホー、ゆかり! 今日もお疲れ!」

「やあ。あれ、大野さんは先週はいつだか髪、縛ってたよね? 今日は縛ってこなかったの?」


 部員達はゆかりに挨拶を返す。

 彼女は身長百六十cm前後でスラリとしたモデル並の体型を持ち、黒髪のロングヘアーで左目を隠すような髪型をしている。

 これなら、スカウトが殺到してもおかしくない雰囲気の女子生徒だ。


「まさりは私がきた早々、テンション高過ぎ!」

「うぇーん……。あたし、ずっと、ゆかり不足で死にそうだったんだからね……」


 まさりはゆかりに泣きつきながら、がっしり抱きついてくる。

 その時、彼女の身体は少しふらついた。


「っつ……それだけで死なない! 死なないから! 誰かちょっとヘルプ……」

「「ハイ!」」

「もう、上原さんったら……」


 栗原くんと二、三人の部員がゆかりとまさりを引き放す。


「ありがとう。栗原くんはよく見てるね。実は先週のどこかで寝坊しかけたから縛ってきただけだよ」

「なるほど。で、でも、一応、僕も文芸部の部員なんだからね?」

「栗原くんが観察力が鋭いところは私も知ってるよ。でも、小説のネタにされたらちょっと困るな……」


 ゆかりと栗原くんが話している時、一人の女子生徒が近づいてきた。


「ゆかり先輩?」

留美(るみ)ちゃん、どうしたの?」

「今度の作品は何を書くんかなと思いまして……」

「うーん、次の作品はね……。私が得意な推理小説か学園小説かだね」

「そういえば、今回執筆している作品を貸してくれませんか? わたしが挿し絵を描いてきますので」

「ホント? じゃあ、お願いしようかな」

「ハイ! ゆかり先輩が気に入るような挿し絵をわたし、広瀬(ひろせ) 留美(るみ)が描いてきます!」

「留美ちゃん、ありがとう。無理しない程度でね」

「ハイ。今日も頑張りましょうね!」

「うん!」


 こうして、部員達は作業に取りかかった。



 *



 あれから数時間後……。


「もう時間か……。三年生はそろそろ片付けを始めようか」

「そうだね」

「続きはまた明日だね」

「一気に受験勉強という名の現実に戻るのは嫌だけど、上がりますかぁ」


 栗原くんが部室にかけられた壁時計を見てパソコンにデータを保存し、ゆかりは今日やることをまとめたリストに赤ペンで線を引き、すべて線が引かれたので、ゴミ箱に捨てる。

 三年生の部員達はそれぞれの活動を止め、帰る準備を始めた。


「じゃあ、あたし達は先に上がるね」

「みんな、あと戸締まりとかよろしくね」

「「お疲れさまでした!」」


 ゆかり達三年生は片付けを終え、部室から出て行く。

 彼女らは昇降口で栗原くんと別れ、ゆかりとまさりは自転車置き場へ向かって話しながら歩を進める。

 彼女らは帰る方向が違うため、正門で別れ、学校付近のスーパーに向かった。



 *



 スーパーに到着したゆかりはカートに買い物かごを二個置き、下のかごに通学用の鞄を入れる。


「今日の夕食は何にしようかな。タマネギとニンジンがあって……冷蔵庫にレタスとミニトマトがあるから、カレーライスとサラダにしよう。あと、ジャガイモとお肉、カレー粉がないから買わないとな……」


 彼女は呟きながら今日の夕食分と魚の缶詰めや翌日の朝に食べるパンをかごに入れ、レジを通した。



 *



 買い物を終えたゆかりはペット同居可能のマンションに向かって自転車を走らせて数分が経った時のことだった。

 とある電柱の近くに一つのダンボールが置いてある。

 一応、街灯はついていたが、薄暗い。

 その中をよく見ると、一匹の黒い犬が彼女を見て嬉しそうに尻尾(しっぽ)を振っている。

 ゆかりはその犬を優しく抱えた。


「君、可愛いね! よしよし。名前はどうしようか? 鈴がついてるから……。ベルはどうかな?」


 彼女はその犬に問いかけるように言うと、「ワン!」と元気よく吠えた。


「おおっ、元気だね! でも、私、犬は好きだけど……連れて帰れないなぁ……。ごめんね、ベル」


 ゆかりはベルと名づけた黒い犬をダンボールに戻し、別れを告げた。

 彼女は再び自転車に跨り、漕ぎ始める。

 次の瞬間、突然、誰かに声をかけられたような気がした。


「待ってください……」

「あなたは誰?」

「オレはベル……。あなたがつけてくれたさっきの犬の名前と同じです。キミは?」


 ベルと名乗った男性が言った。

 身長は彼女と同じくらいであり、端正な顔をしている青年である。


「(……よく見ると、かっこいい……)私はゆかり、大野(おおの) ゆかりです。ベルはもともと、人間だったのね……」

「そうです。これからオレとキミは一緒に過ごす同居人となるんですよ」

「へっ!?」


 それがゆかりとベルと出会いだった。


原作版・第1話をベースに改稿


2015/06/07 本投稿

2015/08/10 改稿

2016/06/19 改稿

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