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第11話 彼(ベル)の優しさ

 あれから、何時間経ったのだろうか……。

 今のところは時間が止まっているため、現在の時刻は何時何分か分からない。


 ゆかりは時間を止める魔術であるθを使用してなんとか原稿を書き上げた。

 その原稿はきちんと仕上げ、パソコンに保存されている。


 一方のベルは自分で簡単に夕食を自炊し、風呂に入り、パジャマ姿で自室で過ごした。



 *



 ベルは喉が渇いたため、キッチンに行き、透明のグラスにペットボトルの水を注ぐ。


「ゆかり、大丈夫だろうか?」


 彼は水を一気に飲み干し、ゆかりを心配して彼女の部屋を覗く。

 部屋の電気はついており、ゆかりは電源を消した状態のパソコンのキーボードの上で寝ていた。


「こんなところで寝てると風邪引くぞ」


 ベルが小声で言う。

 彼女のクローゼットからコートを取り出し、彼女の肩にかけた。


「そういえば、今、何時だ?」


 彼は自分のパジャマのポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認する。

 彼の懐中時計は二時を少し回っていた。

 リビングの電波時計は『18:00』と表示されたままである。


「……まだθを使ったままだな……」


 彼は右手を左胸に当て、沈黙を流す。

 すると、先ほどまでは『18:00』と表示されていた電波時計は『2:05』と変更されていた。


「ζ(ツェータ)ははじめて使ったが、意外と使えるな」


 ベルはふふっと笑い、ゆかりの部屋の電気を消し、自室に戻った。



 *



 彼女の部屋に置いてある目覚まし時計が六時を回った時、ゆかりはふと目を覚ます。

 空は若干ではあるが、薄暗い。

 その時、彼女はなぜ、外が明るくなりかけているのか疑問を抱いた。


「あれ? θを使って書き始めて、書き終わって、パソコンの電源を消したあと……そのまま寝ちゃったんだ! なんで、時間が進んでるんだろう?」


 彼女は思い当たることを思い出していたが、時が進んでいるところは何も思い当たらなかった。

 ゆかりは勢いよく椅子から立ち上がると、肩にかかっていたコートがボトッと音を立て、床に落ちた。

 そのついでに、彼女のお腹からグーッと腹の虫が鳴く。


「そういえば、昨日は晩ご飯は食べてなかったな……。あと、お風呂に入ってなかったし……」

「ゆかり、起きてるか?」


 突然、ゆかりの耳にベルの声が聞こえてきた。


「うわぁ!? ベ、ベル、おはよう」

「ゆかり、おはよう」

「びっくりするじゃん!」

「ごめん。時間を進めたのと、コートを肩にかけたのはオレだから……」

「えっ?(やっぱり、ベルが……)」

「あと、風呂の準備しておいたからどうぞ」

「あ、ありがとう。お風呂、入ってくるね。ついでに、洗濯機も回そう」

「うん」


 彼女らは顔を赤くしながら会話を交わした。

 ゆかりは自室から着替えを持ち、風呂へ行く。

 一方のベルはキッチンへ戻り、朝ご飯の準備を始めた。



 *



 ゆかりが風呂から出、脱衣室からドライヤーの音が聞こえてくる。

 それと同時に洗濯機もピーッとアラームが鳴った。


 キッチンにいるベルはなんとか朝ご飯を作り終えたようだ。


「よし、できた」


 一方のゆかりは脱衣室で制服に着替えたらしく、バタバタと今日学校で使うものの準備と洗濯物を干す。


「今日の準備と、パソコンの準備も大丈夫」


 彼女は通学鞄を持ち、リビングに駆けつけた。


「ちょうどよく作り終わったぞ。冷めないうちに食べよう」

「ベルが作ってくれたの?」

「うん。ちょっと、味に自信はないけど……」

「「いただきます」」


 彼らは箸を手に取り、主菜から箸を摘んでいく。


「ベル、ありがとう……」


 ゆかりがご飯の入った茶碗を両手で持って、ベルに告げる。


「な、何!?」


 さすがにベルも驚いているようだ。


「昨日、θを教えてくれなかったら原稿は終わらなかったし、お風呂のお湯加減もちょうどよかったし……」


 ゆかりの()から大粒の涙がこぼれ始めた。


「って、泣くなよ!」

「だって、誰かに作ってもらったご飯を食べたの、久しぶりなんだもん……」

「ゆかり……」


 ゆかりはそれを通して久しぶりに何かを感じた。

 誰かに作ってもらう温かいご飯をあの日から食べてきていないからだ。



 *



 それはゆかりの両親は彼女が中学三年生の時に離婚。

 ゆかりは母親が引き取ることになった。

 彼女は中高一貫校に通っており、幸いにも高校受験がなかったため、受験に影響はない。

 そう思っていたやさきに母親は交通事故により死亡した。


 わずか十五歳で家族の形がなくなってしまったゆかり。

 最初は親戚の家に住もうと思っていたが、その日まで住んでいた部屋を出たくないという思いが強かった。

 ゆかりは幼い頃から母親のお手伝いをしてきたため、家事全般をこなせることから、親戚は反対しなかった。

 今、住んでいるマンションの家賃や授業料といった金銭的なものは親戚が援助しているため、生活には苦労をしていない。


 それが今の彼女なのだ。



 *



 ゆかりは今までのことをベルにすべて話した。


「……今まで、辛かったな……」

「……うん……」

「話してくれてありがとうな」

「こちらこそ、ありがとう」


 彼女らは互いに優しく包み込むように抱き締めた。

書き下ろしエピソード


2015/12/30 本投稿

2016/06/19 修正

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