第10話 修行開始 (実践編)
朝ご飯と洗濯や部屋の掃除などの家事を終え、きちんと身支度を整える。
本日も学校がないにも関わらず、ゆかりの服装は制服姿。
一方のベルも昨日と同様に白衣姿だ。
「さて、今日は実技をやってみよう」
「うん」
「じゃあ、まずは昨日の復習を大まかにしていこう!」
「ハイ! ベル先生」
「それ、照れるから止めて」
「いつも通りでいいんだね」
「そう」
あれから十分程度、簡単に復習を行う。
「さて、始めるぞ。まずは魔術を使う時の基本ポーズからだ!」
張り切って話を切り出すベルに対し、「えっ、基本ポーズ?」とぽかんとした表情を浮かべているゆかり。
「どこかの魔法少女のアニメだか、一時期、流行ったラグビー選手のお祈りポーズだか知らないけど、そんなものが存在するの?」
彼女は何か思い出したかのように、彼に問いかける。
彼はコクリと頷きながら、「存在するさ」と答えた。
「じゃあ、周りから見て恥ずかしくないポーズじゃないよね?」
「恥ずかしくないよ」
「どんなポーズよ?」
「えっと……どんな体制でもいいから、胸に軽く手を当てるような感じかな。その時は片手でも両手でも大丈夫」
ゆかりからの矢継ぎ早な質問にテンポよく答えるベル。
彼女は彼に言われたとおり、試しに右胸に左手を当ててみた。
「こんな感じかな?」
「そう。そんな感じ!」
ベルはそれを見て親指と人差し指で丸を作り、OKサインを出す。
「確かに、コレなら恥ずかしくないし、痛くない!」
実際にやってみて、恥ずかしくないことに気づいたゆかり。
「痛くないって……。中二病みたいなことを想像してただろう?」
一方のベルはじと目で棒読みで彼女に突っ込んだ。
「当たり前でしょ!」
「即答だな」
「変なポーズなら今までのことをすべてなしにしようと思ってるからね!」
「そ、それだけは勘弁して!」
「分かった。それで使いたい魔術を声に出さずに心の中で唱えればいいんでしょ?」
ゆかりはベルにそう言う。
「よく分かってるな。その通りだよ」
彼はよく覚えていたなぁと思いながら、彼女にそう答えた。
*
「じゃあ、やってみよう」
「うん」
ゆかりは何かを包むように両手を胸の前で組んでみる。
瞳を閉じ、何かを思っているようだ。
「うわぁ!? お風呂場にきちゃった!」
次の瞬間、彼女は先ほどベルと一緒にいたリビングから風呂場に瞬間移動していたのだ。
風呂場のドアは閉まっていなかったため、声は筒抜けである。
「ゆかりはさっき、√(ルート)を使ったから風呂場に着いたんだな」
「√って何!? 平方根!?」
「√は平方根のやつじゃない。瞬間移動の魔術だ」
「もう一度√を使えばリビングに戻れるかなぁ?」
「やってみろ」
ベルはゆかりに解説をしながら相槌を打つ。
すると、ゆかりは戻ることができたらしく、リビングのソファーにちょこんと座っていた。
「着いた!」
「よかったな! これから、少しずつ覚えていこう」
「うん!」
ゆかりはその日のうちに瞬間移動の√と時間の止める魔術であるθ(シータ)をある程度までマスターした。
*
二つの魔術をマスターして機嫌がよくなったゆかり。
「あっ!」
「どうした?」
彼女は何を思い出したようだ。
部屋の外にリビングの電波時計を交互に見る。
外は薄暗く、電波時計は『18:00』と表示されていた。
「部活の原稿、終わってない! 今からθを使って書いたら終わるかな……」
「ゆかり、今日の修行は終わりにするから、原稿頑張れー」
ゆかりはあれから文芸部の原稿を急いで書き始めるのであった。
書き下ろしエピソード
2015/12/28 本投稿
2016/06/19 修正




