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第9話 気まずいと感じた朝

 あのあと、彼女らはあまり会話せず、その日は過ぎ去ってしまった。


 そして、迎えた翌日。

 ゆかりは自然と目を覚まし、眠い目を擦りながら、枕元に置いてある目覚まし時計を見る。


「もう、八時かぁ……(ベル、怒ってないかなぁ……)」


 複雑な気持ちでゆかりはゆっくりとベッドから起き上がり、キッチンへ向かう。

 彼女はパジャマの上にエプロンをつけ、朝食の準備をするために冷蔵庫の中を覗いている時だった。


「ゆかり、おはよう」


 ベルが別室からぬっくりと覗くように出てきた。


「あっ……ベル。おはよう……」

「どうした?」


 ゆかりがベルのところに近づく。

 一方の彼はあまりにも彼女がぎこちないため、ベルはゆかりに問いかける。


「ベル、昨日はごめんなさい!」


 彼女は彼に向かって頭を下げる。


「なんで、ゆかりは頭を下げてるんだ?」


 ベルは頭を下げているゆかりからは見えていないが、首を傾げ、彼の頭の上にはクエスチョンマークが飛んでいる。


「えっ、あれ? 怒ってないの?」


 ゆかりがおそるおそる頭を上げると、ぽかんとしているベルがいた。

 しかし、彼は少し笑いを堪えていたらしく、後に笑い始める。


「あははは……。怒ってないよ。むしろ、ホッとしてる」

「よかった……」


 ベルが笑いながら答えると、ゆかりはホッとした表情を浮かべた。


「でも……」


 彼は先ほどの表情から一変し、少し悲しそうな表情を彼女に向ける。


「でも?」


 ゆかりが少し首を傾げながらベルに問いかける。


「昨日のことはその時に言っておけばよかったと思ってる。だから、気にしてたんだろ?」

「まぁ、そうだったけど。今はもう、気にしてないから大丈夫」


 彼は昨日のことを少し後悔していたようだ。

 一方の彼女はそのことを聞いて、今までこわばっていた頬を少し緩めた。


「本当か?」

「本当だよ」

「とりあえず、いつものゆかりに戻ったな」

「そうだね。あっ、ごめん。今から朝ご飯を作るから待っててね」

「分かった」


 ベルはゆかりの表情を見て、いつもの彼女に戻ったと感じているようだ。

 彼はパジャマの上にエプロンというおかしな服装で朝ご飯を作っている彼女を見ていた。



 *



 およそ二十分くらい経った時に、先ほどまでキッチンにいたゆかりがおぼんに二人分の朝ご飯をのせ、リビングに姿を現した。


「ごめんね、作り終わったよ」

「うん。ありがとう」

「「いただきます」」

「ところで、理論は理解できた?」

「うーん。一応はね……」


 二人で箸を進める中、ベルがゆかりに問いかけると彼女は少し彼から視線を逸らし頬を掻きながら返事する。


「そうか。分からないことがあったら、いつでも訊いてくれ」

「ハイ!」

「いい返事だ!」

「ベルは私のアドバイザーだもんね!」

「その通り(アドバイザーってなんだ……? アドバイザーって……)」


 ベルはゆかりにアドバイザーとは何かと訊こうしたが、そのことを突っ込むことを止めた。

 彼女らは同時に焼き魚をつまみながら再び箸を進めるのであった。

書きおろしエピソード


2015/12/08 本投稿

2016/06/19 後書き欄追記、修正

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