第二の魔物
それは非力だった
その小柄な体躯に目に映らないほどの速さを
不潔な環境におかれたその歯には猛毒を
そんな力を弱者だったはずの鼠は宿した
目が覚めた。
『状況は変わりなし、か』
脱出のめどが立たない。移動速度は人の歩く速度と変わらないが逆に言えば高速で歩けるわけでもあの三人の悪霊みたいに浮遊出来て透過できるとかいう事も出来そうに無い。廃棄の時に開く穴をどうにかして通れれば良いがどう見たってただの骨にそんなことは出来そうに無い。
首をひねる。
『ん?』
何かが落ちたような音が響いた。音の響いた方に視線を向ける。
カタカタと歯を鳴らしていた頭蓋骨の一つが骸骨の山の上から落ちたのかころころと転がっていた。
『元の場所に戻すか』
そのままにするのも可哀想だ。そう思い後を追うために立ち上がると骨は独りでにある場所でぴたりと動きを止めた。
『ん?』
誰かが掘ったと思しき脱出目的の細い穴だった。先は行き止まりで何もなかったはずだが。
『この先をもう一回いけ?』
こんな細い穴の前に止まるなんて明らかにこの骨は意思を持って動いてないか? そしてその意思はこの道をいけと間違いなく言っている。
『打つ手なし、だからな』
この際この不思議な誘いに乗るのも悪くは無い。
『道が……』
行き止まりだったはずのそこに、何故か道が続いていた。行き止まりだったと思しき場所にある見覚えのある白骨死体。本来は伸ばされた腕の先には土の壁があったはずなのにそこには何もなく、まるで最初からそうだったとでも言うように道が続いていた。
『行くしかない』
戻ってもどうにもならん。先に行くしかないだろう。
道の先にはところどころに白骨死体が横たわっていた。城の奴ら思った以上に人殺してるな。いつか呪われてもおかしくなさそうだと半分私怨も入りながらそんな事を思いながら歩く。
先に進む。案外長い、でも何か地下にもぐるように傾斜が傾いているような気がするんだが。地上に出れる気配これなさそうだぞ? あれ?
『どちらにしろ、先に進まないとどうしようもない。そういえばあの三人が上に言ったと言うことはどう見たって発生源として地下の死体捨て場が疑われるだろうしなぁ』
一本道。ところどころでカーブを描くことはあっても分岐点が現れたことは無かった。
『ん?』
ふと少し先を見ると何かが動いているのが見えた。
『生物か!』
死体しか見ていないので生きて動いているものは珍しい。というより生物恋しい。
『蛇と鼠か……』
頭蓋骨の目の空洞に身を通した蛇、何となく強そうに見えるのが不思議だ。
もう片方はただの鼠だった。本当にただの鼠だった。
蛇が鼠を飲み込もうとしているのだろうか。まあ結果は見えているよな。
『やめておけ』
何となく鼠に自分がダブったので蛇を掴んで鼠から引き離した。蛇はしばらく暴れていたが動きが鈍り一分もしないうちに動きが完全に止まってしまった。
強く握ったつもりはないんだがな。見てみるとやっぱりそんなに強く握ったような痕は無い。スケルトン的な力で生命力でも吸ってしまったのか。
『悪いことをしたな』
手で穴を掘る。蛇の死体を十分入る程度に掘れたと判断すると蛇の死体をその中に入れる。
『ん?』
鼠はまたそこに在った。付き合ってくれたのだろうか。
『これからは危ない奴を見たら真っ先に逃げるんだぞ。後はどうにもならなくなったら威嚇のために効果はなくても噛み付くんだ。死ぬくらいなら抗え。良いな?』
分かっているのか分かっていないのか頷きもしないで鼠は去っていった。
『今度は素早い動きで逃げて欲しいものだがな。後はこんなジメジメした地下にいるんだから歯とかに毒があれば良いが。こう、猛毒的な奴を』
まあ言っても仕方ないか。
? 足元に髑髏が転がっていた。おかしいな。近くの死体はちゃんと頭はあるんだが……これは何の骨だろうな? どこの骨だ?
『囚人に食わせる飯としては上等だろ』
『すりつぶして肉団子にして食わせてやれ、飢えてるから肉だったら何でも喜ぶぜあいつら』
『鼠の肉とか絶対に俺達や城の奴らは喰わないけどな!』
『異世界の奴なんざ鼠食っててもおかしくないさ』
『違いねえ』
鼠に知能は無かった。
だが、殺意は確かにあり。
そしてそれを成すための力が今、与えられた。