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邪神 蚊帳の外  作者: トツキトオニ
復讐の追撃者
28/31

ただ一人のための英雄 後

 門は消えた。退路はもうない。再生能力はあるがもしかしたらそれでも倒されるかもしれない。だが。

「お前達程度倒せなければあの冥府の管理人と化したミチビキを倒すなど夢でしかない」

 頭は悪いが能力、与えられた加護。しかもその配下の透明なスライム、三体の骨。あと姿が確認できなかった食料を腐らせ、人を毒で殺した見えない魔物。あれらは間違いなく目の前の男達と同等かそれ以上だろう。

 何しろ力を与えられた自分達がこれだけの力を得ているのだ。他の者も同等以上にミチビキに能力を与えられているに違いない。

「エドワート」

『はい』

「行きます」

『御意』





 男子生徒の放浪亡霊達は向かってくる二人に不用意に自分達から近づきはしなかった。レイミリアの持つ剣が自分達に一撃必殺の効果を持っていたのはすでに5人の滅びから理解していたし、うかつに近づけば返り討ちに合うのは目に見えていた。


 が、既に目的の半分を達成しているのは間違いない。放浪亡霊達の一番の目的、それは門への帰還、すなわち逃亡をさせない事。彼らに加護を与える神の啓示によって門、そしてそれを使う管理人の現世の滞在時間は30分と伝えられていたため、わざと少人数で圧倒状態にならないように加減はしていたのだ。戦意を喪失して逃げられないように。再生能力が無ければそのまま殺して終わりだったが十三亡霊達には完全に殺し切るのは難しかった。なにより背後で加護を与えるそれに油断があったのか、慢心があったのか。足止めとして送ったはずの4人はそのまま滅びを迎えてしまった。神は言う。中心の5人がいる限りは問題ない。さらに言えば核たる一人さえいれば問題ない。加護は再分配され一人一人はより強力に、死ににくくなった。

 冥府屋敷め、余計なことを。と毒づくその神は上位といえどもしかし冥府の管理機構の本体であり世界の一部である屋敷よりは位が低い。制御、抑制の役割を担う管理人たるミチビキも先代達同様下位の神へとなっている。うかつに干渉もできず、こうして使徒とした異界の亡霊達を介しての嫌がらせじみた抵抗しかできない。

 みだりに異界の者を呼んで世界に混乱を招く人間を減らすべきだ、という理念を持つその神はその自分の目的を妨害する冥府屋敷の意図が分からなかった。いや、元々管理人の意思を尊重する程度の意志しか基本見せていない。あれは冥府の境を管理する神。生者を世界の根源たるエーテル海へ迷い込むことを防ぐ役割の神。それ以外はどうでもいいのかもしれない。







「これで、終わりだ!」

 4人目の男の心臓に剣が生えた。滅霊の刃を身体から引き抜くが既に滅霊の刃はその役割を果たしており、崩れ落ちたそれは数秒後に塵と化した。

『順調ですね』

「あの4体を倒したのが大きかったのでしょう。それにこの剣を非常に恐れて本来の動きが出来ていないように見えます。ですが、油断はいけません。残りの五体」

『ええ』


『案外早いな』

『明らかに、動きが鈍い、です』

 門の向こうへの強制帰還を喰らった俺達は特に出来ることもないので自分たちが去った後の戦いの続きを自室で見ていた。基本どの部屋も解放されている中で鏡のある自室だけは管理者以外の者は入れないはずだったがどうもこの魔導士の少女は抱え込むように門へと帰還したからか人ではなく俺の私物扱いになってしまったようで普通に自室へと入ることができるようになっていた。まあ、皇女の所有物として生きてきた少女は人ではなく誰かに所有される物だと屋敷は認識しているのだろう。

『まあ、理由はなんとなくわかる』

『分かる、んですか?』

 明らかに俺にそういう解説の役目など期待していないと目は語っていたが一応聞いてみる気にはなったらしい。答えを促すようにこちらに視線を向けている。

『あんな化け物みたいな強さ持ってるあいつらだけどな。この世界に呼ばれる前はただの平凡な高校生、ただの民衆その1の群れでしかなかったんだ。俺はそれよりさらに下の落ちこぼれだったが』

『そう、ですか』

『そんな呼ばれる前の世界でもただの民衆その1でしかないのにこっちに来てまともに動けると思うか? あいつらは運動能力も強力な能力も手に入れたがそれだけだった。帝国では暴れ回っただろう。でも結局その高い戦闘能力に任せた蹂躙しかしなかった。いや、全部の戦いを見たわけじゃないから断言はできないが。だが間違いなく戦闘の経験自体はこの世界の本職には及ばなくて、かつ同等の実力を持った相手との戦闘経験なんてほとんどなかったに違いない。いくら力が優れていても経験と精神が追いついてなかったらしょうがないということだな。姫もまあそういう意味ではあいつらと変わらんだろうが俺が与えた一撃必殺に近い剣がそこら辺を穴埋めしているんじゃないか?』

『そう、ですか。正直に言うなら、どっちが勝っても、どうでもいいです』

『おおぃ!』

 別れた途端恐ろしく毒の含んだ言葉はくようになってるぞ!? 関係はあれでも長年一緒にいた間柄だろうに。いや、まあ滅ぼされた国の姫だった奴隷だから恨みが深くても仕方ないが。というよりならなぜ解説させた。

『少し気になっただけ、です。けどもう私には関係ないこと、なので』

 隣の少女は無表情で、だが視線は鏡の向こうの光景から外れることはなく眺め続けている。

『ああ、うん。そうだな』

 そうだな。こうやって呑気に観戦してる時点で俺もこの少女に言えた義理ではない。結局手を貸したとはいえ俺も、下手をしたらこの少女も部外者でしかなかったのだろう。





 順調だった。以前の圧倒的な敗北からは考えられないこちらの圧倒的有利。向こうが手を抜いて少人数で向かってきていた間に厄介な能力もち4人を倒せたのが大きい。強大な能力だったが普段使用していないため慣れていないのか明らかに使い方はひどかった。もっとうまく使えば非常に厳しい戦いだっただろうと思う。あとあまりにも時間稼ぎに気をとられすぎていた。正直逃げる気はない。だがこちらに逃げる気がないと知っていればもっと激しい攻撃が来ていたのは間違いないので逃亡を警戒されていたのは幸運だった。

 だが、今の状況は正直良くない。再生能力にあかせた愚直な突進を繰り返しているが残った五人はいずれも弓一人、投石4人の遠距離からの攻撃が主体だ。完全にこちらの伸縮する剣を警戒しているのか全く近づいてこない。威力は致死に近いが伸びる速度が速いわけではないので攻撃を当てることが出来ない。先ほど相手にした4人は近接武器だから攻撃をするには近づいてこないといけない。厄介な特異能力こそあれど明らかにこの剣を警戒して動きに精彩を欠いたそれらを幸運にも私達は倒すことが出来た。

 が、その後は膠着した状態のまま。せめてもの救いは町ではなく外の草原なので壁などの遮蔽物がないことくらいか。逆に言えば向こうの攻撃も遮るものはないが今のところ攻撃の回避は遠距離から行われているのもあって問題なく行えていた。投石も弓も高い身体能力を上手く生かした攻撃方法とは言えないのが幸いだった。

「ミリアージュがせめていれば」

 駆けながら隣で同等の速度で走ってくれているエドワートに零す。いまさらいうのも恥ずかしいがミリアージュを失ったのは痛かった。互いにこれが最後の別れだと認識しているだろうが恥を忍んで出来れば戻ってきてほしいと思う。

『足止めに秀でておりましたから今考えると失ったのは大きい損害でした』

「門へと帰還した今もう一度来訪するのを期待はできないでしょう。諦めて出来ることをしましょう」

『というと?』

 隣の執事が敵の姿を見据えたまま目を向けず言ってくる。

「まずはわずかにこちらに矢を向けるために動きが止まる弓持ちの男を潰しましょう」





 それは呪い持ちとはいえ強力な道具だった。魔力による矢の形成。自動で矢を番え放つ機能。隙を減らすという目的の元作られたクロスボウと呼ばれるものに似た小型の、しかし重いその呪いの弓は呪いという致命的な欠点を考えなければ優秀だった。


 ただしそれには素人にはという言葉が上にはつくが。

 一流の弓手にとっては自動という特性も自分で細かい調節も出来ない短所でしかなかった。故にそれは弓に秀でた者達からは選ばれることはなく倉庫にただ眠っていた。

 しかし、弓を扱わない素人にとって自動で矢を放つ機能は慣れない作業で余計な時間を取らないで隙を作らない大きな長所だったし、今の持ち主である男子亡霊にとってもそうだった。

 ただし、二つだけどうにもならなかったことがある。

 当たり前だが矢を放つ瞬間狙いは自分でつけなければいけないことだ。自動で矢を形成し、自動で番え放つといってもその狙いをつけるのは使い手がしなければならなかったのだ。これで自動追尾までついていたなら間違いなく厄介さは格段に増していただろう。

 振り向き、番えた矢を大雑把に標的の片方に狙いをつけ放つ。投石よりはずっと殺傷能力は高めなので相手が再生能力を持った死霊と言えど動きは間違いなく数秒は止まるだろう。そこを集中砲火で再生能力が尽きるまで潰す、というのが核の狙いだった。さっきまで生存していた前衛役の4人がいるうちに足止め目的に散発的に攻撃を行いもしたが援護にならなかった。


 矢を生成し、番え、放つのにおよそ5秒。どうやってもそれを縮めることが出来なかったのだ。おかげで結局装填を待つよりその間に投石をした方が早いという結果になり、しかしただの男子学生に投石の技術など持っているわけもない。精度の低いそれは味方に当たり、特異能力により味方同士の攻撃で傷は負わないものの自分たちの投石が援護につながる可能性は低い。数が減るごとに敵を狙いやすくなったが遠距離では容易く避けられる。中心の5人たるそれは放浪亡霊群全体の特異能力の維持のために絶対にやられてはいけなかった。それゆえの遠距離攻撃だ。が、あまりに躊躇しすぎた。


 そんな躊躇が中心の5人だけが生き残るという皮肉な結果を呼んでしまった。何がまずかったか。あの剣がまずい。加護を受けたはずの自分達を容易く滅ぼしうる危険な代物だ。再生能力も相まっていかに追い詰めようと逆転の一手でこちらに刃を突き立てるのだ。初めの4人も次の4人もそうやって一人ずつ沈められていった。撤退という選択肢は無い、ここで逃避したところでまたおそらく門を通り回収され、唐突にこちらの目の前に出現し殺しに来るのは間違いないのだから。


 あれは滅ぼしてしまわなければいけないものだ。門の管理人たる骨を滅ぼせられれば良いが加護を与えた神が言うには世界の一部に保護されたそれに傷を与えるのは不可能に近いらしい。だが自分達に殺意を持っているのは今相対している二人だけであって二人を滅ぼせばおそらくはこれ以上の干渉はする可能性は低い、とも言った。あの骨はただ求められたから力を貸しているだけだと。



 使わなければいけないか。本来の統合五霊の力を。5人で唯一ある程度の自我が残る核はそう判断した。






 一斉に残っていた5体の動きが止まった。

 好機だ! 浅いところにある理性がそう叫ぶ。

 危険だ。深いところにある本能がそう叫んだ。

「姫様っ!」

「っ! 弓持ちを潰します!」

 動かない間に一人でも削るべきだ、とレイミリアは判断し判断を仰ぐエドワートに指示を返す。短くうなずき返すエドワートの姿を確認した後弓を持った男に己の刃を、エドワートは右から駆け抜け男の退路をつぶし、エドワートが動きの止まった男を追い抜き前後からの挟み撃ちを行おうとして。



 弓を持った男は姿を消した。瞬時に辺りを見回し一人を除いて他3人も同様に姿を消していることを確認。

「え?」

 滅びた? まさか。自分達は何もしていない。力尽きた? そんな馬鹿な。力尽きる様子は全くなかった。転移で逃げられた? こちらの門への帰還を潰しておいて撤退? あり得るか、と納得しかけた後気づく。


 ミチビキから与えられた特異能力の一つ。復讐相手の存在感知の特性を持つ自分には自分の復讐の相手の気配は依然としてここに固まったままに見える、と。遠方に気配を感じる事もない。今までと同じくここに男達は揃っている、と存在感知の能力が囁いている。

 辺りを見回す。5人の中で最も小柄だった男一人しかいない。

 いや、5人ともあそこにいると能力が告げている! つまり


「姫様。敵はどこに消えたのでしょう?」

 不可解な面持ちでエドワートがそう囁いてきた。

「エドワート!? 何言って……そういえばどこに行ったのかしら」






 敵はどこに行ったのだろう。エドワートと仲間と私。敵はどこに行った?

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