私にとってのただ一人の
お通夜状態だった
口に出すと叩かれること間違いなしだが正直に言うと自分は無敵の守護で傷一つ追わなかったのでどこか他人事だった
だが、明るい気分にはならなかったのは間違いない
災厄の骨の手記
「力を。あれらに勝てるだけの更なる力を寄越しなさい。代償は何があってもいいから。力を寄越しなさい」
一日後、屋敷での彼女達の部屋に向かって開口一番姫はそういった。
戦闘後。短くその様子を表すならお通夜状態、としかそれは表現できなかっただろう。再生能力を阻害されているのかエドワートの下半身はまだ膝から先は再生していない。完全に阻害していなかったのだけは幸いか。ミリアージュはそもそも途中から抱きかかえていたのでそれからは傷を負っていない。姫ももう既に元の姿へと再生していた。
身体は再生しても心は俺の能力だろうとどうにもならない。明らかな力の差。おそらくはある程度の力は加護の付与であろう俺の能力により持っていたはずだがそれでもどうにもならなかった。まあ俺もあいつらも同じ地球からの転移者だからな。俺から力を与えられた程度では無理があったのかもしれない。
「部屋に戻ります」
そう短くいったきり俯いたまま部屋に戻るその姿は明らかに戦闘前とは違うものだった。
『お前は行かないのか?』
かける言葉がない。短い間付き合いがあるとはいえ特に絆があるわけでもない。生きていたら憎悪を向けていたかもしれないがすでに三人共死んでいる。今は恨みはないが特に情もない。
そっとしておこう。そう思い鏡であの街での戦闘が終わったところまで確認。戦闘での休息なのか数時間崩壊状態の町で待機後、転移で別の町へ。そこでおそらく13人にとってはいつものことなのだろう王国軍らしき兵士たちとの戦闘で異能を使う気配もなし。異能を使わないのなら特に新しい情報も手に入ることはなさそうなので、書斎で暇でも潰そうかと向かったのはいいが何故かそこにはミリアージュが一人だけで本を読んでいた。例によって男同士のあれだ。確か一度読んだはずだが気に入ったのだろうか。
『二人の問題。私は、関係ないです』
……あれ。割と冷たい答えが返ってきた。三人で一組という印象が……と思ったところでよく考えればエドワート! 姫様! というやり取りが圧倒的に多くミリアージュとの絡みは少なかったことに気付いた。確かに姫と執事の間には固い絆があるようだが魔導師の少女とはそれほどの絆は無かったらしい。
『そもそも、私はあの二人、が好きではない、です』
おおい!? 無口そうに見えてとんでもないことを口走る幼そうな少女。思っていた以上に関係は冷え込んでいたらしい。
『あれか、我儘だからか』
『仇のようなもの、です』
言われてみて気づく。そういや首輪みたいなものをつけているな。
『召喚されたのか?』
首を振る。
『実は帝国に滅ぼされた小さな国の姫で奴隷にされて今に至るとかか?』
無いか、と思いながらもふと思いついた妄想を口に出してしまった。頷かれた。
……まさか当たるとは。
『そうか。まあそれなら仕方ないな。でもよくそれで姫達の傍に入れたな。途中で嫌になったり、あるいはぽろっと本音零して死刑、とかならなかったのか』
『心で何を思っていても、口に出さなければ問題ない、です』
どう答えていいのかさっぱり分からなかったのでそうか、とだけ答えておいた。必要以上に無口なのは不用意な発言を避けるためなのかもしれない。
特に何を言うでもなく、一日が過ぎた。会話なんてしたことのないコミュ障なので話すことが思いつかないし話したいわけでもなし。
流し読みした日誌あたりをもう少しじっくり読むか、というのを数時間で飽きた後は神々のシリーズを最初から読み返していた。だがやはり一度読んだものを読み返しても新たな発見なんて覚えることは俺は無かった。読む側から書く側へと変わるのは遠い未来ではないだろう。
皇女が書斎に入ってきたのは神々の最終巻を読み終わってわかりもしない専門書じみた本を読み始めてすぐのことだった。入るなと前は言ったはずだが魔導士の少女があれだから言っても仕方がない。
「力を。あれらに勝てるだけの更なる力を寄越しなさい。代償は何があってもいいから。力を寄越しなさい」
指だけで場所を変えることを示され彼女たちの部屋に無言で向かい、開口一番俺に向かって放たれたのはそんな言葉だった。
そんなことを言われても、と思う。いや、おそらくは出来る。能力の把握は出来ていなかったがおそらく出来るのだろうという直感はあった。
ただ、それをする気が恐ろしくない。
無表情の姫の後ろ。控える初老の執事が姫に向ける目線。歯を噛みしめ、震える身体。その姿は変わっていないはずなのに出会った当初のそれより明らかに老けて見えた。
『本気か?』
「本気ですが? これ以上の力に代償が伴うというのなら受け入れましょう。貴方の言いなりになれというならいずれ牙をむくまでは従いましょう。ですからあれを倒すだけの力を、寄越しなさい」
『寄越しなさい、とは頼む側にしては随分横柄な態度だな』
「改めろというなら変えますが?」
そう言って臣下がとるように跪く。
それを見てさらに執事の姿が震えた。
『出来るか出来ないか、で言えば出来ると答えよう。が』
「が、などと言わないで早く力を」
『俺がさらに力を貸してあいつらを倒したとしよう。だがそれは俺の力のおかげで倒せたというだけでしかなくなるぞ? 今でさえそれに近い状態だ。お前達の力ではなく。俺の力をふるうただの媒介以上の価値しかないということになるぞ』
「ええ、不本意ですがそうなるでしょう。ですが仕方ありません。私に力が足りませんでしたから」
執事が力なくうなだれた。恐ろしく萎える。あの姿を見てそれが言えるのか。振り向いてみろと言いたい。
『そうか。ならいい。そこの執事は俺の力に勝る価値は無かったという事だな』
「は?」
力の感じられなかった姫に今日初めて声に殺意が宿った。
『俺の力であれらを倒した。お前でもなく、執事でもなく、魔導師の少女でもなく。俺がこれ以上の力を与えるという事は。もうそういうことになると思うが』
「それは、私の力が」
『姫様の力が足りないのではありません!』
大きな声だった。初めて存在に気付いたようにびくりと震えて姫が初めて振り返る。
『申し訳ありません……私の力が足りないばかりに姫様にこのような仕打ちを強いてしまいました。本当に申し訳ありません』
目を見ることなく表情を見せずただ深く、頭を執事は下げていた。誰が見てもその様は覇気がなくか弱いただの老人の姿だった。
『そうだな。俺の力の方がそこの執事より、役に立つ。だからさらなる力を俺に求めた。ただそれだけか』
「は?」
皇女のその声は殺意が宿っているように見えた。
「ミチビキ。やはり先ほどの言葉は無しです」
『ん?』
「力はいらないと言いました。貴方の力がエドワートに優る? 何を言っているのですか?」
『事実だが?』
目を見る。力なく俺にすがるような目で見る先ほどの姫の姿はそこになかった。
「貴方には大きな力を貰いました。この力がなければ私は戦えなかったでしょう。そこには感謝しています。ですが」
『ですが?』
「私はあなたの力なんかよりエドワートの方をずっと信じています。生まれてから今までいつだって傍にいた私にとってのただ一人の英雄であるエドワートを信じます。私が一番強いと信じるのはいつだってエドワート以外にいません。だからあなたの力はこれ以上必要ありません」
下を向いていた執事の身体が震えた。姫は俺から視線を外し、踵を返して
「行きましょう、エドワート。私達の力であれらを打ち倒しましょう。そして、いずれは貴方を役立たず呼ばわりしたそこの骨に貴方と私の力見せてやりましょう」
『承知、しました』
執事は顔を上げ、真っ直ぐに姫を見た。
『このエドワート。姫様のその信頼に必ずや応えましょう』
「信じています」
「ではミチビキ。無駄な時間をとらせて申し訳ありません。これで失礼します」
エドワートを引き連れ、姫は去って行った。ミリアージュ本当にこういう大事な時は蚊帳の外だな。確かにあの二人だけで関係は完結しているのだろう。
『行かなくていいのか』
いつの間にか隣にいた蚊帳の外だった少女に問う。
『行く気がない、です』
『そうか』
まあ、これで良いんだろうと思う。これで駄目だったらまあその時はもうどうしようもなく心が死んでいるだろう。




