十三の放浪悪霊
それらの真なる力は個々が十本指に相当するように思えた
きっとそれが自分達に向けられていたら抵抗の意味は全くなかっただろう
当時三級冒険者だった十本指『断ち切り』ナルアの言葉
棒で体が叩き折られるのが死後のこの身体でよかった。今の私に痛覚は生前と比べて酷く鈍くなっている自覚はある。それでも自身の体を強引に叩き折られたら痛いに決まっている。
「っ!」
生きていたなら明らかに致死のその状態。だが私は生きていない。再生能力もある。問題ない。
私の体を叩き折った忌々しい悪霊が構えた。棒を水平に振りぬく、奇妙な構え。体が引き寄せられる、だが好機だ! 引き寄せられているということは距離を縮めているということ。剣さえ当てればさっきの男と同様に殺せるのだ!
「は?」
指が勝手に手を開いた。剣を持っていた右手の指を。必然的に剣を取り落す。
身体操作? ……まさか、あの棒を構えたおと……いや違う。その横で両手を前に突き出し、素手で構えるあの男の能力か? わからない。間違いないのはこの13人の亡霊全てがミチビキたち同様何らかの特異能力を持っているということだろう。
……つまり今まではそもそも本気ではなかったということだ。
悪寒が走る。桁違いだ。あの女の敵? 方城? あんなのとはまるで戦闘力が違う。謀略でもなく単純に戦闘能力が高い。
間違いなく、今自分達は圧倒的な苦境に立たされている。
剣を呼び出す。すぐに取り落す。おそらく身体操作。相手が素手であることから武器を手に持つことが出来なくなる異能か?
「えどわー」
名前を最後まで続けて呼ぶことが出来なかった。
エドワートの下半身が消滅していた。
明らかに動きが変わった。自分の獲物をわざわざ地面に投げ捨てるという奇妙な行動をする者もいる。だが、それで能力が下がるという事は間違いなくないだろうと確信できる長年の経験が今は恨めしい。
姫様は大丈夫か? 再生能力があれどもあんな酷い仕打ちを受けて心に大きな傷が出来ていないだろうか。今すぐ姫様の元へ向かいたい。
だが周りの物達はそれを許すつもりはないようだ。
『退け!』
姫との距離を最短で詰める。そのために邪魔だった悪霊の一人。石を持っていたはずのそれは既にその手には何も持ってはいない。だが、何故か腕を抑え苦しんでいる様子だった。
原因は分からないが弱体化しているだろう今一番やりやすい。
攻撃ではなくナイフで押しのけるように心臓辺りを無駄と思いながらも差し込んで
「なっ!」
何かに耐えるように自分の左手で抑えていた右腕が解放されたように動き自分の左腕を掴まれた。瞬時に起こる原因不明の掴まれた左腕の消失。
触られた場所を崩壊させる能力か? 本当に厄介な能力ばかり! 姫様、いや帝国にその力役立てればマシな扱いをしてやったものを!
それは既に右手を抑えることはしていなかった。
悪寒がする。解放された崩壊させられた左腕以外は何とか再生しきったその身体をなんとか右に動かし避ける。
そこに高速で伸ばされた右手が突き出され、あと1秒も遅ければおそらく胸を貫かれてどうなっていたことか。再生能力の効きが悪い。間違いなくあの右腕は再生能力の阻害する能力も同時に持っているのだ。
危険、頭の中にその言葉が何度もよぎる。明らかに攻撃性能が上がっている。身体能力はそのままだが明らかにこちらの損害が増しているのだ。姫様も棒で腹に棒がめり込むほどに恐ろしい打撃を叩き込まれた。
……だからこそ行かねばならない。このまま分断状態が続けば成す術なく叩かれ続け何も出来ずに消耗し続けるだけだ。まず姫様を迎えに行き、ミリアージュと骨の元まで共に下がらなければ。
駆け出す、右腕の男に危害を加えることはしない。ただ真っ直ぐに姫様の元へ!
右腕の男の横を走り抜けようとする。前にそれ以上足が進まない。まるで何か強大な力に押し返されるように足がそれ以上進まない。
また誰かの能力か! 今度は誰だ!? 一旦後ろに下がり、様子をうかがう。複数いるから誰の仕業かわかりづらい。おそらくミリアージュと骨の元にいる4人は違うだろう。そしてすぐ横の男もおそらく違うはず。能力が一人につき一つという保証は無いが。おそらく姫様の元に向かおうとして反発しているため姫の近くにいる誰かだと思われる。棒を持って姫様を強打しているものは違う、姫を見ている素手の男もこちらを対象としていない。なら……棒を持った男の後ろでこちらを見ている剣を持った男がおそらく最有力。
が、それがわかったところで先に進めなければどうにもならない。どうする? まずは
頭部に衝撃、ふらついたところで少し時間をおいて下腹部に衝撃を受けた。
「エドワート!」
悲鳴に近い声が漏れる。駆けつけようとしても抵抗しようにも引きずられるように引き寄せられる身体にいら立ちを覚える。話にならない。連携すら取れる気配はない。ミリアージュの魔術が不自然に発動しないのもこれも何かの能力のせいか。どう見たって今の自分達でどうこうできる相手ではない。
見誤った。最初の男、方城達と特に準備もなしで方城達に苦戦したとはいえ勝利をしたのだ。意思なき亡霊ごとき多少強かろうと何とかなると、そんな慢心があったのだ。ミチビキがもう少し情報をくれれば! あの力の無駄遣いはなはだしい骨にその面を期待するのが間違ってはいるのは分かるが!
二度目の衝撃を覚える。下半身とよく見れば左腕が再生が遅いどんどん削られるエドワートの姿に不安を覚えるもこちらだって再生は通常通りでもただの無抵抗な人形状態だ。せめてミチビキの元にまで下がれれば。
そう思いながら首だけをミリアージュとミチビキの方に向け、ミチビキと目があった。
ミリアージュを抱きかかえながら何を思ったのかゆっくりとエドワートの方に歩み寄るミチビキ。攻撃を加え続ける五体の亡霊に何の損傷を負った様子もなく新たに攻撃に加わった四体もまた同様にその攻撃を無効化し。
エドワードを右腕に担ぎ込んでこちらに歩を進めてきた。
ミチビキにしては先ほどのと合わせて非常に良い判断だ。もしやミリアージュが何か口添えでもしたのだろうか。いや、あの無口が自分から口を開くことは無いだろう。
『まあ……俺だけ他人事みたいな呑気な口を叩いて申し訳ないが』
『撤退するか』
門はミチビキの拒絶の意思に呼応するように十三の亡霊達を通すことはなかった。
「何しに来たんだ?」
誰かの小さな声が聞こえた気がした。
……本当に自分達は何をしに来たんだろうか。




