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邪神 蚊帳の外  作者: トツキトオニ
復讐の追撃者
23/31

望郷の十四悪霊

 帝国第一皇女が召喚にあたっての条件として組み込んだのが

 一国の軍相手でも容易く蹴散らせるだけの戦力を持った者、というものだった

 戦闘経験が無いにも関わらずその条件に当てはまってしまったということは

 単純に戦力がそのマイナス要素を補う程の強大さを持っていたということ

 それを誰もが理解できていなかった

 装備なんてなくてももともとの素質が高かったことに気付かなかった

 この世界において彼らは学生ではなく強大な力を持った異界の魔物だ





 いつものように唐突にそれらは現れ、待機していた王国軍と冒険者の混合部隊と戦闘。彼らに微小な損害しか与えることができずに全滅。参加する冒険者は報酬が跳ね上がっていくにも関わらず日に日に少なくなっていき、今回戦闘に参加した冒険者は6人パーティと7人パーティの僅か13人。それもただの2人を残して全滅という悲惨な結果となっていた。

「だからやめておこうってあれだけ言ってたんだよ! ナルア姉もう逃げるべきだよ! あれ絶対無理だから! あの分厚い鎧で耐久が尋常じゃないうえにあんな重い装備なのに死霊だからかやたらと速い! 武器も絶対あれやばいって! 魔道武器だよあれ! しかも霊に特効のはずの聖別された銀の武器普通に効いてないじゃない!? 逃げようって!」

 革の鎧に胸と股間を金属で覆っただけの軽装に分類される格好の短い金髪の女が右隣で長剣を地面に突き刺しながら油断なく辺りを見回している黒い動きやすい布製の上下の服のみで鎧すら身に着けていない長髪の赤髪の女に叫んでいた。

「でも、ここで逃げたらこの街の住人に更に被害がでる。私たちが逃げることでより多くの人が死ぬかも知れないんだ。勝てずとも」

 ナルア姉と呼ばれた女は視線は周辺に油断なく向けながら隣の少女に声だけで答える。

「意味がないよ! あれ相手にまともに戦えるって!? 王国軍も手も足も出ないで壊滅状態! 私達がここで決死の覚悟で食い止めたって! 救える人数なんて微々たるものだよ! 私たちが今生きているのだって運が良い以外の何物でもないんだよ!? ……ほんの数人程度を助けて私とナルア姉が死ぬくらいだったら私はナルア姉引きずってでもここから逃げ出すよ。あれは私達じゃどうしようも無い。ギルドでも十の指くらいじゃないとどうにもならないよ。ナルア姉。私達、力の差がありすぎる相手に特攻して無駄死にするために冒険者になったの?」

「い、いや……」

 自分一人ならその選択肢も選んでいただろう。だが、分かってはいるのだ。この状況で自分が救える命は本当に少ないと。そんな成果よりも自分と隣の妹分の命の危険の方がはるかに大きい選択を村にいた時から一緒に生まれ育った妹分のネーリに付き合わせるなどしてはいけない。そして、この男嫌いの危なっかしい妹分は男に対して挑発的で傍で見ていないと心配でたまらないのだ。

「無力だな」

「うん」

「だが、あれとは関わらなくとも一般人をこの街から脱出させる手助けくらいはしたいんだ。戦いはしない。ただ、ここから南門に向かう途中でもし一般人を見つけたら。彼らを守りながら街を脱出することだけに専念する。それなら付き合ってくれるか?」

「う、ん。分かった。それなら何とか」

「ありがとう」

 方針がまとまり動こうとしたときそれは現れた。

「何だ? あれは? 門?」

「え? どこ? 何にもないじゃない?」

「え?」

 自分には見えて、妹分には見えない。胡散臭い。だが、あれが何であれおそらくそこから出てくるモノはこの状況を大きく変えるだろう、とナルアは直感していた。




 それらはすぐに門から出てきた者達に気付いた。そしてそれらが自分達にとってこの街で最も大きい脅威になると気づいた。そしてその者達が自分達に紛うことなき殺意を抱いていると気づいた。

 ゆえにそれらは最優先で攻撃を仕掛けるのは当然のことだった。



 先手を打ったのは鈍器を持った男子生徒の亡霊だった。地球でいうならバットに近いそれは生前野球部にいた彼に最も馴染みのある形をしていたことで選んだ武器。生前、それらを使うことなく溶かされ死んだ彼は死後、亡霊となった後そのバットに似た鈍器で人々を万を超えるくらいに屠ってきた。


 高速で踏み込み背を姫達から見て右に向け鈍器を両手で握りしめるように構え、水平にスイング。それは紛れもなく向かってきたボールを打つバッターの動作だった。狙いは一番先頭で姫を守るように立つ初老の執事。

「くっ!」

 重い。武器の重さもさることながら何度も繰り返され洗練された動作は向上した身体能力と相まって常人相手なら容易にその身体を砕いてしまう程の衝撃を与えた。避けようにも左右から槍を持った別の男子生徒が迫って回避する空間がない。後方には守るべき主。自身の再生能力を頼みに左腕が砕けながら衝撃を僅かにでも軽減するようナイフを向かってくる鈍器と自身の身体の間に挟むことしか出来なかった。霊への攻撃に多大な効果を発揮するはずの銀のナイフは傷を与えた様子はない。

 そういえば、あの呪いの防具は全て各種の魔術、あるいは金属の特性を軽減する効果を持っていたことを思い出す。先に戦った女達と違い、精神の壊死とともに魂にまで融合したのか死後もそれらを身に着けた目の前の亡霊は攻撃が非常に通りにくい。露出した顔を狙えばあるいは効果がありそうだがそれを今まで戦った王国軍が試していないわけがない。おそらくは魂まで融合したそれらは露出している顔にも同様の軽減効果を発揮しているとみて間違いない。つまりはリビングアーマーに近い存在になっているのだ。呪われたとはいえ性能の高い装備を厳選したのが仇となった。軽く舌打ちをしたが今更どうしようもない。


 時間差で槍を左右から突き出される、腕を砕かれていた執事にまともに避ける術はない。そして視界にすぐ後ろにいる姫に離れた場所から投擲物を投げようとする亡霊の姿をとらえた。

『姫様!』

「わかっています!」

 剣を突き出し、白く鈍い光を放つ刀身が投擲物を投げようとする男子生徒に向かって飛ぶ。が、それらは尋常ではない反応速度によってかする事すらなかった。が、投擲の動作は中断させることは出来た。


 次に魔導師の少女の最も得意とする無詠唱での火球。爆風を発生させる爆ぜる炎精霊の火球よりは付加効果は無いが殺傷能力に問題はない。


 はずだったが。それを受けた鈍器を持った男子生徒が傷を負った様子はまるでなかった。

「ほんとにろくでもない」

 方城達と違い特殊能力ではなく強化された魔法軽減の鎧の効果。耐久力だけでなく能力ではなく純粋な身体能力による攻撃力の高さも持ち合わせているのが厄介なところだ。つまり特殊能力関係なしに素で強い。


『姫様! この者達! 数が多いうえ純粋に一体一体が恐ろしく強力な戦闘能力を! 有しています! 範囲魔術と私の武器が効果が薄い以上、姫様の剣で』

「ええ!」

 目的を三人の攻撃での撃破からレイミリアの剣だけの攻撃での撃破、二人はその補佐に切り替え。やはりさらなる力をぼーっと突っ立っているだけのあの骨から受ければよかったかと執事は思いながらもそれは口からは出なかった。今とて願えばあれらと戦えるだけの力は授けてはくれるだろう。だが、それは生前から培ってきた技術が、力が無意味だと否定してしまうようで。自分の下らない矜持に過ぎないとわかっていても口からその言葉を出すことを妨げていた。



「くっ!」

 後ろの骨に一人の男子生徒がメイスと呼ばれる鈍器を振り上げて直進していた。骨には剣では効果が薄いだろうと粉砕を得意とする獲物を持った者がただ門から少し離れた場所で様子を見ていた骨に相対したのだ。


 が、それが骨に届くことはなかった。

 骨に当たる前に弾きかえされた鈍器。

「屋敷の守護!」

 正体に気付いたレイミリアが声を上げる。

『屋敷の守護が管理者に与えられて』

 骨の言葉を思い出す。冥府の狭間の管理人たるそれはそれが騙りではなく真の冥府の狭間の管理人なのだとしたらその存在は世界の一部といえる。つまりこの世界において絶対的な力の一つ。神の力と言っても過言ではないそれは紛れもなく無敵とすらいえる防御を誇っているだろう。

 30、いや、もう25、6分? いやもっとあったはず。時間制限はあれど攻撃よけの盾としては紛れもなく最高峰と言える骨。守るべきは。

「ミリアージュ! そこの骨の近くに立っていなさい! 向かってくる敵には骨を間に挟んで!」

 詠唱を中断させられては厳しいミリアージュ。どのみち三人共骨から与えられた強大な再生能力があるが動きを中断されたら誰が一番まずいかと言われればそれは攻撃行動に詠唱が必要なミリアージュだった。自分は剣がある。攻撃に準備行動は必要ないしむしろ自分に集中した方が当てやすいためやりやすい。ならば最も攻撃の集中的に受けやすい先頭に自分が立つべきだろう。そして攻撃範囲が広いミリアージュを骨を盾にして後方に。

『俺は盾代わりか』

 呆れた様な声音だが拒絶の意思は無いようで骨自ら魔導師の少女の傍へと歩みを進めた。それを確認した後レイミリアは前方に身を躍らせた。前方にいるのはまだ攻撃に参加していなかった9の亡霊。突っ込んできたレイミリアに攻撃を加えようと接近し、しかしすぐに飛びのいた。

「ちっ!」

 この剣が危険であることを悟られている。剣を伸ばすのは直線にしかできないため、警戒されていては当てるのは厳しいだろう。意思がないはずなのに無駄に知恵が回る!


 レイミリアから離れた6人の亡霊。4人がメイスを構えた1人と合流してミリアージュと骨に、2人は既に3人から囲まれている執事へ。そして3人と投擲物を投げようとした男子生徒が合流して遠距離3人中距離一人。近づかずにレイミリアを攻撃しようと弓が一人、石が二人、モーニングスターと呼ばれる鎖つきの鉄球で少し離れた位置から攻撃しようとするものが一人。

「姫様! 申し訳ありません!」

 再生する傍から砕かれ、刺され、執事はまともに動きが取れない。早い。身体能力で言えばほぼ同等か囲む男子生徒の方が上だろう。技術も何も力ですり潰されるように絶えず攻撃を受けていて攻勢にも回れず、離脱も難しい。

 ミリアージュも同様だった。全方位からやってくるそれは所詮一方向しか塞ぐことのできない骨では防ぎれなかった。骨に対して効果がないのは気づいただろうが、その強固な結界も攻撃を続ければ砕けると判断したのかメイスの一人が攻撃を。残りはミリアージュへと攻撃を。

 小柄なミリアージュの体が刺し傷、斬り傷、陥没に覆われるのはすぐだった。

『ん?』

 何かに気付いた骨は無残な状態の魔導師の少女に更に密着し、後ろから抱きしめながら立った。

 骨に密着状態になったその身体は5人の攻撃を完全に遮断していた。

「ミチビキ! あなたにしては良い判断です!」

『よくやった!』

『俺にしてはって。いや、頭が回るとは自分でも思っていないが』

 ミリアージュはこれで防御に意識を割く必要はないだろう。ならば後はこちらの補助に専念できるはず。動きさえ止めてくれれば良い。後は自分が!



『氷結女王の茨』

 周囲を氷の茨が覆い尽くした。

「伸びろ!」

 一瞬だけだろうが動きが止まった。目の前にいたモーニングスターの男子生徒に剣を突き出し、足を氷で覆われ、回避行動が遅れたその男子生徒の心臓を今度こそ貫通した。


『いえ、に』

 短く呟いた後モーニングスターの男子生徒は溶けるように姿を消した。

「よしっ!」

 まずは1人。まだ13人残っているがそれでも1人倒せただけでも大きい。後はこうやって一体ずつ倒していけばいいだけだ。

 ミリアージュ。またお願い。


 そう言おうとして、自分の体が後方に引きずられているのに気付いた。

「え?」

 誰かに掴まれている? いやこれは何かの力で引きずられている!

 その光景を見ていた骨はそれを見て一つの感想が浮かんだ。

 野球みたいだな。




 加速しながら引き寄せられるレイミリアの身体。その引き寄せられた先に待つのは万全の体制でバットのような金属製の鈍器の棒を構える元野球部の男子生徒の悪霊だった。

 レイミリアの背骨に水平に振りぬかれた棒が直撃。めり込み、その身体に凄まじい衝撃を伝えながら強引に背骨を叩き折った。



『これは……』

 13の悪霊の動きが変わる。







 14の男子生徒の悪霊は確かに人を殺していた。

 万単位。帝国全土、王国国境沿い。合わせれば100万を超える数を殺しただろう。

 だが、女子生徒と違い彼らは人の生気を喰らったことは一度たりとてなかった。

 つまりはそれは女子生徒の様に姿が変質したわけでもなく、不純な力を取り込んで己のみの特性が消失したわけでもなく。

 彼らは誰一人異能を失っていなかった。精神の大半が死滅したとしても特性を失ってはいなかった。



 今までは単にそれを出すまでもなく戦闘が片付いていただけだ。



「まさか」

 ありえない。そう呟きながら恐怖の表情を引き飛ばされ、無残な体となって地面に横たわる帝国第一皇女。

 本来の13悪霊は今始まったばかりだ。

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