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邪神 蚊帳の外  作者: トツキトオニ
復讐の追撃者
20/31

信じぬ王

 一つだけ昔から絶対に変わっていないと確信できるものがある

 自分の執事、生まれた時から傍にいた私だけの執事を私はいつだって信じている

 それだけは死者となった今だって変わっていない

 死ぬ直前の狂乱は数えないで、がつくのがあれだけど




「見つけました」

『え? あれ……ですか? いえ。姫が言うのなら間違いがないでしょうがあれらは殆どが黒髪だったように記憶していますが随分と姿を変えましたな』

 首をかしげるのも無理はない。執事の疑問を含んだ声を聞きながら視線だけはそれから離さずレイミリアは隣に声だけを返す。談笑する姿は無防備で視界に捉えられる位置にまで敵が接近しているなどとはまるで気づいてない。

『どうされますか?』

「殺します。場所を聞いても私相手にはおそらくあれらはまともな答えは返さないでしょう。構いません。どこにいるのか情報を得る必要はないし、それ以外聞くことはありません」

『ホウジョウの能力に関しての情報は必要では? ミチビキのように厄介な能力を持っている可能性も。いや、あれらも所持している可能性も前回の男、ミチビキを考えて不思議ではないでしょう』

「ええ、それでも今殺します。私が我慢できませんから」

『承知しました』




『でさ』

 雑談を続けようと声を発したその少女は最後まで言葉を続けることはできないまま意識の終わりを告げた。

『は?』

 目の前で首が落ち、溶けるようにその姿を薄れさせていくクラスメートの女に、残った4人の女は悲鳴を上げようとして、いつ自分も同じ目に合ってもおかしくないと気づき、周囲を見渡しその全てが一点を向いた。

 首を落としたのは長く伸びた鈍く光る刃だった。その刃の根元に敵がいるのは明白で、それを察することができないような女はいなかった。


 一つ目のミスは散開をしなかったこと。生前の、平和な日本での集団行動の癖。そして死後にも直らなかったその癖はあきらかに伸びる刃に対して固まって行動するのはまとめて切ってくれと言わんばかりの行動だと、圧倒的な亡霊としての地力で戦火ですべてが終わった後に僅かに残った一般人のみ蹂躙しかしてこなかった経験の少ない女達にはすぐには理解できなかった。


 一番端にいた女が右から水平に薙いだ刃に胴を切られ、その隣の女も同様に切断され、意識を絶たれた。間一髪反応が間に合って回避に成功した左の二人はだが二つ目のミスを犯した。


 逃亡ではなく、攻撃へ。自分達のリーダーに合流し、襲撃を伝えることを女達は選ばなかった。

『あんたのこのこ現れてやってくれたじゃない!』

 皇女に反感を持っていた女達は、自らの獲物である強力な毒を帯びた短刀を持って、直線にレイミリアの元にフェイントもかけず一直線に掛ける。

 速い。一般人なら回避することは不可能と言っていい速さだった。それは人を食らうごとに容姿と共に向上した身体能力の賜物であり、だが、それは戦闘慣れした強者から見れば明らかに読みやすい動きでしかなかった。





『ご無事ですか? 思ったよりは簡単に行きましたので問題ないとは思うのですが』

「ええ。ありがとう。まあ力は強かろうが所詮はそれの扱い方はしらない素人だった、ということでしょう。おそらくは強者と戦った経験がなかったのでしょうね。レギオンや鼠、スライムとだってまともに戦ったわけではありませんでしたし。何らかの能力を持っている様子もありませんでした。ミチビキやあの下劣な男が特別だったのでしょうか?」

 消え去った体のあった部分一つ一つに視線を向け、完全に命を絶ったことを確認しているレイミリアに息も切らせずに返り討ちにしたエドワートは首を振り

『そうかもしれません。強力な能力を持った者が10人以上いるなど考えただけでも恐ろしい。あの二人、あるいはレギオンの三体が特別だったと信じたいものです』

「ええ。そう信じたいけど。ミリアージュは大丈夫?」

『問題、ありません』

 口数が非常に少ないもう一人の従者に念のため声をかけてからレイミリアは次の目標への移動の開始を告げた。生前もいつの間にか姿が後方にあった従者は声をかけないといるか不安になるのだ。



『まさかお前が来るとはな。なるほど、死んだのか。だからあそこから抜け出せたのだろう。あれだけ傲慢な態度をとっていて自分も命を落としてどんな気分だ?』

 方城は酒場にいた。廃棄され、埃が積もった椅子の一つに座りながら、退屈そうに座っていた。その表情はいつもの見慣れた女達ではなく、自分を死に追いやった仇の女を確認したとき大きく目が見開かれたが、すぐに平静を取り戻し、口元にだけ嘲るように笑みを浮かべながら正面に相対する形となったレイミリアに声をかけた。どちらもその両隣には守るように二人の従者の姿がある。

「この上なく悔しいな。だが、その後悔もお前達を斬る事で晴らしていくとしよう。一足先に消えたお前のお仲間10人が待っているぞ?」

 表情を変えることなくレイミリアは方城を見据え、その左隣にいるエドワートは表情に殺意を隠しもせず、僅かに手にもつ二つのナイフを小さく揺らしている。ミリアージュは変わらず無表情だった。

『あれらは今は仲間だと思っていない。人を食らって自分の形を保てんような奴らを俺は仲間だと思わんよ。女は理解できん。美容にいいとわかれば死人だというのにどんなことでもしたがる。人を食らうことでもな』

「だが、止めなかったのだろう?」

『力は増すからな。それに下手な能力を持つよりは基礎能力を上げたほうが扱いやすいと判断したのさ。能力を扱えるのは俺と隣の二人だけでいい』

 そう言って隣の二人に目を移す。他の十人と違って長髪と短髪と髪の長さに違いはあるもののどちらも黒髪で平凡なその顔つきは恐怖に歪んでおり、しかしここで抗わなければ死が待っていることだけは理解できているようで逃げる様子はない。

「やはり、能力もちか。ミチビキもおそらくレギオンとなったあの三人もお前の師も下劣ながら特異な能力を持っていたからな。お前達も持っていてもおかしくはないとは思っていた。だが、あるとしても発動する前に斬るがな」

『ほう。ならこんな無駄話をして良いのか? 強力だが準備に時間のかかるものをこうやって無駄話で時間を稼いでいるという可能性もあると思うが? お前は手駒を手に入れてもそれを扱う術は拙いな。10人も失った俺が言えた義理ではないが、お前は人の上に立つ器ではなかった』

 嘲るような声音で、一目でわかる嘲笑を浮かべながらレンズの奥に

「ふん、そうならわざわざ自分から言い出さないだろう。人の上に立つ器ではない? 理解しているさ。だからこそ国にこんな取り返しのつかない悲劇をもたらしたのだ。だから冥府に行く前にお前達をこの世から掃除してから去ろうというのだ。それが私のしたい、するべき償いだ」

『なら呼ぶなよ』

 その言葉だけは表情をなくして呟かれ

「お前達に来てほしいとは思っていなかった」

『不確定要素をわざわざ招き入れる馬鹿が。だからお前は無能なんだ』

「そうだな。召喚術の資料は処分しておこう。次がないように、な」



 始まりは初老の執事だった。生前と変わらぬ、生前以上の速さで目にも止まらぬが比喩ではないほどに迅速に、首領である方城に刃を向けた。愚直なほどに直線的な動きは瞬時に方城の前に姿を現し、しかしその刃が方城に突き立てられることはなかった。

『なっ!』

 受け止められた。だが、それは反応が早かったのではない。

『動きがっ!?』

 エドワートの動きが格段に鈍くなったからだ。速さが鈍る。それは凡人と言っても過言ではない鈍い動きでそれを受け止めるのに方城は苦労することはなかった。

 幅の広い短刀だった。攻撃よりもそれを受け止めることに主眼を置いたと思われる短刀は頑丈で、しかし高価で質の良い素材で出来ているのか軽い。

『ふん。能力? とっくに一つ発動してるさ、は!?』

 嘲るような言葉を呟いた直後エドワードの心臓から金属の切っ先が現れたのを見てその表情を歪め、後ろに僅かに下がる。直後にエドワートの胸を貫通し、鈍く光る刃が姿を見せた。攻撃の直前まで執事の自身の体を使った隠蔽によって反応の遅れた方城は完全に避けることはできなかった。

『方城君!?』

『落ち着け! 目の前の敵に集中しろ! 動揺してどうにかなる相手じゃないぞ!』

『っ!』

 悲鳴を上げる二人の女生徒に怒鳴り返し、自分の腕を切断したそれを眺めながら舌打ちする。

『死んでるから味方ごとというのもありか。ふん、初めからお前の姿を隠すのが目的だったのか』

『殺すつもりで攻撃したが? 厄介な能力だ。身体能力を奪う類か』

『知らんな。敵に答えをいう馬鹿がどこにいる』


「どうでも良いわ。お前たちが死ねばそれで良いの」

 ミリアージュ、と小さく呟いて隣にいた従者が小さく頷き

『万物焼きし根源の大火』

 長時間の構成作業が必要な、大魔術に分類されるそれを解き放った。


『無傷、ですな』

 崩れ落ちた酒場から退避し、避けなかった自身も焼き焦げ、しかし呪いとも呼べる冥界の骨に与えられた能力で急速にその身を修復しながら動揺を見せることなく執事が言う。

「ええ。ミリアージュの3つの最上位魔術の一つを受けてあれ。おそらくはこれも能力。有効そうなのは魔術より武器による攻撃でしょう。私と貴方が主体で。ミリアージュは攪乱お願い」

『承知しました』

『は、い』


『お前の方が時間稼ぎをしていたんじゃないか』

 失った腕はそのままに。だが魔術の大火による傷はまるでなく、三人は焼け落ちた酒場から姿を現した。

「していないとは言っていなかったと思うが?」

『そうだな。だが、無意味だ。いや、動きを止めるか、視界を潰すのは有効か。気を付けなければな』

 方城は大仰に腕を広げ、だが、構えは取らなかった。

『なら、今度はこちらから行こうか。やられっぱなしは癪だからな』


『任せたぞ。日下部』

 頷き、そして。



 レイミリアの首が飛んだ。

『姫様!』



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