彼の終焉
世界を渡ってすぐ、男は一つの能力に目覚めた
強力な認識阻害。男の存在を知覚できるものはなく、男は自らが庇護すべき存在達を置いてその場を去った
目に付いた女を犯し、やり捨てる
それを繰り返してなお男はつかまることは無く男はこの世界に来たことに歓喜した
だが一度目の終焉は捨て去った教え子達に図らずも与えられる形となった
そして与えられた二度目の死霊としての再度の機会
更なる能力を身に着けて欲望の限りを尽くし、そして自らの分身となる種を撒き散らした
不幸だったのはその種をまいた女も軒並み殺されたことくらいか
だが、有頂天になっていた男に二度目の終焉はすぐそこに来ていた
『こいつで良いんだな?』
「ええ、まずはこの身体を慣らしていこうと思います。いきなり帝国を滅亡に追いやるほどの力を身につけた14人の相手は厳しそうですから。この力、帝国のために役立ててもらいたかったものです」
『待遇改善しないと駄目だったろ。そもそも魅了が無くともあいつらなら普通に美貌で骨抜きに出来たとは思うがな。うちの国ではお前ほどの美人は少ないから普通の男には縁がないんだ。だから基本美人には弱い。男だから仕方ない性だよ。まあ俺はそっちより人嫌いの性質の方が強かったみたいだが』
「……ええ、そうですね。そうすべきでした。そして気づくべきでした。私は召喚の対象に戦力になるもの、という条件を術式に組み込んで召喚しました。だというのに戦闘経験がない物がやってきた。でもだからといってそれが磨いても使えないままだということはありえなかったと。ミチビキ」
『何だ?』
「私は、貴方の言うほど大した人間ではないですよ? 美貌だけで人を完全に服従させられはしなかったし、魅了の術で縛ってさえこれ。ついでに馬鹿な判断で状況を悪く悪くさせてばかりだった。きっと私には貴方達を使役するほどの器は無かったんです。だから扱いきれない化け物を呼んで帝国を荒廃させてしまった。その罪は許せるものではないですが、後始末だけは私がしたい」
いつものように女を犯していた。最近は誰かに襲われた後なのか死体しかなく、犯したくなるような女がいないなどという状況もあったが、そういうときでも不安そうに立つ女はひとりくらいはいる。最近では廃墟と化した街で女がいなくて我慢できなくなっていたところで見つけた幼女を襲って以来、10歳以下の女でもいけるようになった。
この力は良い。自分に眠っていた力は女を襲うのに最適な能力だった。やはり自分は女を自分のものにするために生まれてきたのだ。異世界とやら万歳。もう元の世界に戻らなくたって良い。
だが、自分を殺したあの忌々しい生徒達には消えてもらいたいが。だが、いずれ誰かがそれは何とかするだろう。討伐隊だって出来るはずだ。
自分は女を犯すだけ、可愛いものだ。
「誰、だか知らないけどやめ、てぇ」
この悲鳴が良い。女を征服したような気分になる。地球の時だって法が許せば同じことをやっていただろう。この世界はあんな堅苦しい法が無くて本当に素晴らしい。
終焉の始まりは数秒後にやってきた。
『まあ、お楽しみの最中だな』
初めに足を踏み出した骨が男を見て言う。全く持って関心がないとでも言うようにすぐに周囲の景色のほうに視線を移してそれきり男の姿を見ることは無かった。
「下種め。だが、この程度の相手は初戦には丁度良い。肩慣らしと行こうか」
次に門から踏み出したのは金髪の酷く美しい女だ。白いドレスを身に纏い、右手には鈍く光る剣を携えていた。間違いなくこちらを殺意を持って見つめている。おそらく歪んだ口元は嫌悪を表しているのだろう。
『姫様、万が一のときは私が』
次に出てきたのは初老の男だ。黒と白を基調とした執事服で姫と呼んだ相手の従者であるのは明白だった。右手にはナイフを。左手にもナイフを。こちらを虫を見るような目で見ている。
「エドワート、お願いです。今回は、この程度の相手くらいは、私だけでやらせてください」
『応援、してます』
こちらを殺意を持って眺めながら最後に出てきた魔道師の少女が姫と呼ばれた女に声をかけ。
「ありがとう、ミリアージュ」
礼を言った後女は骨を押しのけて前へと進み出る。
女を犯していた男のいた朽ちた町の大通り。そこに唐突に巨大な門が現れた。開いた先からかつて教師を名乗っていた男の前に現れたのは、いつか見た三人と、見覚えの無い骨だった。
逃げよう。状況は最悪だ。そもそも自分に戦闘能力は殆ど無いといって良い。男子14人? あんな化け物みたいな力持ってるわけあるか。一人相手でも何の抵抗も無く切り捨てられている自信がある。自分にとっての絶対的なアドバンテージだったはずの隠行の能力。あんな完全に認識されていたらただのそこそこ足の速い悪霊でしかない。だが、ここは先ほどの大通りと違い個々は裏道、撒いてしまえば良い。門から出てきたと言うことはこの街の地理は俺よりは詳しくないはずだ。
だがまずい。一番の頼りの能力が効いていない。死霊になってあの14の化け物にすら認識されないようになったはずの完全な隠密の能力。それがあんなただの人間に認識されるだと? どういうことだ。
「やはり、ミチビキがお前を認識していたから私にも認識できていただけか。恐らく近くにはいるだろうが姿形が見えない。厄介な能力だ。お前達は皆死んでからやたらと有能になりおって。ふん、魂そのものを束縛する術式を開発していれば死後も魂ごと支配して使ってやったものを」
ミチビキ? ああ、道比木か。恐らくあの骨だ。自分と同じ悪霊になって姿が変わって分からなかったのだろう。あの劣等生がこいつと一緒に行動していたのか。あの門。おそらくあれがあいつの能力で間違いない。そしてこいつの話からあいつは俺の隠行すら見破る眼も持っているのか。だがこいつの話が本当なら今道比木はこいつの傍にいない! そしてこいつには俺は見えていない!
いや、おかしい。ならなぜこいつの声を俺が聞き取れる? つまりそれはすぐ近くに。
「だが見えなくても問題ないな。私にはお前がそこにいると分かるのだ。私は決めたのだ。お前達を滅ぼすことを、この身を滅ぼしてもお前達を滅ぼすことを!」
右腕が唐突に切断された。痛い。どういうことだ? 見れば後ろにはいつの間にか女が追走してきて鈍い光を放っていた剣を突き出していた。刀身が十数メートルにまで伸びている!
しかも何だ!? 何故切り落とされた断面から体が崩壊している!? あの剣はまずい! どう見たって亡霊に恐ろしく効果のありそうな剣ではないか! そうだ、言っていた。俺達を絶対に殺してやると。つまり大半が亡霊になったクラスの奴を殺すために霊に特効の武器を用意したのか!
『糞がっ!』
見えないといっていた、なのにここにいると分かるといっていた。恐らくは眼で見えてはいない。だが何らかの能力で自分を捕捉しているのだ!
『待て、俺もお前に協力しよう。街を次々にぶっ壊しているあいつらを殺したいんだろ? 偵察なら得意なんだ! 俺はあいつらにだって認識されない』
「いらん。私がお前を生かしておく意味がない」
その言葉の後視界が縦にずれた。数秒後、男の意識は闇に沈んだ。
『お見事でございます』
レイミリアが門の前に戻ってすぐ駆け寄ってきたエドワートが怪我はないかと全身に視線を走らせてほっとした様子で眼を閉じた後、頭をかけて賛辞の言葉を送った。
「いえ。大して戦闘が強いわけではありませんでしたから。それに私自身の能力ではなく、道比木から与えられた剣、そしておそらくは復讐相手を完全に捕捉する能力。これも最後のあの言葉で与えられたものでしょう。私自身の能力は役に立ってはいませんよ」
それに剣を掲げて首を振って執事の言葉を否定する。少女に喜びの色は無い。
『そんなことは』
『だが、結局お前が動いてお前が追い詰めて、お前が息の根を止めたんだ。俺じゃなくお前が成した事だというのは間違っていない、と俺は思うがな』
「あら、優しい言葉をかけるんですね。情が移るのを期待しているのですか?」
『そんな真似が出来たらクラスではぶられてぼっち…一人の孤独身になってるわけがない。人嫌いになっているわけがない。思った事が何も考えずにそのまま口に出た、と素直に捉えて問題ないさ』
「そう……ならこちらも素直に受けて取っておきましょう」
『第一、こんな硬い話し方をしているが向こうの世界だってそうだったが大して頭が良いわけでもなし、そんな事は出来ん』
「素直に受け取っておくといったのですからそこで話を続けるのは意味がないと気づくべきでは?」
確かに世を渡るだけの社交性は無いようだ。レイミリアは目の前の骨にそう評価を下しておかしさを感じながら、しかし、同時に鼠を生み出し、スライムを生み出し、あのレギオンを生み出したのも目の前の男だと言うことを思い出す。が、まあそれらは深く考えた様子もなく生み出されたのは間違いない。それどころか能力の把握すら出来ていないだろう。だが、おそらくは最も厄介で、突出して強力な能力を持っているのも間違いない。あの冥府の屋敷自体の加護と生み出した魔物の力と合わさり殺すのは召喚した者達の中では群を抜いて難しい。が、そんな強大な能力を使いこなす知能がなさそうなのが幸いと言うべきか。
だが、その気はなくとも帝国の民を傷つけた。その時点で既に自分にとっては敵であることに違いは無いのだ。おそらく最後の敵だろう。それまでは気まぐれで協力してくれる味方と言えなくもない。
『次は誰にするつもりだ?』
「そうですね、力の面でホウジョウでしょう。それに話によると人を喰らい力をつけているとか。あれに余計な力をつけられる前に、消します」
そうだ、まずホウジョウだ。精神が崩壊して知性が無いと言う男14人より今は弱いが成長されては厄介な方を潰す。あれとは決着をつけておくべきだろう。
『そうか。ん、おおお! これは!? 吸い込まれる?』
頷いた後何かに引っ張られたように後ろに倒れた後引きずられるように門に吸い寄せられるミチビキ。説明にあった制限時間とやらがきたのだろう。
「また会いましょう」
情報をお願いね、ときちんと口に出しておくべきだったか。門が閉じられ、姿を消してから不安を覚えたがそこまで馬鹿ではなかったはず……たぶん。おそらくは。だが、次に会う時は明確に口で念を押しておこう。
『姫様? 一緒に戻ってまた門を開かせて直接転移した法が良かったのでは?』
「いえ、次の門が開くまでだいぶ時間があるとの話でしたから」
『ええ、ですが』
「エドワート、私はあの邪神のような男から与えられた能力でおぼろげですが分かるのです」
『な、そんな能力まで!?』
「ええ。さっきの男もそれで位置を判断しましたもの。だから追う事に問題はありません。」
「それに、ホウジョウに門の事を知られればきっとろくでもないことになります。自分達が持っている一番大きな手札をホウジョウにわざわざ晒す気はありませんよ。せいぜい知らずに全てを覗き見されていれば良いわ」
『私達もそれは同じだと思われるのですが』
「そんな事をしたら斬りましょう」
笑みを浮かべて皇女は言った。偽りとはいえエドワートたちと違い肉体を持ち心臓は動いている。つまり身体は洗わなくてはならないし、裸をどうしても晒さなくてはならないのだ。
それをしたら斬らざるを得ない。ただ、どうでもいい、といっている姿も眼に浮かぶ。それもそれで不快だから斬ろう。
人の前では何となく威厳を出そうとしている骨。




