滅亡の帝国、新生の災厄
境の屋敷の客室。
ベッドに腰掛ける元帝国第一皇女レイミリアの瞳に光は無かった。初めは声をかけていた執事エドワートも途切れ途切れでも声をかけていた魔道師ミリアージュも今はただじっと彼女を見つめるのみだった。
全ての元凶であろうあの骨は冥府の境の管理人になったようだ。正直忌々しい、とエドワートは零していたが、この屋敷自体に意思があるという話、門番の3つの骨。どう見たって意味がない。おそらくあの骨を倒すことに意味は無いだろう。もう既にあれらは与えられた能力を自分のものとしているようだし、おそらく殺しても鼠やスライムからあの特性が消えることは無いだろう、そう思えたのだ。
なによりこの屋敷はあの骨を主人としているそれを失ったらこの屋敷に滞在できるかどうか。今更こんな状態の主を外に放り出すわけには行かなかった。骨はむしろ腹が立つことに
『俺がいることで姫には良い影響を与えることは無いだろう。基本ここには立ち寄らないようにする。何か用が合ったら読んでくれ』
とまるで自分が気の効いた配慮をしたように言って去ったのだ。正しいが非常に腹立たしい。
『姫様はもうこのままだろうか』
『いや、で、す』
『私だって嫌に決まっている! そもそもこの身が朽ちようと姫様には生きていて欲しかった。だが、あんな悲惨な状態の姫を一人残していくのは!』
答えを返す事無く、骨が渡してきた神々の黄昏、という本を静かにまくりながら姫の傍の床に、ミリアージュは座っていた。エドワードは姫のすぐ前で2週間立ち尽くしたままだった。
『邪魔するぞ』
『お、お前!」
『そう、いきり立つな。今日は悪い報告を持ってきたんだ』
『何をお前! 悪い報告だと! 姫は既にこれ異常ないほど悪い状態だと言うのに追い討ちをかけにきたか!』
『その通りだが?』
あまりにもあっさりとした肯定に反応が出来ず動きが止まってしまった。しかし、すぐに怒りを取り戻すとこのままこの骨をナイフで掻っ切ろうと構えて動かそうとしてその後に続いた言葉に動きを再度止められた。
『そこで死んだように座ってても俺は構わんが現世の様子を見てな。帝国はもうどうにもならん場面まで来ている、といってもまだそのままなら悪い事は言わん。転生しとけ。もうたぶんお前がやれることは無い』
二週間、彼女は殆ど動きが止まったままだった。その彼女が。帝国、の言葉で反応し、どうにもならん、という言葉で大きく反応し、転生しとけ、という言葉で瞳に瞬きを取り戻した。
『エドワート』
『な!? 姫様! 意識が!?』
二週間、一度も動かなかった主が動きを見せた。ミリアージュも驚きで手に持った神々の黄昏を落としている。
『そこの骨。ミチビキでしたか。帝国が、どうしたと? 詳しく教えてくださいませんか?』
『やはり自分の国は大事か。まあ俺達を呼んだ理由が戦争相手の王国に対しての戦力だからな。愛国心は高いのか。簡単に言うなら滅亡寸前だ』
『何だと!?』
『まずは聞け。まず帝城な。半壊した。王国の特殊部隊とやらが城に来て城を攻撃した結果だな。で、その後特殊部隊は壊滅した。これは鼠だ。帝国城はあいつの領域に含まれているからな。外からの大魔法での攻撃でとっくに死んでいたと思われる皇帝の首を取った後その場で何かを探索していたが食事を取っていたら鼠が後ろでがぶっとな。たぶん荒廃した帝城見て原因を探ろうとしたんだろ。軽食を食べようとしたのが運のつきって奴だ』
『父様……』
『姫様、お気を確かに』
『いえ、大丈夫。想定はしていましたから。続きを』
『ああ、で、すぐそこの城下町はもう生きてる奴は数百人もいないんじゃないか? これはあいつらだな。お前が確かスライムに喰われたとか言ってた洗脳していたうちの男子生徒だ。14人の鎧と武器を身に着けた男子生徒が亡霊になって暴れまわってた。恐ろしいほど強くて確か帝国の何とか騎士団とかいう奴が壊滅状態、街も完全に壊滅。何人かは命からがら脱出した、とはず。もしかしたら壊滅してるかもしれんが』
『え?』
『貴様ら! またこの国にろくでもないことをやったのか!』
いやいや、と骨は首を振り
『いや、これはそもそもお前達が悪いぞ。男子生徒に呪いと魅了で精神崩壊させたんだって? たぶんそれが原因だろう。知性なんて欠片もなさそうな無表情で暴れまわっていたからな。たぶん暴れようとかそんなことすら考えていないと思う。せめて意思が残ってれば話し合いとか出来ないわけでもなさそうだったんだが』
『なんと……』
『やはり、亡霊になっていましたか。そんな気はしたのです。だって貴方もその次の三人も死霊になったんですから』
顔をゆがめて力なく首を横に振る。その後表情を無表情に戻して続きを、とレイミリアは促す。
『まあ、予想はついてるだろ。方城、あと残りの女生徒12名。洗脳されていない、あるいは洗脳が途中で解けたと思われる連中のグループのまあ亡霊だな。こっちは意識がある。今までの報告も大体こいつらの話から受け取った情報も多い。今は何もせずに情報を集めているようだな。こっちは初め姫を人質に取った後帝国側と帰還の方法について取引をしようと思っていたようだ。まあ、最終的には殺すつもりだったようだがな』
『やはりホウジョウも、か』
『でもお前達はもう死んでいると言う。ついでに城下町で少しずつ力を吸収する生贄を集めるつもりが男子生徒が暴れて壊滅状態になって無理になったという。まあだいぶ最初でつまずいたな。最終的には帝国の壊滅ももくろんでいるようだぞ? まあ何もしなくても壊滅しかけていてあれだが。ついでにこれ幸いと帝国に攻め込んでいた王国も区別無く男子組みにやられているが。確か14の放浪悪霊とか言われて帝国王国双方に恐れられているな。話が通じんからもう戦うしかないが今のところ全滅だな。王国帝国両方の部隊がな。これでは占領のうまみがないと割と精鋭の部隊も王国送ってきたらしいんだがなぁ。帝国の9割がそれで消えてるから隣接した王国にもいつか来るに違いないってんで今帝国の残党と討伐作戦を組んでる。でも帝国軍と王国軍の戦力の割合がたぶん20倍くらい違うからもう帝国軍は殆ど残っていないな。これは男子生徒の様子を見て確認した。それくらいもう帝国は実質無いのと変わらん』
『あ……え…あ、うん。そうか』
報告を聞いた執事は放心したようだった。口が緩み目は遠くを見て年齢以上に若々しい印象だったその姿は年齢以上に老いた姿に変貌していた。
『エドワート!』
『あ、姫様』
『貴方が代わりにさっきまでの私のようになってどうするのです! 聞きなさい! 私達の、いえ私の引き起こしてしまった災厄なのですから』
口をきつくかみ締め、さきほどまで精神崩壊していたとは思えないほどしっかりした口調。その言葉にエドワートは背筋を再度伸ばして姫をまっすぐに見つめ返した。
『姫様。いえ、私達のです』
『私、達です』
『エドワート、ミリアージュ……ありがとう。でも私の、です。召喚したのは私なのですから。ですが貴方達がいてくれる。それだけで私は十分です。これからも私を助けてください。お願いします』
『何を言いますか! 助けるも何も私は姫様だけが全てなのです。姫様の力になることは当然、頼まれてすることではないのです! いらないとおっしゃられようが私はその身をもって姫様の力になるために力を尽くすでしょう』
『同意、です』
『ありがとう……ええ、お待たせしました。続きを。まだ何かありますか?』
『お、おう。まあうん後はあれだ。一人だけ少年じゃなくて年上の男がいただろ? うちの教師なわけだが、うん。何か変な術でも覚えたのか姿を隠すというか認識できなくなると言うかそんな感じの手管使っていつの間にか城から抜け出して外に出てた。で、城下町で女を犯しまくってたみたいだが男子組の大殺戮に巻き込まれて死亡。まあ、予想は出来るよな?』
明らかに顔を引きつらせて三人を見ていたが報告は続けるようで最後の一人の動向を報告する。
『悪霊、か』
『まあこっちは危険と言う意味では単体だし今の時点ではだいぶ下がる。被害で言うといきなり女襲って犯す。生前と大して変わらん。けど犯した女は絶対妊娠ついでに言うと意識が悪霊の分身になるかもしれん。生きていればな。全部男子の奴らの大量殺戮に巻き込まれて妊婦死んだのは幸運と言えたのか。まあうん。生き残りの数と言う意味でもまずいかもしれん。さっきも言ったがもう王国も帝国とかどうでも良くなってるレベルだからな。今更どうにもならんかもしれん。というよりどうにもならん。お前達にとって良い報告と言えるのは王国も多大な被害受けてこのまま行けば王国も帝国同様さようならしかねんというくらいか』
『それは良い報告ですね。ぜひそうなって欲しいです、が』
『が?』
『貴方も、14人の放浪悪霊も、ホウジョウと女達も。教師も。誰かに倒されては、困るのですよ』
それは敵意だった。
『私が生み出した怪物は私の手で葬る。それは私が犯した罪に対する私がしなければならないと思っている償いであり、何より私が望んでいることです』
『姫様』
『姫、様』
その瞳に紛う事無い殺意を乗せて、骨を見る。
『力を、貸しなさい』
『いや……あのだな』
『鼠に毒と速さを与えたように、レギオンに女の生気吸収と魔法吸収を与えたように、スライムに透明な身体と全ての攻撃の耐性を与えたように』
『私に力を、貸しなさい』
『正直効果が出た瞬間は一度も見てないんだ。それに何が出来て何が出来んのか、分からん』
『構いません』
『何か副作用も』
『構いません』
『そもそも人じゃなくなるかも』
『構いません』
『なら仕方ないな』
『ええ』
ため息をつこうとして出来ず気持ちの吐き出しが出来ずに首を振ることで代わりとした骨は
『魔に落ちたかつての姫よ。復讐の刃を突き立てるためにその身体に偽りの肉の身体があれば良い』
レイミリアの身体に実体がともる。ただしそれは心臓の止まった身体を。ここでは生身は生きていけない。いずれ自分に牙をつきたてるなら死者でないと入れない。
『悪霊をなぎ払う光の刃があれば良い』
悪霊達には光の剣を。
『その身体は闇を受け付けなければ良い』
悪霊の汚染に負けること無い耐性を。
『従者は姫の命あらん限り死す事なき永遠の命を』
従者は姫といつまでも共に
『その意思を折ること無いように祈る』
呪いと表裏一体の思考強制を。
骨は復讐者に祝福を与えた。
この事態の全ての責は私が
だから私に力を与えろ
とそれに願った
――七災厄 堕光姫レイミリアの回顧録
読み返したら割とよくある流れになりましたが書きたいことは書いたのですっきりしました。




