特にこちらは何事も無く、向こうはいろいろあった
何か未練があるらしい幽霊三人が滞在
とはいえ特に何かあるわけでもなく
一緒に転移してきたクラスメイトは波乱万丈らしい
まさか全員こんな早くに死ぬとは思わなかったと言うのが本音だ
門からきたというので出れるかもしれないと直行したが。門は閉じられたまま開かなかった。
門が硬い! これは無理だ。あの日誌に書いてあった通り本当に出られないという事が分かっただけだった。ただ話によると三十分は出られるはずなんだが。まだエネルギー的なものが足りていないのか。
もし姫達を門の傍で待っていて開いていたときに走って外に出れば案外何とかなったのだろうか。と思ったが執事の亡霊いわくそもそも廃棄場の行き止まりから先がそもそも冥府の一部だと思われるので外に出たところで意味は無いと思われるがな、という意見を頂戴した。ついでに簡単なここに来るまでのあらましも。
どうも俺が三人の死んだ元凶のようだが姫は放心してばかりで完全に精神が参っていると思われる。
「あー」
明らかに危ないうめき声を漏らす姫。執事も魔道師の少女も俺のことより明らかに酷い姫の様子の方が問題なのか、俺に害意を加える様子は無い。この屋敷の所有権を譲り受けた云々の話をしたら滞在させて欲しいと静かな声でお願いされた。断れるような雰囲気ではなかった。
姫の事は正直どうにもならないし明らかに俺がいることで精神に良い影響を与えるとも思わなかったので客室と思われる場所を好きに遣うように行った後鏡のあった自室へと戻った。
『まさか全員死んでたとは』
姫が来る前に本当に現世の様子を映し出せるのか試すため鏡は使っていた。どうやって見たい映像を調整するのか。ボタンらしきものも無いのでさっぱりだったがクラスメイトの様子が見たいな、では映らなかった。そういや先生は何か影が薄かったがどうなったんだ。と思ったら急に映し出されたのだ。
城下町で大虐殺祭りを繰り広げている男子生徒達の姿が
……まあ所詮異世界でしかも明らかにブラックな労働条件で使い潰そうとしていた国の住人だ。気にしても仕方がない。それより先生はどこだ? 虐殺してる奴に先生の姿は見えないが……あれ?
首だけになっていた。傍に裸の身体。運悪く悪霊状態の男子生徒に捕まって首が飛んで死んでしまったとしか思えない。
気づいたら連行される前にどこかに姿を消していたと思ったらこんな所に。まるで隠行の術でもやったように姿を消していたが忍者の子孫でもやっていたのか。だがこんな所で終わりを迎えるとは本人も思ってもいなかっただろう。
そのうち霊として復活するかもしれないな。男子生徒もそうだったし。スリーマウンテンの奴らもそうだった。俺もそうだし異世界の奴は大体死んだら亡霊として復活するんじゃないだろうか。
じゃあ次は女子か……顔を覚えている奴がいなかった。関わりが全くなかったのが悲しい。どうするかな。
ふと気づく。暴れている男子は14人。あの三人ほどではないにしても繋がりが強いのか。鏡の画面内に納まるくらいに密接に連携を取って戦っていた。
うちのクラス俺を含めて男子16人だよな? 誰か足りてない。
『ああ、方城か』
そういえばあいつ頭良かったよな。そういえばあいつだけまともな感じだったから男子と同じ行動はしていなかったのだろう。
なら次は方城の様子でも見るかな。
と思ったところで姫達三人が屋敷の玄関の戸を叩いたのだ。扉を開けて驚いたがまあ何となく死んでもおかしくないなという印象は持っていたので驚きはしなかった。反乱的なもので死んでもおかしくないなと。
『どうしてこんなことに!』
『騎士団がやられたぞーっ!』
……酷い有様だった。たぶんもうこの街は終わりだな。間違っても姫達には見せるわけには行かないだろう。
方城はどうしたかな。
方城はどこかの森で演説をしていた。たぶん俺が飛び降りた先にあった森だと思われる。長々と我々は一身共同体であり~とか団結を促す演説を前振りに具体的な目標を上げ、それを達成するための手段を。やけっぱちになった表情の女生徒たちがあからさまに濁った目でそれを聞いている。
『当面の目標はあの忌々しい姫を誘拐し、人質とすることだ。帰還の方法を取引の材料にする為にな。俺達は亡霊だ。だからこそ人が行けない場所にも行く事が出来る。最終的に全員殺すにしてもまずは確実に数を削っていこう。だが、まだ力が足りない。今の弱弱しい状態ではあの傍に控える魔術師や執事の男に消される可能性が高い。近くの城下町の人間を少しずつ襲い、喰らい力を蓄える。遠慮はいらん。遠慮をして何もしなければ亡霊のままそのうち消え去るだろう。元の世界に生きた状態で戻るためにも異世界の人間は人間と思うな。向こうだってそう思っていた。豚か何かだと思うんだ』
……姫はとっくに死んでいる。近くの城下町はおそらくとっくにクラスの男が大虐殺祭りをやって死体祭り。
方城は大幅な作戦修正をする羽目になりそうだ。連携取れてないのか。まあ死んでるのでもう彼らに対する悪感情はなし。だがまあどうにもならん。そのうち情報でも渡しにいくか。暇になりそうだし情報屋もどきをやるのも悪くは無い。
で、後は無いな。城の兵士とか顔を覚えていない。この世界で唯一顔を覚えている三人はとっくに死んでる。うん。あとはな……あった。
思い出した。そうだ。レギオンになった三人は討伐したとの話だが鼠とスライムまだ倒されていないんだった。見知ったものに人以外が含まれていても大丈夫だろう
鼠の様子を知りたいと強く思う。
どこかの情景を映し出した。やっぱりか! これで見れる範囲は広がったぞ!
『あ……』
思わず声が出た。
鼠は洞窟を走り回っていた。恐ろしいほどの速さで。
画面の移り変わりが激しすぎて何が映っているのかさっぱりと言う。土の色しか見えなかった。
これは駄目だ。スライムの方を見るか。あっちは速くは無かったしな。
つちのなかにいる
どうやら土の中を移動しているようで何となくオーラらしき光で身体の輪郭はみえるのだがほとんど土しか映っていない。
まあ、人間じゃないと良く分からないよな。
そういえば三人の骨はどうしただろう。
何言ってるかわからないが何となく楽しそうに歯を鳴らして門の前で顔を突き合わせていた。コミュ障には割とつらい光景だった。何を言っているのかが分からないのが幸いなのか不幸なのか。ただ見ている意味は間違いなく無い。
『姫の様子は……見に行く方が悪いことしたことになるよな』
思った以上にやる事が無かった。そういえば書斎に代々の守護者が残したと言う小説、らしき物があるとか言っていたような。
二週間でいろいろ読んだ。最初は軽い気持ちで適当な自作小説を手に取ったのを覚えている。
チートハーレム小説が書かれていた。冥府をすべる王が迷い込んできた美女達と出会う。喧嘩したり一緒に何かを作ったり、ヒロインを生死の境に追い込んだ悪の黒幕を倒した後仲良くなって最後は
『お前達には帰るべき世界がある。きちんと寿命を全うしてからこっちにくるんだ』
現世に戻り、老婆になって死亡。出会った頃の若い姿をして次々に冥府の王の元に行くというエンディングだ。
主人公が冥府の王はやめてくれ。どう見たって冥府の王=管理者のことじゃないですか。あんまり暇すぎてそんな妄想をしてしまったのか。
これの作者である9代目の日誌を見た。
おっさんばかり来て若い女がこねえぞ。神隠しに合った? さすがに子供じゃ無理だよ。もっと年頃の。
……俺みたいなのが管理者になってる時点で分かるが前の管理者だって人間的に出来ていると言うわけでもなかったのだろう。死んでも性欲あったのか。幽霊タイプか上位のリッチとかだったのかもしれない。
読み進めて何故あんな黒歴史的な小説を残したのか分かった。
なんとなく分かった気がする。どうして自分を書いた小説を一冊以上書き上げ、書棚に埋蔵すること、なんて変な風習が6代から始まったのか。そうか、暇だもんな。一通り探索し尽くしたらやること無いもんな。しかもやれることは少ない。そりゃ本の一冊や二冊書くわ。俺も小説を書こう。そして願わくば小説通りの展開きてくれ。
そんな現実は来なかった。最終的に9代目は転生して女と付き合うことに希望を託したようだ。何となく悲しい現実だ。転生があればよかったんだが。
今度は初代の日誌から読み直そうと順番に整頓されている日誌の一番始まりであろう日誌専用本棚の左上を抜き取る。
初代は生真面目だったようで何もなくとも何かしらその日あった他愛も無い出来事を短く毎日書いていた。子供が迷い込んできたので帰した。猫が迷い込んできたので死んでいるようなのでここで飼ってみることにした。猫の様子、猫がだんだん懐いてきて嬉しいこと、犬も迷い込んできた、と動物好きであったようだ。
だが、年月には勝てなかった。
最後はこれでは駄目だ。もう帰さなければならない、そして私自身も帰るときがきたのだ、と大勢の動物と一緒にどこかに旅立って言ったようだ。門はこの頃はなかったと書いてあったように見えるが外に出る手段あったのだろうか?
二代目から五代目はまめな性格ではなかったようだ。というより行動的な性格だったのかすぐ飽きたようだ、が正しい。初代がおよそ1000年。二代目から五代目で100年という圧倒的短さ。五代目は門と鏡を作ると言う歴代では天才気質だったみたいだが飽きるのも早く5年でここから去ったと言う。初代が気が長いのか100年が短いのかは分からないなこれ。俺も案外早く去ってもおかしくない。
6代目は全くといって良いほど記録を残していなかった。だというのに小説はやたら残していてたぶん報告書より物語を書く方が好きな性分だったと見える。ただ、その小説は<神の黄昏><神の憂鬱><神の戯れ>と神から始まるタイトルで統一されており、やけに重厚だった。
6代目あんな分厚い本書いて堅苦しい書きかたして中身皆ただの俺つえー系じゃねえかよ。
とかネタ晴らし喰らっていなければ文学作家なのかな? と勘違いしていたかもしれない。
7代目は女性で恋愛小説家だった。良いネタが手に入ったとか言って男同士の恋愛を書いていた。割とガチホモだったので読まなかった。いや、男の娘とか性転換で美少女とかまだいけるがガチは厳しかった。何が厳しいって、割と最後は若い男に乗り換えた恋人を刺殺エンドしてしまうところだ。しかも最後のあとがきで元ネタの主人公と相手の男二人の名前が書いてあるのが辛い。
日誌もネタを探しに光臨したら即高速移動で良さそうなガチホモカップルを探しに言った。こんなカップルがいた。よしこれをネタに書こう。というのが大半だった。
8代目は日誌と何かやる気のなさそうな当時の料理の感想本。薄い。後ここにいても食べる物がないと1年で去った。
9代目はあれで、10代目はやる気がなかったのか備忘録とか言うタイトルでやたら複雑な式を書いた本を書いていた。魔方陣の論文らしいが正直意味が分からん。
11代目は不幸の人だった。
まず日誌の最初の一文が
くそがっ! 転生したと思ったら女じゃねえか! しかもやたらと美少女で回りは美形ばかりだと? モテモテの意味が違うだろ。しかも死因が痴情のもつれで刺されたとか。ついでにしかもここにもう一度来る羽目になったし。いや、あいつらから解放されたという意味でこれで良かったな、うん。
半年後の日誌
今日も疲れた。腹上死って幽霊になってもしてくれないかな。
70年後の日誌
私愛されて嬉しい
いろいろ限界だったのかいつものように大喧嘩を仲裁した、私がいなければ皆仲良くなるよね、とか言い残して門で旅立ったらしい。追ってきて11代目に取り憑いた取り巻きの日誌もあったがちょっとライバルへの負の感情が強すぎて読めなかったのでさすがに捨てた、と後で読んだ13代目の日誌に書いてある。
なのに書くのは女主人公が野性味溢れる優しいヤンデレでない年上の男に愛される物語だったあたりもういろいろ手遅れだったのかもしれない。
12代目は一般人だったようで屋敷をある程度探索した後は家族が心配だと、鏡で見た家族日記を書いた後家族の死亡の後去った。割と平和に家族は暮らしたようだ。
だが俺とあと13代目は気づいている。12代目は平和だったんじゃなく平和にした、が正しいと。所々あれ? と思うような場面があったのだ。
妻が女好きな中年の貴族に言い寄られていた。子供がいますといっているのに無理やり連れて行こうとするなんて!
今日は特に何もなく、天気は良かった。絶好の洗濯日和となりそうだ。
こういうのが74回あった。ちょっと干渉しすぎじゃないか? と思わなくも無い。まあ門が開く周期以内で問題起こらなくて良かったねとしか。
13代目は殆ど日誌を書かなかった。ただ、~をしたとそこそこ重要そうな出来事は書くがあまり日誌に何かを書くのは好きではないようだった。ただ屋敷中に落書きはよくしたようで、精霊らしき存在に怒られたと反省していることもあった。自分の証を刻むとか何とか。
物語は魔王物語
魔王生活37年。その後神になったは良いけれど何だか暇で後輩出来ても不甲斐なくて飽きたから神の役目押し付けたった、短く纏めればそんな感じの物語が書いてあった。
これ一つだけ。ついでに言うなら3年でここを去ったと言う。先代までは一年に10回は人が着ていたというのに自分の代は一回も来ない。孤独はここでも付きまとうか、という意味深な文が最後だった。
思ったより早く本棚を制覇してしまいそうだ。つまり暇になる日もそう遠い日ではない。何か趣味でも見つけないとなー。姫様……は荒療治してみるべきだろうか。
鏡の向こうの大惨事で。
お前が言うなと言われても反論できません




