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邪神 蚊帳の外  作者: トツキトオニ
邪霊達の目覚め
12/31

皇女の初めての

残酷な描写かもしれませんので一応注意お願いします。

 私達は誘われていたのだ

 気づかず入って気づいたときには戻れない

 ――ベルベオン皇国第一皇女の追憶



「どうして……」

 空気は最悪だった。廃棄場へと繋がる道があったはずのそこは行き止まり。いくら崩してもその先がどこかに繋がっている様子は無かった。

 エドワートは何度目かの破壊で現れた岩を叩き、先に空洞がないのを確認すると肩を落として首を振る。それを見たメンバーの全員が信じられないといった様子で他のメンバーと顔を見合わせていた。

「どうして、開いてないんだ! 来る時はちゃんと!」

「おそらくは、あの行き止まり。あれはそもそもどこにも繋がっていなかった。おそらくはここへの空間に一時的に繋がっていただけなのですよ。そしてその繋がりは途切れてここはどことも繋がらないどこかになった」

「そんなっ!」

「すい、ま、せん。感知、できま、せん、た」

 明らかな魔力の使いすぎで息を切らせながら魔道師の少女は謝罪の言葉を出した。常に言葉は途切れがちな少女だがこの場合は明らかに体力の消耗によるものだと誰もがわかっていた。

「ミリアージュは、悪くないわ。判断を間違えた私に全ての責任があります」

 座り込みながらベルベオン帝国第一皇女であるレイミリアが力なく魔道師の少女の自責を否定した。

「そもそも誘い込まれていたことに気づくべきでした。そもそも、どうして帝国の城は自分の手で守るなんてつまらない自尊心に捕らわれてしまったのか。一旦城から陛下ともども退避して十分な軍勢を率いて討伐に当たれば良かったのに。どうして」

「姫様! お止め下さい! それならば止められた私にも十分に責任はあります、お一人だけの物だとお思いにならないでください。それにまだ、手はあります」

「え?」

「スライムが開けたあの穴がどこかに繋がっていればまだ手はあるかもしれません」



「ねえじゃねえかよ!」

「そんな……」

 底を尽きかけた体力を振り絞って戻ってきた広間。

 穴など元から無かった。そういわんばかりにそこには穴も無いただの土で出来た天井が広がっていた。

 兵士の口調は既に乱暴なものになっている。極限状況で既に自分の主君に配慮するなど出来なくなっているのだ。

「どうするんだよ! あんたが馬鹿なことしなけりゃ俺達は!」

「貴様!」

「やめなさい! もちろんすまないと思っています。帰ったら相応の侘びを」

「帰れんのかよ!」

「無理に決まってんだろ!?  それとも門の先には出口があるとか言い出すのか! また穴の底まで行って寒さでろくに身体も動かない中あの骸骨と戦えって言うのかよ!」

「くそっ城の待機組みはやめときゃ良かった……」

 既にそこに主君への敬意は無い。兵士は自分達がもう帰ることは出来ないと諦めてしまったようにその目には鈍い敵意を浮かべていた。

「帰れます、帰します。私が力を振り絞って」

「振り絞ってなんだぁ!? たかが女が振り絞って何が出来るんだよ! 出来ることなんて男のちんぽ絞るだけだろ? いぐぇ?」

 首が飛んだ。視認出来ないほどの速さで行われたそれに全員の視線がそれが行えるだろう初老の執事へと視線が向いた。隠すことすらせずに僅かについた血を振り払った執事は

「姫様に対する暴言が過ぎたな」

「何だと!」

「てめえらの責任なのに何殺してやがるんだ!」

 既に兵士達にまともな思考能力は無かった。



 エドワート・ロッテン。第一皇女の専属護衛兼執事。かつこのベルベオン帝国において五指に入る戦闘能力を誇る男だった。第一皇女レイミリアが誕生したときからその身を守る役目を担っており、レイミリアにとって一番身近で付き合いが長い相手は誰かと聞かれれば迷うことなくエドワートの名が挙がるだろう。もっとも信頼している相手であり、親衛隊を組織すると言う話が出たとき

『私にはエドワートとミリアージュの二人がいれば十分です。それだけで親衛隊と同等の安全を手に入れる事が出来るでしょう』

 と言い直属の兵を置かなかったことからその信頼の深さは表れている。


 兵士たちは今回の討伐に臨時で招集されただけの兵士であり皇女の兵士ではない。この城の帝国の兵士であってレイミリアには一定の敬意こそ払っていたものの絶対の忠誠は誓っていなかった。

 だからこの極限の状況でそれは形となって現れ、しかし信頼をするエドワートが彼らに負けることは無かった。


「つぅ。こんな……」

 首を一撃。時間にしてそれは一分もかからなかった。辺りは血に染まり、しかし姫が返り血を浴びないようにとその身を姫の前においていた執事は全身に返り血を浴びながら座り込む皇女に頭を下げた。

「このような見苦しい場面を見せてしまい申し訳ありません。おそらくこの者らは無事に帰れたとしてももう姫様に益になる行動はしないと思われたのでここで命を絶ちました」

「私の……」

「考えてはなりません! 彼らに対する償いは帰ってからするものです! 今、そこで落ち込んで帰れるのですか! 考える、あるいは行動する! 帰ること以外は今は考えてはいけません! お願いします。絶対に帰るために今一度立ち上がりましょう……」

「エドワート……」

 それは皇女の心に僅かな希望をともす言葉だった。

「ですが」

「え?」

「姫様。帰ったら私の首を落としてかまいません」

「え?」

 唐突に風向きの変わったその言葉。

「姫様。今までの探索。私は注意を払って周囲を観察しながら歩いておりました」


「ここに調達できるような食料はありません」

「え」

「ありませんでした」

「え?」

「今、出来ました」

「え」

「内臓は私が担当しましょう。姫様は抵抗が僅かに少ないと思われる腕を、ミリアージュは足を」

「え?」

 目を見開いて、信じられないといった目で初老の執事を見る皇女に

「食事は、取らねばなりません」

 それは皇女の心に大きな絶望を落とす言葉だった。

「まさか、ほんとに? ほんとにするわけが、ないわよね?」

 涙が溢れて、それを拭う事を忘れるほどに余裕の無い歪んだ笑みを浮かべて否定の言葉を懇願する。

『うちの世界では人の肉を喰ったら頭に異常がきたす、と言われているがな』


 執事は首を振った後ナイフを手近な死体へと近づけた。







 落ち着いたわ。行きましょう。短くそう言って皇女は立ち上がり、それに続くように執事と魔道師の少女も立ち上がった。

 静かに、言葉も無く続く道中。

 底へはそう時間はかからずに辿り着いた。

 門番が彼女達の姿を見つけ、歯を鳴らす。



 中央の槍の門番が槍を斧の門番に預け、門を静かに開いた。

 言葉も無く、皇女達は門を潜り抜け


 後ろからは嘲る歯を鳴らす音が響いていた。



 すぐに屋敷に彼女達も辿り着いた。

 門を叩く。


 そこから緑の粘性生物を頭に載せた白骨の死霊が姿を見せて

『ん? まさかあんたら死んだのか?』

『え?』

『いや、死んでるよな? そもそも身体、三人とも透けてるぞ?』

『そ、そんな』

『姫様』

『姫、様』

 混乱する皇女に静かに声をかける二人。


 皇女は忘れていた。

 狂乱の食事の後、エドワートに理不尽に怒りをぶつけたこと。

 刃を突き立て、それを止めようとした少女に刃をつきたて。

 せめてやすらかな終わりを、と死の淵にいた執事の最後の力で最期を迎えたことを忘れていた。

カニバ。そして最期の食事。

不思議なことにこっちの方がすらすら書けたと言う。主人公の方が遅かったです。

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