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邪神 蚊帳の外  作者: トツキトオニ
邪霊達の目覚め
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三骨

 三骨

 この世界の冥府の門を守るとされる災いの骨が生み出したとされる七大災厄のうちの一つ

 剣、槍、斧をそれぞれ持った戦士の死霊で光による浄化も効かない

 魔法で焼き払っても恐ろしい速度で再生

 叩き壊しても再生するまさしく不死身の門番

 武芸に秀でた様子は無いが獲物の切れ味は異常なものでかつ身体の一部なのか壊しても同様に再生する

 不死身の彼ら相手にに戦うことの意味がなく

 その根競べに勝つことなど絶対に出来ないだろう

 厳密に言うなら彼らの姿を見かけたならそこは既に告死の迷宮では無く冥府の入り口と言える

 門の先を行けば生者戻ること叶わず。そして戻ろうにも不死身の門番の彼らが生かしては返さない


 見かけたらすぐ引き返せ

 そこから先は人が行って良い場所ではない

 そもそもそこは人間の活動領域ではない

 ただ既にもう遅いかも知れない




 沈黙が周囲を覆っていた。どこまで潜ったのだろうか。一本道の坂を下って何分立ったのか。下に下がるほどに露出した肌に冷気を感じられるようになり、寒気を覚えるようになった。

「これ以上、進んで良いんですかね?」

 兵士の一人が耐えられなくなったのかぽつりと呟く。

「ここで目標であるミチビキと言う死霊を逃がしたらとんでもないことになる、予感があります。だって現時点でもうとんでもない有様ですよ? 鼠、あのスライム。レギオンは倒せましたが鼠はいまだ発見できず、スライムに至っては私達ではどうにもならない。あのスライムが地を這い城にまで到達したら……考えるだに恐ろしい。そして帰るといいましたね。その場合またあのスライムとほぼ確実に遭遇することになると思いますが倒すあては?」

「すいませんでした!」

「いえ、私も正直あなたと同じ気持ちです。この寒さは浴びてはいけない寒さだと頭がしきりに警告を鳴らしてくるのです。地の底なんて死霊の国に向かっているみたいじゃないですか」

 冗談交じりに口から出たその言葉に当人を含めて誰も笑わなかった。

 誰もが気づいているのだ。

 この先は生きた人間は進んではいけない場所だと。


 皇女は、自分の判断が誤っていたことを完全に認めた。口には出さないが、自分の元凶の死霊をなんとしても倒すと言う判断は愚かとしか言い様がなかった。

 自分の生まれ育った城だから自分がゴミだと見下した異界の者に占拠されるのが許せない。そんな子供染みたわがままはやめておくべきだった。

 そもそもあの時ホウジョウが城を出るべきだなんて余計なことを言わなければ素直に自分から城を出ますと言って脱出していたのに! その場合ホウジョウ達には城に残って地下からの侵入者を防ぐように命令していたのでどちらにしろホウジョウたちがここを出ることなど出来なかっただろうけど。


 陰鬱な空気が支配していた一行にわずかばかりの希望が見えたのは長かった下り坂の終わりが見えてきたからだ。あまりの寒さに口をカチカチと鳴らし、なのに身体は凍傷を負った形跡も無いと言う不気味な状態で心が折れかけていた一行にそれは微かな希望になった。


 門が見えてその顔は歪み、守るようにたつ三体の骨に完全に顔を引きつらせた。

「ま、ずい」

 まず寒さで口がまともに動かないので詠唱が出来ない。寒さでまともに身体が動かない。

 人間と同じように歯を鳴らしていた三体の骨は彼女達を認識すると骨を鳴らすのをやめ、武器を掴んで構えを取った。


「姫様!」

「え、ええ! 尊き血、神代の天の使いの末裔たる我が裁く、我が敵を討ち滅ぼしたまえ! 聖光の裁き!」

 この相手には自分が動かねばならないことは皇女は分かっていた。不死のものに最も強い古の神の血を引くという皇族の血による光の力。幸い詠唱が短いので何とか発動する事が出来た。だが、食料がない。こんな体力の無い状態ではすぐに魔力が尽きてしまう。

「倒れていて」

 小さく祈るように呟かれたそれは叶えられた。

「姫様!」

「ええ!」

 倒せた。今までが今までだからひょっとして光でも効果が無いのではないかと思ったがきちんと効果があったようだ。

 姫が笑みを見せる、執事も笑みを見せる。兵士も笑みを見せ、気の弱い魔道師だけが素直に喜べずばらばらに地面に散らばった骨を用心深く見ていた。そして、それに気づいた。

「ひ、め、様!」

「え?」

 切羽詰った魔道師の少女の声に疑問の声を上げ、それでも心から急に湧き出した不安に散らばった骨を見て、その骨が動いているのに気づいた。

「なっ!?」

「姫様、これは!?」

 効いたはず、なのに。まだ骨が残っていたのは消滅させきれていなかった証拠だったのか。

「な、骨が!」

 再生するように足から元の配置に戻るように形を再構成していく。それはゆっくりとだが、確実に行われ、

「っ」

 無詠唱の得意とする火球の魔術が少女から放たれる。

 三体の骨は再びばらばらになった。

「だ、こんどこそ?」

「ひめ、様。たぶん、だ、め、です」

「そんな!」

 魔道師の少女の言葉を証明するように再び骨は動き出し、数十秒後には武器も含めて完全に元の姿を取り戻していた。

 カタカタカタと、こちらを向いて歯を鳴らす。それは紛れも無く皇女たちを嘲っていることは明らかだった。

「この、やろう」

 槍を持った兵士が寒さで鈍った動きでそれでも前に進み、骨の一体を付こうとしたとき、剣を持った骨は軽快に手にも持ったそれを左から横薙ぎに振るう。

 兵士の身体は何の抵抗も無く、腰から上下に両断されていた。

「ひっ!」

「姫様!」

 執事の判断は早かった。

 間違いなく門の先にあの三体の骨をどうにかして行くのはこの体調では無理だ。諦めるしかない。後でどんな謗りを受けようとも姫様の身は守らねばならない。

 姫の身体を俗に言うお姫様抱っこと呼ばれるそれで抱きかかえ、鈍った身体に鞭を打ちながら来た道を駆け抜ける。

「撤退だ!」

「は、はい!」

 骨は嘲笑を持ってそれを見送った。



「すいません……っ! 最初から私が意地を張らないで城から脱出する選択をしていればこんなことには……」

 死の淵に追い込まれ、眠っていた力が目覚めたと言わんばかりに来たとの二倍の速さで上ると言う異常なほどの身体能力をみなが見せ、坂の上に帰ってきた。誰もが悟っていたのだ。坂に長くいては命に関わると。あの冷気は死者の空気。生者には毒でしかないと悟ったのだ。

「姫様。自分を責めないでください。一人は帰らぬ者となってしまいましたが後は皆まだ生きているではないですか」

「そうです! レイデルは残念なことになりましたけど他は生きていますから、ね」

「皆……」

 異世界の住人である召喚した者はそもそも命として換算されていなかった。

「ごめんなさい。迷惑をかけました。エドワート。もう大丈夫よ。下ろしてください」

「ですが……」

「貴方が一番の戦力なんです。疲労で動けませんでした、なんてことになったら困ります」

「はい……承知しました」

 地の底から帰還してようやく廃棄場に入ってから初めての笑みを浮かべて自分の仲間達を見つめた。



「ここは……スライムのいた広間か」

 疲労は濃い。だが、目的地も分からない地の底への道中と比べると場所の分かる地上への道はまだ気が楽で、精神の消耗度合いは少なかった。早く帰りたい。誰もがその表情を貼り付け、しかし、あの異界の物を飲み込んだスライムのいた場所という事で、不用意に通るのは危険だと一行は理解していた。

「死体がありませんね」

「完全に溶かされたのでしょう。ホウジョウ達もそうだったではありませんか」

「ええ。そうですね、ねえ。まさかホウジョウ達も死霊に……あの時は何も考えずに先に進んでしまったけど。ねえ、焼殺したミチビキとやらも拷問姉妹の手で殺した三人も死霊になったわ。まさか、あの異界の者達全ても同じように…」

『良いのか? ここで死んだら俺は間違いなく道比木など比ではないアンデッドになる自信がある。そうなればお前達など全員呪い殺してやるがな』

 寒気が走った。まさか。首を振る。ありえない。そもそも死霊になるものなど100人いれば4、5にんいれば多い方だ。それを召喚したもの全てが皆死霊に……

 まさか、と否定するものはいなかった。

「早く戻りましょう。まずはお父様、皇帝陛下に今までのふがいない有様をお詫びして。そして神官を呼んで周辺に死霊がいないか探索。そして軍を率いてあの門を開けてその先にいるだろうミチビキと言う悪霊を消滅させる。スライムも鼠も総力を挙げて探し出して潰すわ。絶対に見つけ出しましょう。だからまずはここから出ましょう!」

「はい」

「了解です」

「は、い」

 口々に駆けられる同意の言葉に萎えかけていた勇気が戻るのを皇女は感じていた。


「おかしいですね。いない?」

「ここから出たって事じゃないですか?」

 氷結女王の枝で辺りを覆ってもそこスライムの姿は無かった。

「分かれ道も無いここにくるまでには間違いなく遭遇していない。つまりここを出て、まさか地上に出ようとしている?」

「姫様、それならばスライムなら地面に溶け込んで土の中を進むという方法もあるのでは?」

「そう、ですね」

 言われて天井を何気なく見る。


 これ以上ないほど分かりやすい穴が広間中央に開いていた。

「ええ、おそらくあれがそうかと」

 顔色が変わる。

「姫様、今まで以上に早く、戻りましょう」

「ええ!」

 表情を引き締めた皇女達は走ることは無く、しかし走るのとさして変わらないほどの早さの歩みで地上への道を歩いていった。



























 彼女達は判断を間違えていた。

 それはいつか。

 スライムとの戦闘で引き返さなかったことか。


 明らかに危険な雰囲気を漂わせていた坂を下ったことか。


 そこではなかった。


「え?」

 開いてはいけない穴をこじ開けて通ってしまったときだ。

 冥府の道は彼女達が思うより遥かに手前にあった。

「道が!?」

「どういうことだ! ミリアージュ!」

「は、い!」


「岩巨人の目玉!」

 穴があったはずの行き止まり、そこに行きと同じように岩石をぶつけてみたが。

「え?」

 そこに在るはずの出口へと繋がる穴が開くことは無かった。

 彼女達は既に冥府の門をとっくに通り抜けていたのだ。



 そこから出るには死者になるしかない。

これで本当に一章はひとまず終わりです。どうして潜った姫のことそのままに放置して閉めの言葉とか書いてしまったのか。

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