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助けた女の子

 






 現在の時刻は8時36分。どうにか間に合った。待ち合わせである今日の入口に向かう為に別の出口から走った御蔭でだ。後はタルタルからの連絡待ちだ。ついでだから、パーティーを組んだままの奴にはメールを打って、ポイントの増加と報奨金が出る事を知らせておく。


「あっ、あの……」


「ん?」


 声を感じて振り向くと、そこには昨日2度会って、1度助けたピンク色の髪の毛をツインテールにした可愛らしい女の子だ。その子がガントレットに包まれた自分の人差し指同士をくっつけながら、身体中が真っ赤にしつつも不安そうに上目遣いで見上げてくる。


「きっ、昨日は……たっ、助けてくれて、あっ、ありがとうございます」


 頭を下げてきたが、俺の脳裏には裸の姿がリフレインしてしまった。


「っ」


 女の子もそれに気付いたのか、自分の手で身体を隠してしまった。俺もそっぽを向く。


「……で、出来たら、わ、わすれてください……」


「努力はする。でも、君みたいな可愛い子の裸を忘れられるかは知らない」


「……えっちです……」


 取りあえず、嘘はいけないだろうから正直に答えておく。


「まあ、助けた役得という事にするから、そっちも気にしなくていいよ」


「そっ、それって忘れる気、ないですよね?」


「それはどうなるかわからないな。ああ、でもそうなると……あっちの報酬は渡すべきか……でも、渡す手段がまだないか?」


 シトリーのデータを渡してもいいかと思ったが、アレはあの子が管理者権限でアクセスしてきたから出来た事だしな。


「?」


「何でも無い。それより、店をやってたよな?」


「はい。素材屋ですが、やってます」


「お金稼ぎ? それとも素材稼ぎ?」


「鍛冶スキルを鍛える為の資金稼ぎです……でも、それがどうしたのですか?」


「いや、女の子の柔肌を見たにしては、貰いすぎだからな」


「あうっ」


 真っ赤になった女の子を見ながら、PDAで時間を確認する。既に時間は8時55分になっていた。

 さて、どうするかと考えた瞬間、俺の身体に鎖が巻きついて、雁字搦めに拘束されてしまった。


「そんな小さな子をナンパしてるのかー?」


「さあ、どうだろ? というか、これはなんだ?」


「犯罪は駄目だからな」


「ふむ。それもそうだなー」


 ダークネスサイズをくるりと回転させて、刃で鎖を切断する。


「あっ!? お前、どんだけ強くなってんだ……アタシの鎖を簡単に斬るとか……」


「ろくなアーツも使っていない拘束なら簡単に斬れる」


「あっ、あのっ、大丈夫です……むしろ、私から声を掛けたのです……」


「む、そうなのか?」


「ああ。昨日助けたお礼を言いに来たんだ。それで、色々聞いたら、彼女は鍛冶をするそうだから、どうせなら手に入れた素材を渡して、いい物を作ってもらおうと思ってな」


 流石に色々と省いて説明する。それに防具面はいずれどうにかしないといけない問題だしな。


「そんな、悪いです……」


「鍛冶か……確かにアタシも生産者を育てるのは賛成だな。よし、その話乗ろうじゃないか」


「えっと……」


「今日の狩りで手に入った素材を彼女に渡して、色々と作って貰おう」


 タルタルも賛成みたいので、さっさと引き込んでしまう。このゲームは基本的に業者も参加して開発を行っているが、それは会社でだ。民間の、それも現場で作る人は別物になるだろう。それはもちろん運営も理解している。どこから技術が躍進するかわからないのだから。だから、生産職もちゃんとある。あるが、育てるのが大変なのだ。まず、基礎ステータスを上げる必要が必ずある。相当量のエネルギーが無いとMITの身体は加工できないのだ。生産職はそれを魔力で補っている。


「おい、お前……名前はなんだ?」


「アセリアです」


「そうか、アタシはタルタルだ。お前、一緒に狩りに来い」


「えっ、今からですか?」


「そうだ。それとも、用事があるのか?」


「いえ、大丈夫ですが……私、弱いのですよ?」


「気にするな。守ってやるから行くぞ。それにお前……アセリアを育てれば俺達にも得がある。何より税金を取られずに武器や防具が手に入るからな」


「それはでけーよな」


「……わかったです。よろしくお願いします。実際、友達と一緒とはいえ、ランク上げが大変なので……嬉しいです」


「任せろ」


 俺とタルタルは強引にアセリアを仲間に組み込んで、外へと出る為に出口へと向かう。


「そういえば、どこで狩るんだ?」


「鉄蜘蛛を狩るぞ」


「無理ですよ……」


「おい、アレは強いぞ」


 アセリアからは否定がきて、タルタルからは確認の声が上がった。


「問題無い」


 俺はダークネスサイズを担ぎながら、進んでいく。この京都には鉄犬、鉄蜂、鉄蜘蛛が現れるエリアがある。その強さが鉄犬と鉄蜂は1で、鉄蜘蛛は3くらいあるらしい。その内、京都ではとびっきりの危険地帯となっている場所へと向かう。





 元東山区。現在、ここは鉄蜘蛛の支配下に置かれている。だからか、あちこちの道路や家と家の間、木々の間に蜘蛛の巣が張られて、鬱陶しい事この上無い。


「あっ、あの……本当に大丈夫なのですか……?」


「平気だ」


「うへぇ~アタシは気持ち悪いから戦いたくないんだけなー」


 そんな言葉を聞きながら、ダークネスサイズのポイントを振る。その為にステータスを見たら、鎧破壊という能力が付与されていた。非道い効果だ。残り800ポイント。500ポイントで能力が追加出来るようだ。だから、今回のような時の為に召喚を付与した。ポインはきりがいいので、攻撃力を1000にしておく。


「さて、行きますか……」


「まあ、どうするんだ?」


「簡単。蜘蛛の習性を利用する」


 俺は適当にダークネスサイズで斬り裂く。暗黒属性と高い攻撃力によって、蜘蛛の巣も容易く斬れた。なら、後は容易い。

 今度は手を突っ込んで、グイグイと引っ張る。だが、強靭ではずれない。


「よ、呼び寄せるのです?」


「正解」


 しばらくすると、1メートルクラスの鉄蜘蛛がやって来た。昨日見た奴よりは小さい。さっさとダークネスサイズで手の部分の蜘蛛の巣を斬り裂いて、ダークネスサイズを思いっきり投げる。ダークネスサイズは高速回転しながら蜘蛛の巣を斬り裂いて、奥へと飛んで行く。


「来い」


 呼ぶと転送の効果で今度は手元に現れた。だから、投擲を続ける。命中しないが放置だ。


「ほらよっ!」


 近づいて来た鉄蜘蛛はタルタルが鎖を巻きつけて叩き落とし、横転させて動きを封じる。俺はダークネスサイズを呼び戻して、足を斬り飛ばしてやる。攻撃力が高い御蔭で簡単に落とせる。ただ、心臓部は破壊せずに攻撃手段を封じる。というか、軽く斬るだけで装甲がどんどん外れていき、切断しやすくなった。


「アセリア、トドメをさせ」


「わっ、分かりました」


 アセリアはガントレットで殴りつけて、撲殺していく。


「アタシの分はー?」


「後だな」


 適当に投擲して巣を破壊しつつ、掃除しながら進んでいく。どんどん寄ってくるので、ひたすら殺し、殺し続ける。20体も殺せばやがて、2メートルクラスが出現するようになってくる。



 さらに1時間後。いい時間になって来たので2人に聞いてみる。


「そっちはどうだ?」


「流石に経験値が高いぜ、新しいアーツを覚えた」


「はっ、はい。大丈夫です……」


 アセリアもパワーアタックを覚えたようで、先程から強力な1擊を放って、鉄蜘蛛を破壊している。


「なら、そろそろ止めるか」


「そうだな。アタシは学校にいかないといけないしな」


「んで、アセリアは平日だがどうする?」


「あっ、私は……その、引きこもりなので……大丈夫です」


「それは大丈夫なのかー?」


 大丈夫ではないだろうが。というか、年齢は知らん。見かけよりは大人びているが。


「まあ、俺も似たようなもんだしな。どちらにしろ、一旦戻って飯だな。その後、俺とアセリアの2人はここで狩り続ける」


「いいのですか?」


「ああ。むしろ、放置すると蜘蛛の巣が元に戻りそうだからな。できれば、夜9時までにある程度進んで、全員で駆逐しようぜ」


「それはいいなー。アタシも賛成だ。それと、どうせなら携帯鍛冶セットを買って、ここで作っちまえよ。産地直送だぜ」


「むしろ、産地直造?」


「無茶苦茶ですね……でも、その方が効率いいかも知れません。でも、お金はどうしますか?」


「俺が買うよ。そうだな、後で返してくれればいい」


「分かりました」


「んじゃ、帰るか」


 さっさと運び屋を呼んで帰る。帰ったら全部売り払って、お金を受け取った。最終的に34体撃破で、討伐報酬が1体10万で34体。つまり、1人340万Yen。討伐報酬はパーティーで討伐して個人に配られる。まあ、このシステムは最初だけと告知が出ている。政府としてはパーティー人数が少ない方が美味しいしな。さて、素材は1体100万Yenなので3400万Yenだが、その内大きいのが10体居たので、全部で50万Yen追加された3450万Yenだ。そして、前回の狩りで手に入れた1053万Yenを合わせて、4503万Yenが所持金だ。


「じゃあ、後は任せたぜー」


「おう」


「あ、ありがとうございました」


「また今度な」


 タルタルがログアウトしたので、俺とアセリアだけとなった。


「さて、携帯鍛冶セットを購入するか。いくら持ってる?」


「なんとか、1000万Yenぐらいは……」


「なら、それも使うか。売ってる場所はわかるか?」


「はい、こっちです」


 2人で並んで歩きながら、目的のお店を探す。流石に平日だけあって人は少い。それでも、いつもよりはだ。夜になると数万人はログインしているのだから。昼間とはいえ、数千人は居る。といっても、特殊技術で空間を歪めて、チャンネルを作ってあるので基地内は比較的にましだ。それと、居る人は大概外に出ないで買取とかしている会社の人だったりする。


「あっ」


「はぐれたら困るからな」


「はっ、はい……」


 俺はアセリアの手を握って、はぐれないように案内して貰った。そして、顔を真っ赤にして恥ずかしがっている可愛いアセリアに案内されて到着したのは大きな鍛冶工房だった。


「いらっしゃいませ」


「えっと、携帯用の鍛冶セットなんですけど……」


「ご予算次第ですね」


「予算は5000万Yenでできるだけ最高の物を……いや、待てよ……そろそろ来てるか?」


 狩り中にPDAでメールの着信が有ったのを忘れていたので、見てみると案の定だった。


「ここの最高級品の携帯セットは?」


「そうですね……14000万Yenですね」


「あ、あのっ、流石にそれは……」


「じゃあ、それをください。それと、鍛冶をするのはこの子なので、この子の手に合わせた槌で」


「畏まりました」


「ちょっ、ちょっと待ってください……」


「気にするな。俺は別の物を買ってくる」


 アセリアを店員の方に送り出して、俺はPDAを開いて受け取りを選択する。受け取ったのは1億Yen。他の2億Yenをあの場に居た皆に分けるみたいだ。他に載っていた内容としてはリンクケーブルの販売を近々開始するそうだ。それを使って相手に重要データを送る事ができると書いてあった。それもくれるみたいなので貰いに向かった。


「いらっしゃいませ」


「受け取り5623番と56番のイヤホンをください」


メールに書かれていた番号とイヤホンの番号を言って、商品を指定する。


「分かりました。こちらのリンクケーブルとイヤホンですね。イヤホンは3万Yenです」


「はいよ」


「では、PDAに接続しますね」


 店員が俺のPDAにリンクケーブルを接続していく。リンクケーブルは4個の端子が付いている奴だ。


「使い方は簡単です。相手のPDAにはこちらの端子を、胸元に辺りにはこちらの棒状の端子を突き刺してください。それで大丈夫です。痛みも無いですから」


「わかった」


「はい、それとこれがマネーチップです。それではまたのお越しをお待ちしております」


 俺は受け取った後、露店でクレープを2つ購入して家事工房に戻った。戻ったそこでは、不安そうにアセリアが待っていた。


「ただいま。良いのは選べた?」


「は、はい。それは……もう……」


「そっか。これ、を食べて待ってて」


「あ、ありがとうございます……」


 俺は店員の場所に行って、お金を支払う。支払いはPDAとマネーチップを渡した。


「確かに1億4000万Yenを受け取りました。こちらが商品です。お使いになる方のPDAをお貸しください」


「アセリア」


「はい」


 店員はアセリアのPDAを機械にセットして操作し、プログラムをインストールする。


「1億超えの商品を買っていただきましたので、ディメンションポケットを一つサービスしますね」


「「ディメンションポケット?」」


 俺とアセリアの声が重なってしまった。


「はい。一定の実力者に渡す空間倉庫ですね。携帯鍛冶セットはそちらに収納されますから。収納容量は約1000tまでです。といっても、鍛冶セットで10tは消費していますが。はい、完了です。それと、現在は生産者限定ですね」


「あ、ありがとうございます……」


「じゃ、じゃあ帰るか」


「はい……」


 俺達は帰りながら、クレープを食べて待ち合わせを決めてログアウトした。それから、ログインして合流し、また先程の所で狩りを開始した。










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