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楓と紅葉②






 竹内楓





 飛行機で学園から空港へと移動し、そこからヘリコプターで移動を行って高層ビルの到着しました。どうやらここが新しい私の家になるみたいです。


「お邪魔します」

「今日から楓達の家だから気にするな」

「はい。ありがとうございます」


 どうやら高層ビルのワンフロアをそのまま家に使っているようで、エレベーターから出ると直ぐに玄関がありました。そのまま中に入ってリビングに案内されます。


「さて、二人の部屋だが……片付けは出来てたっけ」

「片付けは出来ていますがベッドがありません」

「どうせ私とお姉ちゃんはお兄ちゃんと寝るんだから私達のベッドを使って貰うといいよ」

「そうだな。とりあえず二人の部屋を決めようか」

「そうですね。こちらへどうぞ」

「はい」


 案内された部屋はかなり広い部屋でした。クローゼットやタンスなどはあるけどそれぐらいしかない。隣の部屋も似たような感じだ。


「一人一つ使えばいい」

「いえ、私達は一つでいいです」

「こくこく」


 二人で使うにも十分に広すぎるくらいだから大丈夫……と思ったけれどやっぱり部屋は別けた方がいいかな。私の部屋でご主人様とする時もあるはずだから。


「やっぱり二つにします」

「っ!?」

「紅葉も学園では一人の時もあったんですから大丈夫ですよね?」

「う、うん……」

「まあ、部屋は空いているから好きにしてくれ。どっちにしろ、一つの部屋はサーバールームにするからな。紅葉は設定とか出来るか?」

「ひっ!?」


 ご主人様が声を掛けると怖がって私の背後に隠れてしまう。


「紅葉、答えなさい」

「……」

「お姉ちゃんと離れ離れになりたいの?」


 私達のこれからはご主人様次第です。もしもご主人様の機嫌を損ねて学園に帰されたら不味い事になる。特にご主人様の命令を違反して帰された場合、次の仕事先は今よりももっと酷い環境になります。下手したら言うのもはばかれる嗜好の人に引き取られて散々身体を弄ばれた後、返却される場合もあるそうです。この場合はもう別の仕事に就く事も出来ずに解体されて臓器を販売されて少しでも掛かった費用を回収するそうです。実際に何人かがそんな目にあっている映像を学園で見させられています。それが分かっているからか、紅葉の顔も青くなっています


「……やっ……」

「なら、わかりますね?」

「ん……で、できる……」

「ならやってくれ」

「ひうっ!?」


 ご主人様は怖がっている紅葉の頭を撫でていますが、紅葉の身体はどんどん震えています。そんな時、インターホンが鳴りました。


「旦那様、宅配便みたいです」

「ああ、来たか。直ぐに受け入れの準備をしてくれ。学園からの荷物だ」

「わかりました」


 少しすると学園の人達が沢山の荷物を運び込んできました。私の部屋には武器やそれを整備する道具などが、紅葉の部屋には軍用サーバーなどが運び込まれていきます。私はアタッシュケースを端っこに置いて届けられたダンボールの荷解きをしていきます。

 荷物も少ないので直ぐに終わりました。周りを見ると……紅葉が部屋の隅っこで震えて三角座りをしていました。


「紅葉……」

「……怖い、怖い、怖い怖い……です……」

「はぁ……紅葉……」

「……お、お姉ちゃん……に、逃げたり……」

「それが出来ないのは紅葉が一番わかっているでしょう」

「……はい、です……」


 私達の首の裏側には逃亡防止用の首輪が埋め込まれています。逃亡すると私達の脊髄を損傷させて植物状態にしてしまう。その後、埋め込まれているGPS機能を使って回収されて解体されます。これはある意味では仕方ありません。私達の脳にはクライシス社から提供されたナノマシン技術を利用して作られた脳を高性能なコンピュータとしたブレイン・コンピュータと意思による機械を操作するブレイン・マシン・インタフェースが搭載されています。どのようにしてこれらが作られたかはわかりませんが、かなりの費用を掛けて開発と実験を行っているはずですから、なんとしても回収するか破棄されるでしょう。MITに対抗する為の軍事技術の一つらしいです。ちなみに他の会社ではサイボーグの実用化に向けても動いているそうです。脱線しましたが、結論から言うと私達は逃げる事はできません。


「紅葉の技術でも無理なのですから諦めてご主人様の下で一緒に暮らしましょう。その方が私達には都合がいいです」

「……はいです……」


 学園の人達が居なくなったので、紅葉を立ち上がらせて隣の部屋に手を繋いで移動します。部屋に入るとかなり広い部屋を埋め尽くすように置かれた複数のサーバーマシンが紅葉の意思によって起動していきます。


「ネットワーク、構築完了……防壁、834枚構築……周辺一帯の監視カメラ、掌握……映像……いるです?」

「ください」

「はいです」


 脳内にスクリーンが開いて膨大な数の監視映像が流れてきます。とりあえず、邪魔な物は排除してビル内部の映像にだけ注意します。


「死角は少ないですがありますね」

「監視カメラ、増やすです」

「ご主人様に聞いてみましょう」

「こく」


 頷く紅葉を連れてリビングに向かいながら盗聴器を探していきます。何個か見つかったので、取り出して紅葉に渡します。紅葉がそこから盗聴器の受信元を調べていきます。その間に私はリビングでテレビを見ているご主人様と話します。


「ご主人様」

「ご主人様!?」

「おぉー」

「それは止めろ」

「何故ですか? 男の人はこう言われると喜ぶと聞いたのですが……」

「確かに嬉しいが、外で言われたら危ない奴だからな。別のに頼む」

「では……何がいいですか?」

「先輩でいいぞ。何の先輩かはわからないが」


 先輩ですか。確かに年上なので問題ありませんね。


「では先輩。監視カメラの増設を行いたいのですが、いいですか?」

「ああ、構わないぞ。ついでだから家の中の至る所に設置しろ」

「「え?」」

「あの、風呂場やトイレも……?」


 そんな所に設置されたら凄く恥ずかしいので、アナスタシアさんが不思議そうに聞くのはおかしくありません。


「何処から侵入してくるかもわからないし、何かあったら困るからな。必要無い映像は消せばいいし、電話も録音と傍受しておけ。逆探知も出来るならしておいてくれ」

「了解しました」

「監視生活になる?」

「別に問題ないだろう。どうせ見るのは家族だけだ」

「エッチなのも撮られる?」

「それも目的の一つだな」


 守る側からしたら確かにありがたい申し出です。電話の内容が呼び出しだったりすれば録音しておけば後で行き先を調べたりできますから。


「ただし、カモフラージュはしておけよ」

「もちろんです。では設置してきます」

「頼む」

「はい」


 学園から届けられた荷物の中に監視カメラがあるのでそれを紅葉と一緒に設置していきます。設置が終わってリビングに戻るとエプロンを着たエヴァさんが食卓に沢山の料理を並べていました。


「すいません、お手伝いしないといけないのに……」

「大丈夫ですよ。家事は趣味みたいなものですから」

「大変なら料理人を雇うのもいいんだが……」

「お姉ちゃんの料理が食べられないのは嫌」

「まあ、妻の手料理を食べたいよな。だから手伝うなら料理以外の事で手伝ってやってくれ」

「わかりました」


 席に着いて五人で食事を取ります。食事を取っている三人の姿は仲睦まじく、聞いた経緯で結婚したとは思えません。


「どうした? 二人も遠慮せずに食べろよ。今日から二人も家族なんだから」

「そうですよ。足りなければ作りますからね」

「ありがとうございます。紅葉」

「……ありが……とうです……」

「はい、あ~ん」

「あう」


 紅葉にエヴァさんがミートボールを差し出します。紅葉も恐る恐るですが、美味しそうに食べているのでよしとしましょう。


「学校だが、流石に明日からという訳にはいかない。学園から特別製の制服が届いてないからな。明日か明後日には届くそうだからそれからだ。まあ、編入試験とかもあるが……大丈夫だよな?」

「任せて下さい。お望みとあらば最高得点だって取ってみせます」

「それはすごいですね」

「うん、凄い」

「本当か?」

「……インチキ、カンニングですけど……」


 私は目をそらします。ブレイン・コンピュータを使えば楽にテストはクリアーできます。テストの問題文をスキャンして答えをネットから検索すれば後は書くだけですから。


「ずる!」

「まあ、適当でいいよ」

「わかりました」

「紅葉は学校をどうするか……」

「ひっ!? 学校……怖い、怖い……」


 フォークを落として頭を抱えて震えだす紅葉。


「行かなくていいよ」

「そうだな。行かなくていいから俺達には慣れろ。後は数人くらいでいいから」

「が、がんばるです……」

「よし、いい子だ」


 紅葉の人見知りもどうにかしたいですが、今は先輩に任せましょう。


「っと、ベッドの発注しておくか。後はクライシス社に連絡してEROのベッドを用意してもらわないとな」

「EROですか」

「ああ、そうだ。俺達はギルドを作って運営しているからな。二人にも入ってもらう。それと戦車の設計図を親父の所から手に入れておいてくれ」

「先輩のお父さんですか? それって……」

「学園の理事長ですね。話は通してありますから秘匿回線で受け取ってください」

「暗号解析もいるそうだが、いけるか?」

「紅葉の得意分野ですから大丈夫です」

「……任せるです……」

「しかし、戦車の設計図なんてどうするんですか?」


 MITに現代兵器はほぼ効かないので無用の長物となっているのですが。


「内部で作るんだよ。魔法で動く戦車をな」

「可能なのですか?」

「とりあえずは魔法を増幅する形を取ればいいと思ってるんだよ」

「範囲魔法を圧縮して砲弾を形成すればフィールドも乗る」

「戦車の装甲によつ防御力と魔法を増幅して攻撃力を得た上に移動力も得るんですね。確かに有効かと思われます」

「戦車の次は戦艦を作りたいな」

「……戦艦は……アメリカ政府が作ってる……」


 詳しい具体的な情報を紅葉が小さな声で教えてくれます。実際に行われている開発状況までです。


「そうか。なら他に何を作るか考えないとな。というか、その情報はどこから……」

「……落ちてた……」


 そっぽを向く紅葉に先輩がじっと見つめます。


「落ちてるものなの?」

「そんな訳ありません」

「最重要軍事機密だろ。どこに落ちてたんだ?」

「……ぺんたくん……」

「そんな所にアクセスするんじゃない!」

「バレてない?」

「……痕跡、消してる……」

「この話題は無しだ。さて、明日は楓と紅葉の身の回りの品を買いに行くからそのように準備してくれ」

「「わかりました」」


 どうやら、お仕事の時間のようです。






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