犬の襲撃➃
新たに現れた増援と思える大量の鉄犬と戦ってから早数時間。敵は討伐された位置情報をリンクしているのか、どんどん集まってくる。無限召喚の罠で経験値と資金稼ぎの状態という訳だ。もちろん、交代で休憩を挟みながら戦っていた。だが、それも終わりのようだ。
「終わったね」
「やっとですね」
アナスタシアとアセリアが戦場に響くような断末魔を聞いてそう判断した。どうやら、俺達に擦り付けた連中が勝ったようだし、残りも逃げ出しているので間違いないだろう。
「おい、どうするよ?」
「追撃をしますか?」
「必要ないだろ。それよりも周りの回収が問題だろう」
「だな」
ガレナンガとサリムの二人と話しながらPADを操作して周りを埋め尽くす残骸を撮影し、その映像を送って運び屋の連中を呼び出す。
「これがお宝の山なんだよな」
「レアメタルがたくさん取れそうですね」
「数千万はいくだろう。後は取られないように警戒と整理だな」
「わかった。タルタルにも手伝わせる」
「では、私はお嬢様と警戒しています」
「よろしく」
運び易いように纏めていく。優先度の高い物と低い物を分けるのだ。流石に全部は運べないだろうしな。まあ、それでも出来る限り無駄にならないようにする。
「この場で圧縮できるだけ圧縮しますね」
「うん。勿体無いし」
アセリアとアナスタシアが携帯鍛冶道具を使って金属を圧縮していく。その間、俺も二人の手伝いを行っていく。イヴはお茶を入れたり歌で士気を高揚させてやる気を出させてくれる。これが有ると無いとでは作業効率が全然違う。
そんなふうに過ごしていると向こうの方からトラックが走ってくる。そのトラックは俺達の前で止まると刀を腰に差した一人の青年が降りてくる。
「あっ」
「やっと見つけたぞエヴァ!」
「仁……」
イヴが声を出すとその青年はイヴの本名を言って近づいてくる。俺は直ぐにイヴの前に割り込んで対峙する。
「なんだお前……」
「それはこちらの台詞だ」
睨み付けて来る男を睨み返し、何時でも斬れるように全身に力を入れておく。
「イヴ、知り合いみたいだが……誰だ?」
「その……」
「ふんっ、俺はエヴァの彼氏だ!」
「お、幼馴染です……」
堂々と宣言した男とすまなさそうにして答えたイヴを見ると事実ではあるようだな。
「まあ、どうでもいいな。既にイヴ……エヴァは俺の妻だ。さっさと消えろ」
「あっ」
俺の後ろに居るイヴを抱き寄せて口付けをしてやる。するとイヴは未練がまだあるのか恥ずかしそうにしながら涙を流すが抵抗はしない。男の方からは殺気が溢れ出てくる。
「おっ、お前っ!!」
「自分の妻をどうしようと俺の勝手だ」
抱きしめたまま片手で頭を撫でていく。イヴは恥ずかしそうに俯いて顔を俺に押し付けてくる。
「ふざけるな! エヴァがお前の妻だなんて認められるか! 借金を理由に迫ったくせしやがって!」
「それがどうした。エヴァも納得しているのだからお前には関係ない事だ。部外者は黙っていろ」
というか、俺が用意した話でもないんだが其の辺はコイツには関係ないだろうしな。
「そうはいくか! エヴァの借金を払ってやる! だからエヴァ達を解放しろ!」
「お前に支払えるのか?」
「ブネのデータを売れば支払える! その価値があるだろう!」
男が提示したデータは人と犬、グリフォンの頭を持ち、胴体がドラゴンという悪魔のデータだ。俺が倒したシトリーと同じデータだな。確かにこれは欲しいし、販売すれば値段はかなり高くなるだろう。
「っ!?」
不安そうにこちらを見上げて震えるイヴ。どちらの意味かはわからないが、俺の答えは決まっている。
「だが断る!」
「なんだと!?」
売るだろうと思っていた奴に堂々と宣言してやる。本当はべつの事を言いたいが、言ってみたい台詞ではあるのでチャンスは逃さない。
「そもそも貴様は馬鹿か」
「馬鹿じゃねえよ!」
「いや馬鹿だろう。自分の妻を金で売り渡すとかないだろ。少なくとも俺はしないな。ましてやエヴァのような家事能力も高く尽くしてくれる金髪美少女だぞ? 誰が勝ち組人生を手放すかよ。手放す奴は馬鹿でアホ以外の愚か者でしかないだろう」
「あうっ」
イヴは俺の言葉で顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。でも、実際問題……手放すとか有り得ないよな。
「ぐぎぎぎぎぎぎっ!」
「あ~お兄ちゃん、その手放した愚か者が目の前にいるんだよ……つまり、寝取られたという事だね」
「ふむ。確かにその通りだ。さっさと自分のモノにしてしまえば良かったものを……」
何事かと近寄ってきたアナスタシアが抱きつきながら放った言葉を考えると確かにその通りだ。ここはやっぱり言うべきだな。
「寝取らせてくれてありがとうよ」
「死ねっ!!」
ブチ切れたのか、刀を尋常じゃない速度で抜刀して斬りかかって来る。イヴ達がいるのにだ。これでまたイヴの心が離れるだろう。
「それも断る」
脱衣の魔眼を発動させて男の服や防具を弾け飛ばさせる。弾け飛んだ服や防具が抜いた腕を妨害して抜刀の速度が衰えて軌道が変化する。そうなればデスサイズの刃で防ぐ事など容易い。刀とデスサイズが衝突して金属の激突音が響く。
「アセリア」
「はっ、はい!」
「二人を頼む」
「わかりました」
直ぐにイヴとアナスタシアを預けながら暗黒槍を準備しつつ自由を確保する。男が呆然としている間に準備を整えた暗黒槍を左右に放つ。
「仁っ!!」
「はっ!?」
トラックから声が聞こえて気付いた男は慌てて回避を行おうとする。だが、その直前に飛来した矢が右足を貫き、ほぼ時間をおかずにもう一本飛来した矢が今度は左足を貫く。二本の矢によって地面に縫い付けられた奴に避ける事は叶わない。
「シールドプロテクションっ!!」
だが、トラックに乗る奴の仲間から放たれた防御魔法が無数に展開される。男の周りに多重展開された半透明の障壁魔法を複数貫かされた事で高威力を誇る暗黒槍はその力を殆ど消費して防がれてしまった。だが。それは目くらましに丁度良く、暗黒槍の背後から振り下ろしたデスサイズの一撃は残っていた障壁を紙切れのように切り裂いて男の首から斜め下へと切断する。
「うぎゃぁあああああああああああああぁあああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」
絶叫が響く中、魔眼によって光る場所にデスサイズを持っていない腕と手を暗黒魔法で鉤爪に変化させて傷口から中に入れてやる。すると内部から破壊された男は死んで動かなくなった。俺は死体から腕を引き抜いてトラックの方を見る。するとトラックは鎖で雁字搦めに縛られて動きを封じられていた。
「楽しそうな事をしているね~アタシも混ぜてよ」
「なら、そのままそいつらを押さえておいてくれ」
「了解~」
動かなくなった死体に手を入れながらデスサイズを置いて片手で奴のPADを探す。ポケットに入っていた奴のPADと俺のPADを繋げてブナのデータを吸い上げる。シトリーのデータをアセリア達に配った時から思っていた。送る事が出来るのなら逆に貰う事も出来るのは当然出来る。それは相手が死体でも可能ではないのだろうかと思った。もちろん、倫理観からいえば認められない事だ。だが、このゲームの本質はゲームであってゲームではない。プレイヤーが実際に死ぬデス・ゲームでこそないが、人類の存亡を賭けたある意味でのデス・ゲームだ。勝利する為には手段を選んでいられない事は製作者や国もわかっている。実際に出来る限り死体を回収するようにと通達もされている。アバターを作成する資源の有効利用と言われているが、実際は戦闘経験や敵のデータの回収と思われる。何が言いたいかというと死体は物質的にも情報的にも宝の山だという事だ。
「あ、あの……」
「ああ、イヴとアナスタシア、アセリアには悪いが襲われたからな。殺されない為には殺すしかない。これからこういう事があるかも知れない。嫌ならやらなくていいからな。俺やガレナンガ、年上の男達に任せておけ」
アセリアとアナスタシアが声を掛けて来たので答えてやる。イヴは流石に刺激が強かったのか離れた所で弓を構えたリサと一緒に居る様子が遠目で確認できた。
「は、はい……」
「……お兄ちゃん、それは何をしているの?」
「サルベージだ。こいつはブナを倒してそのデータを持っていた。オリジナルではないかも知れないが使えるだろうしな」
「そうだね。慰謝料って所?」
「そうなるな……ちっ、5割か。それでも十分と言えれば十分だな」
奪えたデータは5割だけだった。実際はもっと得ていただろうが、これは仕方がない。死体から無理矢理引き出しているようなもんだしな。
「んで、こっちはどうすんだよ?」
「倒しちゃう?」
「交渉次第だな。サリム、頼む」
「わかりました」
デスサイズを拾ってからトラックに近づく。トラックの後方へと近づき、警戒しながらサリムが扉を開ける。中に居た奴等は武器こそ構えているが戦う気はないみたいだ。
「こちらに戦う意思はない。話し合おうじゃないか」
「わかった」
代表であろう男が武器と防具を外してこちらに歩いてくる。俺も近づいて話を聞く。
「先ずは擦り付けて悪かったな」
「全くだ。まあ、稼がせて貰ったから交渉次第で許してやる。それに見たところ生き残っているのは最初に突っ込んでいった奴等じゃないだろう」
「まあ、そうだな。奴等が突っ込んでくれたお陰で相手の情報が手に入った」
突っ込んだ奴等を助けずに情報収集に徹したようだな。まあ、それが賢い選択だ。レイドボス相手に情報収集もせずに突撃して勝てるなんてまずないからな。
「そんな事はいいか。こっちは増援を止めてくれていたあんた達にお礼と報酬を渡そうという話になってこっちに来たんだが……アイツが急に飛び出していってな」
まあ、探していたイヴが見つかったら思わず行動したという事か。あちらからしたいきなり戦い始めたから慌てて防御魔法を飛ばして援護だけはしたという事か。
「それで報酬との事だが……ブナのデータをくれ」
「だよな。わかった。ここにいる全員のデータを集めた7割を渡そう。他のデータは別の奴らが手に入れていて俺達は持っていない」
「了解した。それでいい」
「助かる」
「それと片付けを手伝ってくれ。余った奴はやるから」
「それは助かる。ブナのデータが売れるまで赤字だからな」
「レイドボスは仕方ないさ」
ボスデータは美味しいが、どうしても仕様する消耗品や装備の値段が跳ね上がる。トータルで黒字になればいいが、装備の修理などもしないといけないから普段の狩りもきつくなる。だからこそ、人が多い方がリスクを分散でき少ない労力で勝てるので集まって狩るのが多い。逆に報酬が少なくなるから俺達のように少数で倒す連中もいる。
「それじゃあ、よろしく頼む」
「ああ」
彼らを雇って運び屋の人達が来るまで整理していく。運び屋の人達が来てから輸送して貰って俺達はヘクセンナハトのギルドホームへと戻り、各自でログアウトした。
食事を取ったあと風呂に入り、ベッドに入るといつもより激しめにエヴァの身体を貪る。
「だ、旦那様……」
「……お兄ちゃん……?」
「いいか、エヴァとアナスタシアは俺の、俺だけのモノだ。しっかりとその身体に教え込んでやるからな」
「……はい……私達に刻み込んで……忘れさせてください……」
「うん。私達はお兄ちゃんだけのモノだから、好きなだけ可愛がってね」
「もちろんだ」
二人を本当に俺だけの妻にする為に子作りを励んでいく。




