犬の襲撃③
無理矢理広げた指揮官へと進む道を進んでいる途中。他の連中が俺達の横を物凄い速度で突っ込んで行きやがった。こちらがガレナンガの攻撃の為に速度を落としていたのが原因でもあるが、それ加えてやってくれた。
「あいつらっ!!」
「許せないね。でも、こっちをどうにかしないといけないよ」
「ああ」
連中が今まで戦っていた鉄犬達に加えて、他にも纏めて倒す為か知らないが、動き回って引き連れていたまま突撃して行った連中もいた。そいつらを全て纏めて相手をしなくてはならない。全速力で走っていれば逃げられたのだろうが、加速しきる前に鉄犬に追いつかれてしまう。そうなれば負けるつもりはないがどうしようもない。ガレナンガもタルタルも悪態をつきながら戦闘の準備をしてくれる。
「ああいう人達は嫌ですね」
「本当にそうですね」
「うん。全く。でも――」
アセリアとイヴ、アナスタシアも不満はあるようだ。だが、ある意味ではラッキーかも知れない。
「――全部美味しく滅ぼしたらいいだけ」
「全くもってその通りだよね。よ~し、お姉さんも頑張りますか」
「やれやれですね」
サリムが大きな盾を持ちあげて準備しつつ、錫杖を鳴らしながら詠唱しているアナスタシアと弓を射ていくリサを何時でも守れる配置につく。
「前衛組はアナスタシアの攻撃後に突撃。イヴ、頼む」
「はい。これから支援を開始します」
「せっかく持ってきてくれたポイントの大量ゲットイベントだ。美味しく頂くぞ」
「「おぉー!」」
囮にされて狩られるだけならMPKになるだろうが、逆に狩れるなら態々他の連中が獲物を集めて来てくれたと考えられる。そして、俺達は他の連中とは違ってシトリーのお陰で充分に狩れる戦力があるので後者になる。
「とっておき」
詠唱を始めていたアナスタシアの前には大きな魔法陣の東西南北に小さな魔法陣が展開されている。膨大な数のプログラムされた数式がれていく。展開される数式が多い分、アバターの内部に備えられている動力炉から魔力と呼ばれる正体不明のいエネルギーが増幅される。小さな魔法陣を四つに中心の大きな魔法陣が一つというこの構成は四つの魔法を増幅し、乗算して一つの大きな魔法とする。アナスタシアの魔力値は100で武器のデータは知らないので計算せずに行くと、基礎の魔法攻撃力が100。魔法の基礎攻撃力が10とすると、110の4乗で146,410,000という桁違いの破壊力を生み出す。まあ、実際は膨大なエネルギーを制御術する式が大量に組み込まれているみたいで、威力はもっと低いみたいだ。おそらく、威力に使われているのは最低で10。多くて20くらいだろう。
「消し飛ばして、ライトニングバーン」
詠唱が完了したのか、アナスタシアが錫杖をシャランと鳴らしながら魔法陣の中心を錫杖でつく。すると前方の空にあった雲が消し飛び、その先に見えた巨大な魔法陣からそれに相応しい巨大な光の柱が鉄犬の軍団を飲み込んだ。その後、強化していなければ鼓膜を突き破っているような爆音が響き、衝撃波でトラックが吹っ飛んだ。
「タルタル!」
「聞こえないけど何言ってるかわかる!」
タルタルが鎖でなんとか地面と縫い付けてくれたので遠くに吹き飛ばされる事はなかった。イヴが必死に歌うが聞こえなければ歌魔法は意味がない。むしろ、激しい振動の中でも歌えるのは凄い。気分はハリケーンに巻き込まれた感じだな。
「ぐっ!?」
落ちる感覚がしてきたので、慌ててイヴとアナスタシアの腕を掴んで抱き寄せる。
「あうっ!?」
「ひゃっ!?」
二人を片手で抱きしめ、空いている手をアセリアへと伸ばす。
「掴まれ!」
「はいっ!」
握り合った手を引き寄せて三人を纏めて抱きしめる。周りをみるとサリムがリサを、ガレナンガがタルタルを抱えて守っている。タルタルと目が合うと、直ぐにこちらに鎖を飛ばしてきて俺達四人をしっかりと固定してくれる。後は頑張って衝撃を防ぐだけだ。
少しして襲ってきた衝撃で上下左右に揺らされながら壁を手足を使って衝撃を吸収しつつ反対側に飛んでを繰り返して衝撃を殺していく。ありえないほどの身体能力を利用した方法だ。ゴロゴロと転がるトラックの中でまるでゲームみたいだ。しかも、下手に力を入れたら壁が壊れるし細心の注意が必要だ。
「ふう、なんとかなったか」
「ありがとう、ございます」
「「うっ……」」
青い顔をしたイヴと女の子として見せてはいけない姿をしちゃっている二人。
「やー、面白いアトラクションだったね!」
鎖が外れ、タルタルが元気な声でそう言ってくる。タルタルとガレナンガは普通にしているな。サリムは頭がクラクラしているようだ。リサはサリムの胸の中で気絶中だ。
「外が凄い事になっているぞ」
「おぉ~~でっかいクレーターだね~」
「敵兵は……残骸が少しだけ残っているな」
「むぅ~残ちゃったか。対バアル用全力攻撃だったんだけど」
対バアル用か。確かにダメージは与えられそうだが……周りの、俺達への被害が大きすぎる。改良が必要だな。
「ふぅ、酷い目にあいました」
「ごめんなさい」
口元を拭いてアナスタシアとアセリアがイヴに伴われてやって来る。
「結界か何かで内部空間でのみ完結するようにすれば力も逃げないし、威力がもっと上がるんじゃないか?」
「それだ!」
「これ以上、威力を求めるんですか……」
「うん。目指せは一撃必殺」
「ボスを一撃って間違ってますよ」
「アナスタシア、今晩のご飯は抜きですから」
「えっ!?」
「お仕置きです」
後ろは置いておいて、外に出てみる。クレーターが出来ているが、それよりも大切な事をPDFで確認する。PTのPK人数は無し。先程の攻撃に他のプレイヤーは巻き込まれなかったみたいだ。これでひとまずは安心だ。他のプレイヤーは先に撤退したか、指揮官に突撃したのだろう。あちらにも被害が出たかも知れんが、それはこっちの知ったことではない。擦り付けていった奴等が悪い。それでも喧嘩を売ってくるなら叩き潰してやる。
「お兄ちゃん、助けて」
「そうだな。イヴ、説教は後にしてくれ」
「どうしましたか?」
「お客さんだ」
PDFに大量の敵が接近してきていると表示が出た。それを皆に見せる。敵の増援……いや、援軍は左右に別れて指揮官と俺達の所にやって来る。大多数はこちらに来ているが、一際大きい反応はあちらに行っている。この情報を本部に送信すると、結構無茶なミッションが発行された。
「新しいミッションを伝える。これより、ヘクセンナハトは敵陣を敵将が討ち取られるまで止めろとの事だ」
ミッション内容は至ってシンプルだ。動かせる全勢力を防衛と敵将攻撃部隊に別ける。つまり、俺達に求められている事は敵陣の勢いをこちらに対しての増援が無い状態で死んでも殺せって事だ。復活費用などは全て本部が持ってくれるという至れり尽くせりで。むしろ、それぐらいしないと誰も受けないだろうが。まあ、ポイントはその分高いけどな。
「おいおい、敵は数百どころか数千体だろ」
「普通は無理だねえ~」
「怖気づいたか?」
「「まさか!」」
タルタルとガレナンガの二人はニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる。
「ギルドマスター、命令してくれ」
「そうそう。私達はそれでいいよ。それに殲滅しても構わないんでしょ~?」
「構わん。思う存分暴れろ」
「「よっしゃぁああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」」
二人は外に出て楽しそうにトラップを楽しそうに設置していく。
「イヴは歌い続けてくれ」
「任せてください」
「お兄ちゃん、私は魔力が空だから。ううん、しばらく回復しないから」
限界以上の魔力を先程使ったのか。まあ、想定の範囲内だ。
「なら、前衛として戦え」
「わかった。突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀、杖はかくにも外れざりけりっていうし」
神道夢想流杖術の言葉だったか。難しい事を知っているんだな。
「って、漫画で言ってた」
「漫画か!?」
「うん」
「大丈夫なのか?」
「心配です」
俺とイヴはアナスタシアの事を心配してしまう。だけど、後ろからアナスタシアに抱きついてきたアセリアが
笑いながら言ってくれる。
「あははは、大丈夫ですよ。アナスタシアは私が守りますから」
「前衛大事。後ろは任せて、きっと多分」
「そこは断言しようよ!」
「出来ない事は、出来ない」
「もう」
堂々と胸を張って宣言するアナスタシア。俺とイヴは互いに顔を見てフォローをする事に決めた。
「ほら、ちびっ子共。さっさと行った行った」
「「は~い」」
リサに促されて二人は出て行く。
「私とサリムはイヴの側でいいよね」
「ああ。イヴとリサを頼むぞ、サリム」
「ええ、任せてください」
「旦那様も気をつけてくださいね」
「わかってる。出来る限り死にたくないしな」
「そうです。死なないでください。この歳で未亡人は嫌ですからね」
「イヴを悲しませない為にも頑張るか」
「熱々ですな~」
「リサ……」
まあ、蘇るから未亡人云々は有り得ないんだが、それぐらいの覚悟で挑んだ方が気を引き締めるのにいい。大切な嫁達を守るのと、ギルドメンバーという家族を守る為に。
横転したトラックから出て、視界を埋め尽くすような数の敵に向けて9割の魔力を使って暗黒槍を沢山用意する。
「敵は数千。だが、所詮は雑魚だ。俺達、ヘクセンナハトの実力をたっぷりとみせてやるぞ!」
「「「おぉおおおおぉぉぉぉっ!!」」」
「殺戮の開始だ!!」
俺の宣言と共にイヴが横転したトラックの上で歌いだし、支援を行ってくれる。それを確認し、デスサイズを振り下ろして開幕の一撃である無数の宙に浮かんで待機していた暗黒槍を敵陣に叩き込む。暗黒槍は着弾すると円形に広がって鉄犬共を飲み込んだ上に突撃してくる者達も含めて消滅させていく。
「1が2に、2が4に、4が8に、とにかくいっぱい! 喰らえ、アローレイン!」
隙間を抜けて来た奴等にはリサの放った魔法の矢が無数に分裂して降り注ぐ。それを抜けてもタルタルの仕掛けたトラップゾーンで鉄犬達は虐殺されていく。更にその奥にはガレナンガとアセリア、アナスタシアが守備についている。本来なら突破出来ない奴らも、タルタルが適度に通してアセリアとアナスタシアを戦わせる。ガレナンガがサポートについてくれているので全然問題無く戦えている。
「こっちは大丈夫そうだな」
「さて、俺も暴れるか」
ヘッドフォンをつけて、直にイヴの歌声を聞きながら全速力で敵陣の横へと移動する。
「さあ、楽しい楽しい食事の時間だぜっ!!」
デスサイズを振り回しながら高速で敵陣の横っ腹に突撃して食い荒らす。デスサイズのリーチを活かして破壊しながら反対側を目指す。背後には暗黒槍をぶっぱなして排除する。単騎で敵陣に突撃する。これまた男のロマン!
鉄犬を軽く超える速度と圧倒的な攻撃力を持つデスサイズで大暴れする。もちろん、混乱して右往左往している所にガレナンガの光の一撃が飛んできて纏めて蹴散らす。対バアル用に準備していた俺達に鉄犬がいくら集まろうと無駄でしかない。ただの獲物だ。




