犬の襲撃②
一年ぶりに更新です。ちょくちょく上げていこうと思います
チャーターしたトラックで敵が迫って来る予想地点へと到着した。既に戦いが始まっているようで攻撃部隊と防衛部隊が攻め寄せてくる大量の犬型MITと激しいぶつかり合いを行っている。それを離れた位置で観察し、これからの事を話し合う。
「さて、俺達は遊撃部隊な訳だから自由に戦えるのだが、情報が無いとどうしようもない」
「はい。それでは調べた情報を伝えます」
イヴが手を上げた後、イヤホンマイクに手を付けながら話してくれる。
「敵が現在攻め込んできている数は約1万7千体。正面に1万、その後方に2千。左右から2千ずつ。更に遠くに動かない部隊が千体ですね」
イヴの音魔法を使った音源探知によってわかった数だろう。MITはその性質上、絶対と言っていいほど音がでる。普通の索敵スキルより便利だ。
「で、どうすんだよ?」
「食い破るにしても、流石に万は無理だぜ」
「そうですね。こちらが優秀でも、それは無理です」
「だよねー」
ガレナンガ、タルタル、サリム、リサの順番でそれぞれ意見を言ってくれる。確かに普通にやったら無理だろう。
「広範囲攻撃、まとめて処理」
「アナスタシアの範囲攻撃で足止めしつつ、レンさんの魔法攻撃で削れればどうにかという所ですか?」
「まあ、千ならいけるだろう。それと遠くに動かない部隊は恐らく指揮官か何かだろうす、まずは左翼から攻めてみるか」
「2千はきつくないか?」
「俺達だけで相手をするのならな。イヴ、攻撃部隊が攻める準備していないか?」
「そうですね……本陣を相手にしているので手一杯みたいですが……」
そうなると陽動が必要だな。
「まずは俺が一人で敵陣に一撃をいれる。いくらかは釣れるだろうからそいつらを連れて、罠を設置した場所に誘導して一網打尽にする。待ち伏せだな」
「罠はアタシの鎖だな。そこに雷でも落とせば感電しやがるし」
「そうだな」
「アナスタシアとイヴの護衛にアセリア、タルタルとリサの護衛にガレナンガ。サリムはいざという時の壁だな」
「わかった」
「任せてください」
準備してから移動、目標地点に到着する。到着したら各自配置について準備する。それが確認できたら俺はトップスピードで敵陣に向かって走る。時速200キロで駆け抜け、敵の左翼を射程距離に入れる。
「暗黒槍」
暗黒魔法で作り出した槍を京都に向かって突き進んでいる敵陣に投擲する。着弾すると同時に闇が広がって鉄犬達を飲み込んでいく。攻撃によってこちらに気付いた敵陣が部隊の一部を別けてこちらを目指してくるが、足りないので来ていない方に暗黒魔法を適当に放つ。鉄犬が接近してくればデスサイズで一刀両断しながら敵陣の中を駆け抜ける。囲まれたら終わりなのでほぼトップスピードから落とさない。相手の速度はだいたい時速70キロなので倍以上の速さで動いているこちらを捕らえられない。もっとも、数で押してくるのでクールタイムが終わった魔法も順次放って包囲に穴を空けないとやられる訳だが。
「流石は狩猟に使われるだけの事はある」
空けた穴から抜け出し、敵が京都へ向かわないように遅滞戦闘を行いながら交代する。ある程度後退すると、遠方からリサによる援護射撃が飛んでくるようになる。もちろん、リサの方にヘイトが行き過ぎないようにこちらで攻撃してコントロールするが。援護が届くと同時にイヴの歌も聞こえてきてステータスが上昇しだした。
「おーい、こっちは準備いーからなー」
「了解!」
俺は最高速度でタルタルの横を駆け抜けて距離を取る。直ぐにタルタルが罠を発動させる。地面が突如として揺れて、地中から大量の鎖が現れて千体以上の鉄犬達をまとめて拘束していく。
「一本釣りってな!」
自ら手に持った鎖を小さな少女が引き寄せ、大量の鉄犬を一箇所に固めてしまう。
「アナスタシアやっちまえ!」
タルタルが叫ぶとシャーン、シャーンという錫杖の音が立て続けに響く。空が暗くなり、雷雲が出現していく。
「インディグネ……」
「それダメだからね!」
「ちっ。サンダーストーム」
大量の雷が降り注ぎ、一撃で行動不能にしてしまう。
「あうあうあうあう! し、痺れるぜぇぇぇ」
タルタルは感電したが耐性があるので問題にもならない。いや、痺れているからあるのか。まあ、とりあえずこれで多少は始末できた。
「後続部隊約640体。速度64キロ。接近まで約3分」
「アナスタシア、クールタイムは?」
「10分」
「それなら……アセリア、ほれ」
「はい? って、これは……」
「投げちまえ」
「わかりました。どうせならスキルを使っちゃいますね」
俺がアセリアに渡したのは暗黒槍。使い込んでいるからクールタイムはそこまで長くはないし、まとめて本数を作れる。
「いけぇぇぇっ! ブレイクシュートっ!」
アセリアが中学生に相応しい身長でありえない程の大きな槍をスキルを使って投擲する。投擲された槍は600から800キロの速度を出しながら後続部隊の先方へと命中する。俺が普通に撃つと半径10メートル程度しか巻き込めないが、明らかに半径100メートル、直径200メートルもの範囲を飲み込んでいく消滅していった。
「アセリア、何をした?」
「あははは……ブレイクシュートは投げる武器を壊す変わりに範囲と威力を数倍に強化してくれるスキルなんですけど、元の威力が高すぎじゃないですか?」
「否定はできないな」
現在のデスサイズの攻撃力は物理、魔法ともに合計して2200。魔法攻撃力の100を足して2300だ。桁が違う威力となっている。それを数倍にしたのなら納得の威力だ。
「もう、これだけで殲滅できそうな気もするな」
「そうですか? それなら助かります。先程の攻撃で左翼はほぼ全滅できましたが、後続部隊の2千と本体から3千がこちらに来ます。左翼は本体と合流しましたね」
イヴが怖いことを言ってくれる。
「まあ、やる事は一つだな」
「おい、どうすんだ?」
「決まってる。逃げる! 5千なんてまともに相手できるか!」
「ごもっとも!」
全員で急いでトラックに乗り込んで逃げる。無論、鉄犬達は追いかけてくるが、屋根に乗った者と後ろの開いた扉から攻撃をどんどん行っていく。
「サンダーレイン!」
「ブレイクシュート!」
「アローレイン!」
草原を逃げ回りながら数を減らしていく。運転手にお願いして適当に逃げ切らず、追いつかれないようにして貰っている。
「おい、暇なんだが……」
サリムは盾として皆への攻撃を防いでいるので仕事がある。タルタルも近づいてきた敵を鎖で拘束してポイ捨てしているので問題ない。イヴは皆の支援だ。俺は暗黒槍を供給。確かにガレナンガだけ何もない。
「よーし、なら敵の本体に突っ込むか」
「大丈夫かよ?」
「オーラブレイドだっけ、あれの極大のを敵本陣にぶつけてどてっぱらに風穴を開けてやれ」
「それは面白そうだな。後は空けた場所を突っ切ればいいと」
「そういう事。イヴ、防御魔法はどれくらい維持できるんだ?」
「完全な障壁なら約1分ですね。それからは脆くなって4分後には崩壊します」
「なら、大丈夫か。ガレナンガがぶっぱなした後はそのまま走り抜ける」
「わかりました」
運転手にも伝えて敵本陣に向かってもらう。まあ、危険手当を貰うぞって言われてしまったが。とりあえず、そのまま敵陣に突っ込む。
「よーし、やっと俺の出番だな!」
「約30秒後に結界を展開します」
「OKOK。んじゃ、行くぜ!」
「気張っていくんだぞ!」
「じゃあ、支援する」
「だな」
ガレナンガがタルタルの声援を受けながら天井で大剣を上段に構える。アナスタシアと俺、タルタルの魔力も加えると大剣に周りから膨大な光の球体が収束し、光の刃を形成する。
「光になれぇえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
振り下ろされた一撃は防衛部隊や攻撃部隊から攻撃を受けている本体に直撃し、鉄犬を消滅させる。そのまま光剣が消滅するまで振り回して文字通り敵陣を削り取ってしまう。
「結界を展開します」
光剣が消滅すると同時にイヴの障壁が展開されて作り出された穴を抜けていく。当然、鉄犬だけでなく他の部隊からも攻撃されるが、それらを無視して突っ切る。俺達を追っていた連中も仲良く攻撃を食らって死んでいる。
「お、キル数が5千790になったな」
「楽勝」
「そうよね。どいつもこいつも消耗を抑えようとして積極的に攻撃していなかったみたいだし」
攻撃部隊も防衛部隊も弱った敵を狙おうと取り合いになっている。互いに牽制してろくな力を出し切っていない。まあ、大手とか大舞台とか存在しないからだが。唯一まともに動いているのは軍人達だろう。
「んで、これからどうすんだよ?」
「アドバンテージは手に入れた。どうせ後は他の連中が我先にと倒してくれる」
トップが俺達となれば、もうなりふり構わずちょっとでも稼ごうと果敢に攻撃するだろうしな。なら、俺達がやる事は一つ。
「この部隊の指揮官を討つ」
「楽しみ」
「後方、千の部隊ですね。他のとは音が違いますから恐らく、精鋭か新種だと思います」
「ま、蹴散らすだけだぜ」
「まったくだ」
「脳筋ばっかだね」
それから、トラックの中で休憩を行い、敵の指揮官様の場所に趣いた。




