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犬の襲撃①

 






 指揮所には数々のプレイヤー達が並んでいる。俺達も並ぼうかと思ったが、代表だけでいいという事で、俺とイヴが並ぶ事になった。正確には俺が並ぶといったら、イヴも一緒に並ぶといいだしたのだ。そんな訳で、2人っきりでどうせだからと腕を組んで並んでいる。周りの男の視線は2種類くらいだ。嫉妬と欲望。嫉妬は俺が男だと気付いた奴。欲望は逆に女だと思った奴だろう。


「魔神ってどんなのですか?」


「一言で言えば化け物だな。でも、ソロモン72柱を意識されているからか、比較的予想は立てやすいな」


「そうなんですか?」


「今回なら、敵が率いているのは鉄犬だからな。犬に関する魔神といえば、グラシャ=ラボラス。カーシモラル、カークリノラースとも呼び名はあるが、36の軍団を指揮する序列25番の大総裁と言われる存在である事に違いない」


 シトリーはかなり遊んでいたし、そもそも単体でボスが移動して来た所をなんとか勝った程度だ。連中の実力はもっと上だろう。


「強そうですね。軍団は確か3万人以上でしたよね?」


「そうだな。最低でも108万体の敵がいるんだろうな」


「絶望的じゃないですか……」


 実際にそんな数に襲われたらひとたまりも無いな。


「流石にそこまでいないだろうけどな。それに今来ているのは斥候だろう。実際、京都の街の防備でなんとかなると思うよ。増設されまくってるし」


「建設バブルですからね。そういえば、ニュースでゼネコンの人達がこちらで仕事を受注しているそうですよ」


「そっち方面の株を買うか……」


「むしろ、こっちで会社を作った方が儲かりますよ」


「その心は?」


「シトリーのデータで雇った社員を早期育成。大手からベテランの人を顧問に雇い入れてお仕事をしてもらえばいいかと。それと、必要な資材は私達で取ればいいですし、加工工場を作ればアリシアちゃんの制作速度がさらに上がります……」


「そうだな。そっちは親父がやりそうだが、こっちの強みを生かしてもいいか。工房フロアはかなり空いてるし、いやいっそ魔導砲とか考えてみるか」


「そういうのでしたら、アナスタシアが好きですね。あの子、服を作りながら色々と魔法を調べていましたから」


「それと、これから必要になる輸送業も上がりそうだな」


 距離が広がるとどうしても時間が掛かる。それは困るのだ。社会人とかが特にな。


「そうですね」


「だから、武装をつけたトラック……いや、戦車とどうだ?」


「でも実弾は聞きませんよね?」


「ああ。だから、いっその事魔力増幅装置にしてしまうんだ。砲塔からは魔法を放てばいい。弾丸は乗り手そのものだ」


「戦車のノウハウはお父様から貰えば問題ありませんでしたね。やりますか?」


「やっちまおうぜ」


「では、サポートしますね」


「ああ、頼む」


 俺達は色々と詰めながら、並んでいると、順番がやって来た。受付は仮設テントのような感じというか、まんま仮設テントだった。そこに女性が座ってパソコンを操作している。


「登録でございますね。ギルド、パーティー、個人で登録できますが、どうなさいましょうか?」


「ギルドで登録する。ギルド名はヘクセンナハト」


「ヘクセンナハト様ですね。こちらに届けられているのは、7名ですが、よろしいでしょうか?」


「いえ、1人加入しましたので8名になります」


 イヴが補足してくれた。追加はリサの分だな。


「畏まりました。景品はギルドランキングで競う事になりますので、その点はご了承ください」


 リストを渡されたので見たが、他のより明らかにギルドの景品が高い。ギルド自体、今は数が少ないから結構有利かも知れないな。


「それでは本人確認を致しますので、こちらに手を置いてください」


 言われた通りに板のような機械に手を置くと、指紋読み取りみたいな感じの光が発せられた。


「ナノマシンの情報を読み取り本人確認を行いました。本人確認が取れましたので、これよりギルド、ヘクセンナハトは特殊クエストを受注できます。難易度が色々ございます。例えば偵察任務から強襲任務までです」


 一番難しい任務は遊撃任務。好きに動いて成果を上げるという奴だ。敵を多く蹴散らすのも構わないし、偵察を行うのも構わない。ただ、全てギルド責任になる。保証が一切行われないし、救助も期待できない出来高制なのだ。だが、その分、貢献ポイントの倍率は高い。京都開放は逃したが、これはこれで楽しめそうだ。


「この遊撃を受注する」


「畏まりました。解約時には違約金が発生しますのでご注意ください。こちらで得られて情報はPDAを通して配信致します」


「わかった。行くぞ、イヴ」


「はい」


 俺達が戻ると、そこには退屈そうにしている皆が居た。訂正。楽しそうに武器を磨いている連中が居た。この軍服のせいか、周りから結構浮いているのだ。今のところ、ファッションでしか布装備をする奴がいないからだ。


「お前ら、喜べ。一番危険度の高い遊撃任務だ」


「マジか!」


「マジだ」


「はい。私達ヘクセンナハトは遊撃任務を受注しました。これより、外敵を殲滅してポイントを稼ぎます。こちらがそのポイント一覧と景品一覧です」


 イヴが秘書のようにサポートしてくれるので非常に助かる。


「こいつは……」


「凄いですね」


「スキルが貰えるんだ……」


「工房施設……」


「上位魔法……」


「私は永続付与が欲しいです」


「ま、欲しいスキルを手に入れる為にもポイントを貯めないとな。という訳で、今から行くぞ」


「「「はい」」」「「おう」」


「でも、テストが近いんだけど……」


「学校、どうしましょうか」


「「「サボれ(る)」」」


 俺とアナスタシア、アセリアの言葉に結構冷たい瞳でイヴとリサが見てきた。


「まあ、アタシはサボるな」


「俺もそうだな。講義は大丈夫だからな」


「私は仕事があります。ちなみにお嬢様はサボってはいけませんよ」


「……リサ」


「くっ、なによ?」


「代弁よろしくお願いします」


「イヴまで!」


「旦那様の意向には逆らえませんから……それに、成績はあまり問題ではありませんから」


「くっ、行き先が決まってる奴はいいわね。わかったわ。私が代弁してあげる。でも、今から夜までは参加するわよ」


 リサの言葉に皆が頷いて、俺達は大量の食料を買い込んで草原へと出て行く。行きは運営が出しているトラックに乗るのだ。直ぐにイヴがトラックの場所に行って、1台をチャーターした。


「リサとアナスタシアは俺と天井に待機。その他は好きにしてくれ。あ、イヴだけは後ろで俺達に支援を頼む」


「分かりました」


「私も上に上がりましょう。相手が遠距離攻撃をしてくるかも知れませんから」


「そうだな、頼む」


 俺とサリム、リサとアナスタシアがトラックの天井に居ながら敵を探して攻撃していく予定だ。他は中で基本的にはくつろいでもらう。場所が決まったら出発してもらう。


「ほい」


 実際に接近して来た敵は俺が探知して、リサが狙撃して落としていくので、安全無事に目的である戦闘エリアへと3時間でやってこれた。










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