ギルドハウスにて⑤
サイレンが鳴り響いた瞬間。俺達は直ぐにPDAを確認する。そして表示された情報は緊急を要する内容だった。
「草原区画の先、鉄犬が存在する場所から4500体以上のMIT軍団が接近中と書かれていますね」
「中には進化系だろう未確認種も確認されていますね」
イヴとアセリアが詳しい事を教えてくれる。問題は進化種の強さと相手の数か。
「襲撃イベント?」
「ゲームとしてはそうだな。だが、せっかくの拠点を落とされるのはまずい」
アナスタシアはアセリアを見た後、俺の方を見詰めてくる。
「なら、皆にプレゼントがある。先に4階に行ってて」
「そうですね。私とアナスタシアは後から向かいます」
アセリアもアナスタシアの言葉に同意している。
「わかった。行こうか、イヴ」
「はい」
俺とイヴはエレベーターに乗って降りていく。4階には既にリサとサリム。それにタルタルとガレナンガも待機していた。
「楽しいイベントの時だぜ」
「ヘクセンナハトの実力を知らしめるにはいい機会だ」
楽しそうにしているタルタルとガレナンガ。それに対して緊張しているリサ。
「大丈夫なのかな……私、足でまといじゃない?」
「大丈夫ですよ。私達と同じステータスですし、サリムさんが守ってくれますよ」
「ええ、皆の安全は私が守りましょう」
リサにも加入と同時にシトリーのデータは渡して置いた。
「しかし、アレだよな。せっかくバアル用に準備が出来てきたって所なのによ……」
「まあ、それはそれでアリじゃないか? 4500体以上率いるって事はだ……」
「バアル以外の大物って可能性が高いぜ!」
「そうですね。できれば私達で倒したいですが、今回のは言ってしまえば戦争ですからね。何が起こるやら……」
俺とガレナンガ、タルタル、サリム達は楽しそうに笑っている。
「うわぁ、バトルジャンキーだよ、この人達。入るギルド間違えたかな?」
「もう遅いですよ、リサ。逃しません」
「イヴ……というか、2人の年少組は?」
「今、降りてくるはずです」
エレベーターが到着する音が聞こえ、2人が入って来た。
「全員、一列にカウンターの前に並ぶ」
「配給品のお時間です」
楽しそうにカウンターの内側に回って、アイテムを取り出して行く。
「では、先ずはレンさんから。残念ながら武器は普通の装備不可なので私からは雷属性と暗黒属性のグローブとグリーブです」
「私からお兄ちゃんには、雷属性と暗黒属性の軍服と軍用コートだよ。これはヘクセンナハトの正式なユニフォームだから」
渡された軍服と軍用コートは全て真っ黒で、デザイン性が重視されている。左腕の脹脛にはバックにギルドハウスの木が描かれ、赤い魔法陣の上に立つ死神の絵が刺繍されている。服自体はドイツ軍親衛隊の改造制服っぽい感じだ。細部は前線違うが。よく見れば渡されたグローブには赤い魔法陣が描かれている。全てを着てみる。暗黒属性の装備だ。
「格好良いですよ」
「どっちかってーと美人だけどな」
タルタルとイブの意見に大きな姿身をアセリアが出したので、それで確認してみる。身長が170ちょっとで長い黒髪に赤い瞳。整った顔立ち。充分に有りだ。軽くダークネスサイズを振ってみるも、身体を阻害するどころか調子がいい。防御力も合計で730と高いレベルだ。
「これ、どうしたんだ?」
「ちまちま蜘蛛の糸を手縫いで編んだ」
アナスタシアの言葉に全員が絶句した。使われている布も全部機械を使ったように整っているのだから。
「ナノマシンの学習能力は偉大。20回も作ればやれば一着9時間で出来るようになった。最初はこの身体でも23時間とかかかって話にならないレベルだったけど、布になったら楽だった……うふふふ」
虚空を見つめるアナスタシア。あの身体スペックを持ってしてもそんなにかかるのか。ちなみに、俺達は速度100も有れば200キロ近い速度が生身で出せるし、持てる重量も凄まじい量を持てる。大体、2倍計算で色々と割出せるが、本当に超人だ。使いこなすにも相当量の練習が居るが、ナノマシンの学習能力も桁違いなので数時間から数十時間で適応する事が可能となっている。訓練施設というナノマシンが追加で過剰散布されていて、演算補助システムなどが配置されている場所限定だが。
「次はお姉ちゃん」
「はい、ありがとうございます」
「イヴさんは武器が有りません。ただし、歌の補助用にスピーカーが内蔵されているグローブにイヤホンマイクを用意しました。こちらはPDAに連動しています」
イヤホンマイクは棒状の物が伸びているタイプだ。
「なら、歌の伴奏は問題有りませんね」
イヴが装備を変更する。着替えは一瞬なので、少し隠れるだけでいい。
「似合ってるな。凛々しい」
「ありがとうございます」
イヴのは木の枝に座って歌っている三角帽子を被った女性が描かれていた。周りには鳥たちも居る。
「アタシも欲しい~」
「はいはい。服はみんな一緒」
「武装は違いますけどね」
タルタルは拘束された魔女だった。だが、笑っている姿から罠だと思える。ちなみに武装は鎖で、沢山服に仕込まれている。というか、こいつは余り変わっていない。もともと軍服趣味だし。
「俺だな」
ガレナンガのは大剣を突き刺し、屍の上に立つ男が描かれている。武器は帯電する大剣と暗黒属性の大剣だが、片方の刃にはギザギザが施されている。柔らかい場所と硬い場所で使い分けろという事なのかも知れない。
「サリムは一番苦労した」
「私は楽だったんですけどね」
「すいません」
「結論は軍服の上にブレスプレートとかでいい」
「はは……」
面倒になったようだ。だが、他の制服と違って、要所に金属鎧が組み込まれている仕様となっていた。サリムの剣はソードブレイカーと同じ形状で、盾は大きくなり、杭を3本も下に打ち込んで耐える仕様になっている。ちなみに、絵は盾を構えて後ろに居る弓を持った女性を守る物だ。
「私のはある?」
「もちろんありますよ」
「当然」
「良かった」
リサに軍服関連と弓が2つに加えて短剣が与えられた。短剣は緊急時用だろう。弓は大弓で、弦に蜘蛛の糸が使われている。御蔭で勝手に属性付与までされるし、毒まで付与してくれるみたいだ。絵は木の上から弓を放つ魔女といった感じだ。
「私達のはあんまり変わってない」
「はい」
2人も軍服を来ているが、アナスタシアの装備が錫杖なのは変わらない。ただ、属性が付与されているようで、鳴らす毎に放電してバチバチと激しい音を響かせている。アセリアのは本当に変わらないと思ったが、手首の下から肘辺りまでブレードが装備されていた。足の裏は剣山になっているそうだ。そして、絵は杖と槌を持つ2人の魔女が釜を挟んで2人でいる姿だ。バックは木ではなく大きな炉だった。
「準備は完了です」
「どう?」
「そうだ。2人共、可愛いぞ」
「格好良いじゃないんですか……」
しゅんとするアセリアとアナスタシアだが、子供が無理に軍服を来ている感じしかせず、可愛いだ。
「似合っているし、いいじゃないか」
「ならいい」
「仕方有りません。それで納得してあげます」
それから、各自で服を褒め合ってから、PDAに届いた案内状に従って司令部がある場所に俺達、ヘクセンナハトは向かった。




