死神見習いレン
Earth Revolution Onlineというゲームがクライシス社から世界に配布された。これは仮想現実で多数の人々が遊ぶ事の出来る大規模なVRMMO(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)のゲームの名を冠しているが、世界や人類の命運を掛けたゲームだ。
そう、このゲーム、ERO(Earth Revolution Online)は世界の命運をかけている。その理由は2年前に飛来した隕石に擬態した金属生命体……Machine living thing(MIT)が世界中に侵略を開始したからだ。
人類対MITの戦いは終始MITの優勢だった。それはMITの特性によるものが大きい。MITは現地生物に侵入して融合する事で、現地生物を巨大化させ、その肉体を金属に変えてしまう。この時点で生半可な火器では有効打にならない。では、ミサイルやバズーカなどではどうか?と言われればそれもMITが発する特殊なフィールドによってその威力はほどんど無効化されてしまう。
戦艦の主砲クラスの威力でどうにかMITに侵食された蜂の一体を倒せるくらいなのだ。そう、相手の攻撃はこちらに効いて、こちらの攻撃は効かない。そんな相手とまともな戦いができるはずがない。核兵器ですら上位のMITには無効化されるのだ。
そう、人類はMITの膨大な物量とその高い戦闘能力によって手も足も出ずに半年も経たずにアフリカ大陸、南アメリカ大陸を奪われた。既にアフリカ大陸と南アメリカ大陸は奴らが支配する大陸となり、全ての生物がMITになっているらしい。何人かは飛行機や船などで逃げ延びる事が出来たそうだ。実際にアメリカが核ミサイルを放ったが、対した成果を上げられず、MITが跳梁跋扈する死の大地となっただけだ。
だが、残された人類も何もできなかった訳ではない。クライシス社が開発したシステムによって、九死に一生を得たのだ。クライシス社は今なお自国の領内で成長を続けて人類を滅ぼそうとするMITの対策として、異空間製造システムを使い、MITをその土地ごと別空間に閉じ込めた。それによって、日本、アメリカ、中国、韓国、イタリア、イギリスなど多数の国々が多数の民間人に被害が出たものの、なんとか耐える事に成功した。
それから、数ヶ月後。クライシス社は生き残った世界に向けて発表したのが、このままではMITが異空間から再びこちらに侵略してくるという事だった。彼らによると、最低でも6年から10年は持つらしいが、その時点で人類は異空間で増えに増えたMITによって滅びるらしい。さらにアフリカ大陸と南アメリカ大陸のMITもそれぐらいで攻めて来るとの事だった。それを聞いたた時、絶望した。だが、ちゃんと希望も残されていた。
クライシス社が対抗する手段として発表したそれはナノマシンテクノロジー。これは人類の総力を上げてMITを解析して手に入れた技術と魔結晶と呼ばれる高エネルギー結晶体を使って作られるナノマシン(正確には人工MITと呼べるべき物)を人体に取り入れて、肉体を強化しつつMITと同じ特者なフィールドを纏う事が出来る超人を作り出す事だった。そう、まさに生体兵器だ。そして、特殊なフィールドは特殊なフィールド同士をぶつける事によって相互干渉を起こして消滅する事が確認されているそうだ。そして何より、その魔結晶が生み出すエネルギーとナノマシンが持つ膨大な演算能力が人類の想像力と一緒になれば、その力で世界の法則を書き換え、魔法のような力を使う事が出来るという事だった。
フィールドが無効化されればMITに対して攻勢をかけられる。各国政府はクライシス社の手動の元、適正検査を行った。その結果、10歳くらいからならば適正があり、ナノマシンとの融合に耐え切れる事が判明された。
そして、クライシス社と政府は訓練場所として死なない戦場、Earth Revolution Onlineという物を開発した。Earth Revolution OnlineはMITを閉じ込めた亜空間を仮想空間とし、自身の分身たるアバターを作成し、その空間へと向かわせて、MITと戦わせたり、ナノマシンに経験を積ませる事の出来る場所だ。そう、つまり今度は我々人類が仮想空間限定とはいえ、死なない不滅の侵略者となるという事だ。
このゲームに必要な物は日本、アメリカ、中国、韓国、イタリア、イギリスなど多数の国々で同時に配布された。多言語に標準対応しているし、ログインするのに必要なベッドに簡単に取り付けられるドーム型のコンソールまで全て無料で配布された。つまり、プレイヤー(兵士)を獲得する為に手段(採算)を選んでいないのだ。ただ、問題が有るとすれば一人一キャラクターしか作れないという事だろう。もちろん、性別の変更は不可だ。
日本では食料生産をクライシス社が提供したプラント技術で賄わせ、国民に15歳以上の年齢になる者に対して、Earth Revolution Onlineにログインする権利を与えた。10歳以上15歳以下の者は保護者の許可制だ。そして、何より無職の物にはEarth Revolution Onlineをするようにと法律が定められた。もちろん、Earth Revolution Onlineのお金は現実でも同じ貨幣として使えるし、あちらの世界の物体をこちらの世界に持ち出す事も可能らしい。
そして、心配されるナノマシンだが……これはいい事尽くめだった。ナノマシンが成長すると、肉体の最適化を行うために老化遅延……アンチエイジングで寿命が増えたり、極めつけには若返ったりする事もあるらしい。しかも、MITの身体はレアメタル満載だ。つまり、MITはその全てが莫大な金になる。
当然、メリットが有ればデメリットが存在する。デメリットとしては来るべき日には、日本国の兵士としてMITと戦わされる事になるのだ。まあ、その時にはゲーム内と同じスペックになっているそうなので、少しは安心だ。
さて、無料で機械が貰え、魔法などを扱える超人になれる手段があるならばと、日本人の殆どのゲーマーはこのゲームに参加する事になるだろう。これは当然の事だ。放っておけば、世界は滅亡するのだし、何より妄想やゲーム知識を鍛えていたゲーマーは英雄になれるのだから。もちろん俺、東雲孝太もその一人だ。それに金がたんまりと貰えるのだ。まあ、家が裕福な俺は金に苦労はしていないし、問題無いがな。
それと、今まさにEarth Revolution Onlineに必要な機材を設置してもらっている。
「準備完了しました。それでは、ナノマシンの注入を開始しますので、腕を出してください」
「どうぞ」
俺は言われた通りに腕を差し出す。職員は腕を軽く揉みながら、アルコールを塗って、注射の準備を整える。
「最終確認になりますが、よろしいですね?」
「もちろんだ」
「では、音声登録及び最終確認を行いました。これ以降、クレームは受け付けませんのでご了承ください」
俺が頷くと注射器の針が刺されて、腕にチクッとしたが問題無い。しっかりと全て入れられた。
「はい、完了です。後はゲームをしていれば勝手に成長しますよ」
「わかった。ありがとう」
「それでは、人類の未来の為、ご自身の為に頑張ってください。我々、クライシス社は皆様が諦めない限り、サポートを続けさせて頂きます」
そう言って帰って行った。そして、ログインしようとしたら電話が掛かってきた。
「はい。こちら東雲孝太」
『私だ』
電話の相手は親父だった。クライシス社から技術提供を受けて、食料生産プラントを建設したり、ナノマシンを使った軍事兵器を開発している。
「何の用だ?」
『お前の様な塵芥でも、遺憾ながら私の息子で跡取りだ。Earth Revolution Onlineをやれ。あれは貴様のような塵芥でも使える奴に成長させる事が出来る』
この糞親父は本当にムカツクな。でも、こう言ってくるなら報酬がちゃんと用意されているはずだ。
「で、何くれんの?」
『芹香と相談したが、お前はこのままだったら独り身だろう。だから、私がお前が気に入ったと言っていた嫁を2人用意してやった。お前には勿体無いぐらい出来た娘だが、お前がこのチャンスすら物に出来ないのなら、結婚させた娘に子供を産ませて、そちらに継がせる。ゲームなら四六時中やっているお前だ。得意分野だろう? これがラストチャンスと思え』
うわ、マジで殺されそうだ。子供を作らなかったら、親父が無理矢理人工授精とかして孕ませそうだな。2人って事はどちらかを選べって事だよな。
「わかった。というか、ついさっきナノマシンを注入して、今からやろうとしている所だったんだけど」
『そうか。では、手配したのが無駄になったか。いや、お前のは個人用か。なら、構わんな。後ほど、特別な物が届く。それまでは今ある奴を使っておけ』
「わかった。それで、嫁なんだけど……気に入ったって言ってたの覚えてないんだけど……」
『どうでもいい事だ。お前は私が用意した者と結婚すればいい。既に婚姻届けも提出してあるはずだ。ああ、それと我が社で作っている武器もお前にテストしてもらうつもりだ。それと、テスターだけでなく、中で腕の良い奴が居たら手に入れろ。こちらでもスカウトを派遣する。では、私は仕事に戻る』
「了解。それじゃあ、またな」
仕事を押し付けられたが、特に問題無いだろ。むしろ、嫁が押しかけて来るのだが、それは放置だ。もし、変なのだったら拒否してやる。気に入ったとか覚えてないしな。まあ、拒否できないんだろうけど。まあ、とっととログインしますかね。
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【…………ようこそ、Earth Revolution Onlineの世界へ。私は皆様の分身を作成するお手伝いをさせて頂きますテミスと申します。どうぞよろしくお願い致します】
ベットに寝転んで、ゲームを開始すると真っ暗視界に女性の声と文字が表示された。
【それでは、プレイヤーの分身たるアバターを作成致します。身体のスキャンを行いますので、少々お待ちください。その間に1000ポイントの強化ポイントを割り振ってアバターを決定致します。決めるのは職業スキルパック、スキルです。オート設定にすると、ランダムで全ての職業から一つの職業が選ばれます。選ばれた職業に必須のスキルがスキルパックとして手に入ります。中には特殊職業が当たる場合もございます】
説明文が色々と脳内に浮かんできた。ステータスは体力、魔力、肉体、速度、頭脳、精神の6つだ。基礎のステータスはどれも10になっている。オート設定以外で選ぶ職業スキルパックは500ポイントで貰えるようだ。これさえ有れば最低限外れキャラにはならないという仕様だ。
体力……持久力の高さを表す。ナノマシンの自己修復能力に影響する。
魔力……魔力の高さを表す。魔力と魔力回復量を増やす。
肉体……身体能力の高さを表す。物理攻撃力、物理防御力が上昇する。
速度……素早さの高さを表す。主に移動速度や回避能力、物理攻撃力が上昇する。
頭脳……賢さの高さを表す。魔法の攻撃力、記憶力、分析能力などが上昇する。
精神……精神力の高さを表す。こちらは神経伝達能力などが上昇し、魔法防御力が上昇する。
ステータス自体はこんな感じだが、残念ながら弄れないようだ。まあ、基礎のナノマシンなら仕方無いだろう。
というか、親父のせいで時間もくった事だし、面倒だからランダムにしちまおう。
【ランダムに決定致しました。スキャンが終了致しましたので、肉体の作成に入らせて頂きます。なお、肉体はプレイヤーの肉体を元にステータスと合わせて作成いたします。初期設定で髪の長さは長くなっておりますので、ゲーム内でお好みのカットにしてください。よって、変更出来るのは目の色、髪の色だけとなっております。如何いたしますか?】
「黒髪で瞳は赤で」
【畏まりました。それでは名前を決定してください】
「レンで」
名前を決定すると、もう残りは僅かだ。
【全ての作業が完了いたしました。では、人類の未来の為、Earth Revolution Onlineの世界で勝利してください】
不吉なスキルの名前を言われながら、俺は新たな世界…………荒廃したEarth Revolution Onlineの世界へとダイブした。
目の前に映し出された映像は荒廃した地下施設の中のようだった。そんな部屋に設置された多数のベットの一つで目が覚めた。
「レン君、目が覚めたかい?」
ベットの上から声の方を見ると、そこには白衣を着て三角帽子を着けた女性が存在していた。
「はじめまして、私は大村萌衣。こちらの世界で君を目覚めさせた者の一人だ。現状と知識は頭に入っているはずだ。覚えていなかったらヘルプを参照してくれ」
彼女が言っている現状と知識はゲーム開始説明などだな。この辺はプレイヤーを楽しませる為に作っているんだろう。
「まぁ、簡単に言ってしまえば人類がピンチなんで、戦ってくれという事だ。それと、この地下施設は我々日本人に残された最初で最後の砦だ。ここが落とされれば日本人の敗北となり、日本は消滅し、引いては人類の敗北に繋がる……かもしれない。まぁ、かたっくるしい事は置いといてだ、この部屋から出て左にある階段を上り、まっすぐ行けば訓練所が有るから、そこに向かってくれ」
身体が勝手に起き上がって、言われた通りに進んで行く。どうやら、操作権はまだ与えられていないようだ。そして、訓練所は4つあった。俺はその中の一つに入る。中は広くて、他の人が魔法や剣など様々武器を使って練習している姿が見れた。
「新入りか…………俺は松丸勇也。ここの教官をしている。ここでは見ての通り、魔法やアーツが使えるようになるスフィアの使い方を教えている」
スフィアは魔法などの超常の力が詰まった結晶との事だ。
「君達がスフィアを使うには二通り有る。まず一つが体内にあるスフィアを収めて利用する事の出来るスフィアスロット。こちらは空いていないと思う。確認するのはステータスと思い浮かべればいい」
実際に思い浮かべてみる。
【ステータス】
体力:10
魔力:10
肉体:10
速度:10
頭脳:10
精神:10
【戦闘能力】
攻撃力:10
魔法攻撃力:10
速力:10
防御力:10+10
魔法防御力:10
【職業】
死神見習い
【技能スロット5】
暗黒魔法Ⅰ
大鎌修練Ⅰ
即死Ⅰ
索敵Ⅰ
魔法適正Ⅰ
【スフィアスロット1】
ステップⅠ
【装備】
初心者用迷彩服(防御力10 魔法防御0 耐久力10)
【ステータスポイント】
0
【所持金】
0Yen
確かにスロットが有る。1だけだが。というか、色々と変だぞ、おい。死神と即死ってなんだよ?
即死……相手の急所に命中させると一定確率で相手を即死させる。プレイヤーが急所を攻撃されると即死する。対象から受けるダメージが1000%増加する。ランク毎に100%ずつ減少する。
死神……万物の死を操る特殊職業。対象の急所が理解出来る。MITから受けるダメージが500%上昇。闇属性、暗黒属性以外の魔法、属性装備が使用不可。鎧、盾、大鎌を除く武器の装備不可。死神見習いへの就職条件は即死と暗黒魔法、大鎌修練が必要。※特殊職業はMITを引き寄せる効果を持ちます。
攻撃されたら死ぬんだな。敵も自分も……わかります。
「そして、もう一つは装備に付いているスフィアスロットだ。こちらも一つに付き一つセット出来る。さて、君達は手に入れたスフィアをスロットにセットして、使い続ける事でそのスフィアを成長させる事が出来る。そして、そのスフィアを交換したり、組み合わせたりといった事と、育てたスフィアはスキル(技能)に昇華する事が出来る。つまり、スキルが欲しければスフィアの熟練度を上げて取り込めという事だ」
スフィアの交換も出来るみたいだし、結構色々とできそうだな。
「逆に言えば、一度スキルにしてしまうと、一定以上のスキルとなってスキルスロットが埋まりきらない限りはスフィアとして取り出せないからな。それと体内のスロットは装備のスロットより成長しやすい。さて、ここまででチュートリアルは半分終わりだ。ここからは自分で肉体をコントロールしてくれ」
その言葉と同時に身体の自由が効きだした。
「さて、君の職業は……死神見習いだね。本来、魔法なら火、水、風、土の属性のスフィアをあげるのだが、アーツか便利なスフィアがいいかな。何がいい?」
「その前に自分の容姿が確認したい」
見てから確認した方が良いだろう。
「装備画面でみれる」
「ありがとう」
装備画面で確認すると、驚いた事にそこには美少女が写っていた。いや、美少年か?
一応、性別の所は男となっているし問題無い。身長は166cm、体重が51kg。瞳は赤で長く綺麗な黒髪が流れている。
リアルの身体はろくにまともな食事を取っていないから痩せていて血の気も悪いが、ちゃんと食事を取って運動して髪の毛を伸ばせばこんな感じになるのか。
これ髪を伸ばして食事するしかないんじゃ…………まあ、いいや。取りあえず、さっさと選ぼう。
「オススメは?」
「アーツなら色々とあるが、君にはあまり必要ないだろう。索敵があるならマッピングがオススメかな。かなり詳しい情報が手に入るよ」
「じゃあ、それで」
取りあえず、マッピングを選択した。ここは、アレだ。やっておこう。死神見習いレン、始まります。きっと多分。