ギルドハウスにて①
ギルドハウスに入った俺達の目に飛び込んできたのは木で統一されたウッドハウスの様な素晴らしい場所だ。1階はお店の予定通りにカウンターなどがあるし、2階までの吹き抜けた天井には箒が吊るされたり、かぼちゃで作られたジャック・オー・ランタンも飾られている。店なので、展示ケースや品物を飾るテーブルも置かれており、いい感じの店だ。
「ここが親父に委託する店だ。まあ、業者が入るから、アセリア達が作れない物も売っていると思う」
「分かりました」
「上は喫茶店だな」
2階へは木に添うように広めの曲がった階段があって、2階へと進む。そこは本当に酒場といった感じだ。この下は倉庫になっている。
「基本的にここでも食事は出来る。3割引でな」
「ステージもあるんですね」
「ああ。イヴの歌にも期待しよう」
「はい」
そして、酒場の奥にある扉に触れると、鍵が開く。そこを潜って少し進むと木製の手すりの付いた昇降機が存在する。
「さっきの扉は許可が出ている人しか入れないからな。許可はギルドメンバーと一定以上の顧客のみだな」
「差別化?」
「そうだ。売上に貢献した人にはアセリア達のオーダーメイド品などを売ってあげようかと思ってる。駄目か?」
「私は構いませんよ。どうせなら、イヴさんに付与してもらいましょう」
「ごめんなさい……まだ、永続付与はできないの」
「いえ、気にしないでください」
「まあ、私もそれでいい。お姉ちゃん達もいつまでも謝ってないで、いく」
「「はい」」
木で作られた昇降機……ぶっちゃけエレベーターに乗って、4階へと行く。
「3階は店の事務所と俺達も使える倉庫だ。もちろん、別けてあるから間違わないように。そして、4階からが俺達専用の場所だ」
4階の酒場へと案内する。ここにはダーツやビリヤード台などが設置されている。ちなみに人はいない。
「ギルドクエストも受領出来る施設になっている。ここは外部の人間を呼んでも問題無い所だな。先程言ったお客もここまではあげる。信頼できる友達とかなら、事前申請すれば上の階で泊まって貰う事もできる。ちなみに厨房とか好きに使えるから、食堂みたいな感じだな。人を雇うかは決まってない。基本的に飲み物ぐらいか。まあ、皆で集まって遊ぶ場所だと思えばいい。基本的に身内の様な人しかいないしな」
2人は頷いて、イヴは調理器具などを興味深そうに見ている。ひと段落したら、5階を飛ばして6階へと案内する。
「5階は訓練所だから、後で各自行ってくれ。それと、次はアセリアとアナスタシアのお待ちかねの場所だ」
工房施設へと案内する。1フロアを丸々工房施設にしているので、結構広い。
「取りあえずだが、錬金工房と鍛冶工房、裁縫工房を用意した。ここは3人の好きにしてくれ。といっても、まだ炉や暖炉を設置してあるぐらいだが」
「本当だね」
「つまり、購入資金が足りなかった?」
「そういう事。まあ、店が開けばお金は入って来るし、大丈夫だろ」
「わかった」
生産系は本当に施設投資が馬鹿にならないからな。量産面では会社が勝つが、性能面では個人が勝つ。おそらく、そうなる。
「まあ、しばらくは使いませんね」
「そうだね。お金を用意」
「じゃあ、次に行くぞ」
「うん」「はい」
エレベーターに乗って、10階を目指す。
「7階から8階までが一般の居住区。ここは客室や友達が泊まりに来た時、ギルドメンバーが増えた時に使う。基本的に4LDKの部屋が多数ある。まあ、2人用だな」
「違いますからね!」
「そう?」
「普通じゃないんですか?」
「この人達は常識が……何でも無いです」
アセリアが何か言おうとしたが、無視して続きを話す。
「9階はタルタルとガレナンガ、サリム、アセリアが住むはずだった。1フロアを4つに別けた家だな」
「さっきのより広いのです! 絶対無理です。維持管理とか、不可能なのです……」
「まあ、そういう訳で、10階が1フロア丸々俺達の家だ」
「おー」
「屋上はどうなっていますか?」
「プールと露天風呂だな。まあ、9階と10階にはテラスに小さな露天風呂が設置されているが、景色を楽しみたいなら屋上だな。屋上は男女別にしてあるが、取り払う事もできる。その場合、混浴か男子専用、女子専用にするから、スケジュールを確認するように」
「分かりました」
話していると、着いたので外に出ると、そこは自然な木で出来た柵がある高い木の上部。円を描くようにトンネルの様な道が続いているが、途中で木によって封鎖されている。柵があるので理解できるだろうが、外なので風が入り込んでくるように見えるが、実は透明なガラスで覆っている。もちろん、外す事も出来る。そんな通路に一つある扉を開けると、そこが我が家だ。
「ここが玄関だ。日本式だから、靴は脱ぐように」
「「「はい」」」
それから、中を見て回る。
「お風呂は檜で広いですね。露天風呂もあるのでいい感じです」
「ソファもテレビもある」
「パソコンはPDAが有れば要りませんしね」
「調理場も問題無いですね。家としては十分です」
各自が好き勝手に見て回る。
「あっ、あのっ、ベットが……大きいの一つしかないんですけど……」
「ああ、アセリアが住む予定なかったからな。俺とアナスタシア、イヴは一緒に寝るから問題無いし」
「ベットをか、買わないと……」
「そうだな。でも、しばらくは買えないだろうから、ベットでログアウトすればいい」
「そうですね。ログアウトすれば問題ありませんでした」
「あと、復活設定をここに出来る蘇生ポットも買ってあるから、登録しろよ」
「はい。皆さんに伝えて来ますね」
それから、少しすれば皆が調べ終わったようで、各自自分の部屋を作る。
「紅茶とコーヒーが入りました。どうぞ」
「ありがとう」「ありがとうございます」「ん」
イヴの入れたコーヒーを飲みながら、紅茶を飲んでいるアセリアとアナスタシアを見る。アナスタシアはちまちま飲みながら、編み物をしていて、アセリアは両手で抱えてペロペロと舌で舐めながら飲んでいる。その姿は可愛い。
「そういえば、テレビが有りましたね」
「見るか」
付けると、簡単なモンスター情報や値段、宣伝、告知などが流れ出した。それによると、討伐報酬が個人からパーティーに変更された事が流れていた。後は100万Yenでシトリーのデータが配布されだしたという事だな。
「これって、100ポイントしか増えないんですよね?」
「そうだぞ。本来、討伐参加者で300ポイントが配布される。後は100万Yenを支払えばなんとか400ポイントか。どちらにしろ、500には足りないな」
「という事は、交換材料になりますね」
「なる。それも他の魔神データと」
「まあ、誰が持ってるか知らないけどな。討伐されたという情報が有れば、嬉しいがな」
「あっ、でも、シトリーに関しては、完全データを持っているのはレンさんだってバレてるみたいですよ」
「ん?」
アセリアの方を見ると、PDAを操作してこないだ実装された掲示板を見ているようだった。
「ほら、シトリーは死神の人が持っているって、他のデータ持ちが言ってますね」
「本当だ」
アナスタシアも確認したようで、俺もアセリアの顔の横から覗き込む。
「あうっ」
真っ赤になったアセリアを置いて、掲示板を見ると、そこでは暴露されていた。討伐者が俺だという事をあの時居たメンツにだ。まあ、個人を特定しやすいから仕方無いな。
「どうするんですか?」
「ふむ。アセリア、書き込めるか?」
「はっ、はい、でっ、できます……」
「じゃあ、別の魔神データ又はそれに並ぶデータとなら交換すると書いてくれ」
「ひゃい」
アセリアがPDAを操作して、打ち込んでくれた。その後、スレが流れて行くが、やはり他の魔神データを持つ人はいない。ガセは結構ありそうだが。
「っと、そろそろ飯の時間か」
「そうですね、こちらで食べても現実で食べても問題無いんですよね……どうしますか?」
身体の維持はナノマシンがしてくれるので、どちらで食事を取っても、問題無い。ナノマシンのエネルギーは俺の場合、コクーンを通して送られているからな。
「アセリアはどうする?」
「えっと、今日はお母さんがいないので、レトルトになります。なので、できれば一緒がいいです」
「じゃあ、こっちで作りますね。食材は……」
「4階の冷蔵庫に買っておいたのがあるはずだぞ。パーティーをするつもりだったから」
「えっと……それじゃあ、皆さんを呼びましょうか。私は直ぐに作りに向かいますね」
イヴが4階へと向かったので、俺はガレナンガとサリム、タルタルに連絡する。ガレナンガとタルタルはOKで、サリムは残念ながら無理だそうだ。こちらは予想通りなので、イヴにパーティーはまた後日という事にお願いしておいた。イヴから、一時間後に来るように言われたので、アセリアは鍛冶を、アナスタシアは裁縫をしていく。俺は訓練所でガレナンガと共に鍛錬を行う。タルタルはイヴを手伝いに行ってくれたらしい。その後、2人の料理……ピザやパスタを堪能した。タルタルはピザが得意らしい。逆にそれ以外は苦手のようで、イヴに教えてとか言っていた。




