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もう……何も言うまい(訳:本当に申し訳ありません)
最新のマゾゲーにハマりすぎたり、バイトを始めたせいで精神的にも肉体的にもボロボロなのが主な遅れた原因(という名の言い訳)です。
今回はいつもより短めです、ほんとはもっと長く書くつもりだったんだけどなぁ……
昼休み、本来なら他のクラスへ行っていたり、外へ行っている生徒がいる時間。
だが、今日はクラスの40人全員がこの教室内で昼休みを過ごしていた。
そこでなにをしているのかというと──
「レアドロップ素材出たんだが買うか?」
「間違えてリザードマン地帯入っちゃってさぁ……」
「昨日はデスペナで殆ど成果が無くなったな」
当然、BSOの話だ。
まったく昼飯時まで話さなくても、とは思うんだが興味のある話も多くて俺も会話に参加してしまっているのが現状だ。
颯天に聞いてみたところ、このクラスには戦闘職が35人、生産職が5人いるとのこと。
そして生産者5人は全員違う分野の生産をしていて、このクラス全員の生産や装備の強化、アイテムの補給などを担当しているらしい。
そして、会話の中で得た情報に、俺がエンハンサーウィスプに受けた"威嚇攻撃"についての情報があった。
"威嚇攻撃"、俺と颯天がエンハンサーウィスプと戦っていた時、オーラが増大し、悪魔の顔を作ったあの技だ。
対象のプレイヤーを威嚇し、恐怖で動きを止める──というだけだとよくわからないが、実際は対象プレイヤーのゲームに対する脳波を弱め、行動をほんの少しだけ出来なくする、というものらしい。
つまり本当に恐怖で動けなくしてる訳ではないらしい……かなり怖かったけど。
脳波を弱めて、という特性上、集中していたり気分が高揚していたりすると効果が薄くなる、なんていう独特の特徴もあるらしい。
「どうした璃空、考え事か?」
「あ、ううん、なんでもない」
頭の中で情報を整理してるうちに無意識に黙りこんでしまってたらしい。
複数のことに意識を向けるのは苦手だ。
「そんなボーっとしてると弁当取られるぞ……っと」
「あっ、俺の玉子焼き!」
俺の気にしてない間に弁当から玉子焼きを素早く取っていく颯天。
「久々に璃空お手製の味を、ってな、なかなかだったぞ」
「久々って……先週お前ん家で作ったばっかだろ」
そう俺が言った途端、颯天にクラスの至るところから視線と敵意が向けられた。
なんというかこのクラスは妙なところだけ団結力があるな。
「はぁ……俺の姉ちゃんと料理勝負するため、だろ」
颯天が呆れ気味に言うと視線はすぐ無くなる、いや一部はまだ残ってるような気もするが。
俺と風乃さんは、今までに何度か料理対決をしていて、その時審査員としていた颯天を含む何人かに手料理を振る舞ったことがある。
「代わりに颯天の玉子焼き一つもらうからな」
そう言い、返事を聞く前に颯天の弁当箱から玉子焼きを一つ抜き取り、口に放り込む。
ほんのりとした甘さと、ふんわりした食感の風乃さん作玉子焼き。
形も綺麗に整えられたし、焦げ目なんて一切無かった。
「うぐぐ……やっぱ風乃さんの料理は美味いな」
俺も料理にはそこそこ自信があるほうだが、風乃さんとの料理対決では未だに一度も勝てたことがない。
もしかしたら俺は少し負けず嫌いなのかもしれない、そんな気もする。
「……私も一つずつもらう」
「「あ!」」
いつの間にか俺たちの弁当箱からそれぞれ玉子焼きを一つずつ抜き取っていた来音。
正直、近くにいることすら全く気付いていなかった。
来音は気配を隠すのが上手いのか、よく俺たち相手にこっそり近付いては、なにも言わず後ろを着いてきてたりする。
普通にしてる分には他の人と同じように感じ取れるんだが。
モグモグと二つの玉子焼きをそれぞれじっくり味わう来音。
「……確かに颯天の方に入ってた玉子焼きは美味しい」
その言葉を聞いて、やっぱりか、と思ってしまう。
「でも……璃空の玉子焼きもとても美味しい……だけど」
「?」
なにか、来音は違いに気づいたのか……。
そりゃあ、元々味付けとか作り方とかの違いはあるが、来音はそういうところ以外にも気づいてるのかもしれない。
「璃空の玉子焼きには……"思い"が足りない」
「お、思い!?」
来音はまさか玉子焼きから心理的な面まで読み取れるのか……!?
「颯天のお姉さんの玉子焼きには、思いがある。だから丁寧で、繊細……だけど璃空は自分が食べるだけだから、って思ってるから雑なところがある……」
「………」
思い……か。
確かに別に他の人のために作るわけじゃないから、って思ってるのは当たっているかもしれない。
「とは言っても自分で食べる料理に心をこめるってのもなぁ……」
「だったら他の人の為に作ってみたら……?颯天とか、私とか」
「はいはい、気が向いたら作るからそんな期待した目で見るな」
いつもの無表情のままだが、なんとなくキラキラした目をした来音。
自分でも気づいたのか咄嗟に顔を伏せ、椅子に座ったままスルスルと素早く後ろに下がっていった。
ある意味凄いことしてるな、おい。
「璃空の本気の玉子焼き、期待して待ってるからな」
わかったわかった、と俺の返事は適当だったが本当に一回作ってみるのも悪くないかな、なんて思い始めていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「全員、BSOやりすぎて学校来ないなんてことがないように!じゃあ、礼!」
「「「さようなら~」」」
長巻先生のいつも通りの熱い終礼が終わり、真昼よりは少し涼しくなった放課後。
未だに仲間と語り合ってる奴もいれば、ちゃちゃっとフレンドIDを交換して帰っていく奴もいる。
フレンドIDと言えば、あの朝の一騒動の後、女子達からもフレンドIDを交換しておいた。
つまり一応クラス全員のフレンドIDは貰ってあることになる。
「颯天、来音、帰るぞ~」
家が隣の颯天は当然として、来音も同じ中学校なだけあってそこそこ家が近い。
俺達の登下校は歩き、帰る方向が同じ方向になるのは当然だろう。
「わりぃ、ちょいとクラスの男子相手にして帰るから先行ってていいぞ」
「ん、了解、ところで来音どこ行った?」
やっぱり消える来音、クラス全体を見回すが本気で見当たらない。
「……ここにいる」
「お前は毎度毎度後ろから出てくんな、っての」
俺の後ろからいきなり現れる来音。
びっくりして声をあげそうになるのを抑えながら、驚かせたお返しにデコピンを強めに一発しておく。
「……痛い」
「いきなり出てくるお前が悪い」
「わざとじゃないのに……」
来音の呟きは適当に聞かない振りで受け流す。
実際わざとじゃないのはよくわかってるがな。
しかし、来音が無言で睨んでくるのはいいとして、何故クラスのあらゆる所から微笑ましいものを見るような視線が送られてくるんだ。
「……それは璃空が可愛いから」
「人の心を読むな!そして可愛い言うな!」
「…………痛い」
驚異の2連発デコピン、これは痛い。
「はぁ……帰るぞ」
「うん、帰る……」
これが俺達の日常、代わり映えしない日常だ。
次は早めに更新できれば、いいなぁ……
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