第三話 黒き鎧は叩き割られた
「……ここは………何処……?」
軽く寝ぼけている、純白ドレスの少女は頭をフルフル揺らす。
慣性も手伝って、後頭部に結われたポニーテールも踊るように揺れた。
「……………」
あんぐりと口を開けたまま、微動だにしないサリナ。
その視線の先には、彼女の顔。
(え……!?
この娘ってもしかして…!?)
そしてその下、首にぶら下がるアクセサリーに目を向ける。
それはロケット。
飾り付けられた高貴な装飾は、粛然たる王家の証。
恐らくサリナにはそこまで見えてる筈もないだろうが……
そのロケットの縁の場所には、しっかりと『MARY ALBARD』と言うアルバード家の氏を持つ名前が刻印されていた。
そう。
サリナが言いたかったのは。
(…アルバード王家第三王女『メアリー・アルバード』その人じゃない!?
この前テレビで見たことあるわよ…!?)
ちなみにその時はポニーテールでなくロングヘアーだったため、すぐには彼女と分からなかった。
サリナがそんな事を考えている内に、ついにメアリー殿下が意識を覚醒させたらしい。
いかにも大人しそうな童顔に、ポケーっとした表情を浮かばせ。
目の藍色の瞳を辺りに右往左往させる。
始めに真正面のサリナへ。
次に瓦礫に埋もれた旧ストリーム家家屋へ。
そして最後に自分の乗っている魔石に踏み潰された、ジュエルの姿を確認して。
「……はわわわわぁ!?
な、何がどうしてこうなってるの!?
ねぇそこの人大丈夫ですかっ!?」
…外見に似合わないテンパった声をあげて、宝石の上からジュエルを揺するのであった。
「……!……!?………!!?」
魔石の下でゆさり揺らされ、声に成らない悲鳴をあげるジュエルを、急いで救出しようとする。
「ま、まずはその魔石の上からどいて!?
死ぬから!!ジュエルホントに死ぬから!!」
…まず、彼女が本物の王女かどうかは置いといて、ジュエルの安全を確保する方が先のようだ。
―§=☆=§―
「…アンタ空飛べたりしないの?」
移動して、サリナ宅。
リアカーにエメラルドの魔石を、両手にダイヤモンドの魔石を抱えてサリナは自宅の居間へとこれを運送していた。
『むう…まだこの媒体には慣れていなくてな。
自由に魔力を解き放てるようになるまで、後暫く掛かりそうだ』
『私も同じですわね』
エメラルドに呼応するように、白いダイヤモンドもそう答える。
ダイヤモンドはメアリーが乗ってきた白色の魔石であり、これも暫くしてエメラルドと同じように喋る事ができる事が発覚した。
『運ぶのが遅いですわ!!
もっとテキパキ動きなさいな!!』
因みに凄い高飛車な性格だった。
「うっさいわね…
地面に叩きつけて砕くわよ」
『なんて無礼な言葉使い!!
わざわざ私を運ばしてあげてるのよ!?
その汚らわしい庶民の手で運べる事を光栄に思いなさいな!!』
「おっと、汚らわしい庶民の手のせいで滑った」
サリナはダイヤモンドを床に叩きつけ、バウンドした所を更に思いっきり蹴り飛ばした。
明らかに故意の出来事だとか、分かりきっている事を彼女に言ってはいけない。
『きゃあああああああ!?
な、何をしなさささるの!?』
「ちょっと手が滑ったのよ。
許しなさい」
言葉を嚼んだ事は華麗にスルーするサリナ。
『両手を上げて勢いよく下に振り下ろしてましたわよねぇ!?』
「立ち幅跳びの練習してたのよ」
『今ここで行う事じゃないですわよねぇ!?』
「あ、ついたわよ。
エメラルドの方、落ちないように注意して。
位置を調節する事は出来る?」
『ムキー―――――!!
ここまで虚仮にされたのは生まれてこのかた1464年ぶりですわっ!!』
「あーはいはい、そうですか。
で、大丈夫なの?」
『恐らく大丈夫だろう。
微かに操れる魔力で腕を形成すればなんとか』
「そう。じゃ、落ちないように気をつけなさい」
そこまで言うとサリナはリアカーを、ジュエルの横たわるソファーへ軽く蹴飛ばす。
「おっとっと…
はいキャッチ」
『む、すまぬな王女殿』
それを先に居間で待機していたメアリーが受け止め、リアカーの上に転がっている魔石を手に取り、ソファーに乗せた。
『ふん、まさか私もあんな物の上に乗せるなんて言い出さないでしょうね?』
「当たり前よ。
アンタはシャンデリアの代わりとして天井に吊しておくわ」
『なんでそうなるんですの!?』
「映えるもの」
『御免被りますわ!!』
「あ、王女様、そこら辺に代用の紐糸おいてなかった?」
「ん、これの事?」
メアリーの手には細長く白い一本の紐糸が。
シャンデリアをぶら下げているものと同タイプの物らしい。
『冗談じゃなかったんですの!?』
「えーと、どこに括りつければいいのかしら?」
『話を聞きなさい!!』
「うーん…やっぱりぐるぐる巻きにして天井にぶら下げるのが1番じゃない?」
『メアリー、貴女も何を言っているんですの!?
助けなさいよ、貴女の加護魔石ですのよ、私は―――』
途端、グラッと地面が揺れた。
「…敵襲か?」
今の揺れで目が覚めたのか、ジュエルが目を擦りながらサリナとメアリーの二人を交互に見る。
「…うおっ!?
なんで第三王女がこんなとこいるをだよ!?」
「今そんな事話す場合じゃない事ぐらい分かるでしょうが!!」
その寝ぼけ面を矯正する為、サリナはジュエルの顔面に拳を叩きつけた。
玄関の方に吹き飛ぶジュエル。
『…仲間を殴っている場合でもないと思うが…』
エメラルドがそう小さく呟くが、その声が届くはずもない。
そしてサリナが向かった玄関先から、黒い鎧を纏った謎の男が。
彼は居間でへたりこむドレスの少女を指指し、大声で――
「――いたぞ!!メアリー・アルバード王女――」
「帰れ不法侵入者ぁぁぁぁぁあああああああっ!!!」
「おぶえぇッ!?」
――叫ぼうとした。
彼は虚しく空を放物線上に飛んでいく。
サリナが殴った個所に鎧はもうない。
粉々に砕け散ったからだ。
そしてそれを受けて気絶するだけのジュエルは一体なんなのであろう。
『…貴女、容赦ないですわね…』
「あーもう外が騒がしいわね!!
一体何が起こってるのよ!!」
「ちょ、分かったから引っ張るな、引っ張るなって……!!」
二人が出ていくのを呆然としながら見るメアリー。
(…黒い鎧が、私を捜しにここまで来ている?
まさか…あいつらは…)
胸の奥では、言いようのない不安に心臓が今まで以上に波打っていた。




