編入試験は死に物狂い!?
友達にこの前、この小説を読ませたら設定が甘いと言われました。
俺たちの通う学校は近衛学園という国立の学校で、小中高が繋がっている。
普通の人間から、亜人、悪魔、精霊など、さまざまな生徒が通っている。
学科は、『経済学科』『看護学科』『技能学科』があり、『技能学科』には『体術コース』『銃術コース』その他に多数のコースに分かれている。
校訓は『意志を通したければ力を示せ』と、あるように、自分の力が直接成績に反映される。
なので、月に一度は、自分の能力別に試験があるのだ。
そして、編入試験には『普通試験』の他に『能力試験』がある。
紘とエリスは、紗幸と別れたあとに、園長室へと向かった。
エリスに『能力試験』を受けさせる為にだ。ノックをしてから返事を待たずに入る。
そこには、綺麗な灰色に近い白にかんざしを刺した髪の美女が座っていた。
どこか、のほほぉーんとしていて掴み所がない人だ。
だが、当然ながら教師などではなく、この部屋の主、近衛刀子学園長さまだ。
見た目は若いのだが、長寿族だからエリス同様にかなりの歳らしいが、詳しくは不明。
そもそも、このお方に歳を聞くような事をしたら、その瞬間にそいつは塵と化す。
なんせ、トップクラスの戦闘力を持つ『戦闘狂』の家系だからだ。
この見た目からは、とても想像できないが、この前の新入生歓迎会では100M先の鋼板(厚さ15CM)を笑顔で真っ二つにしていた。
その強さを感じたのか、エリスの手はワンピースの右ポケット(術式デバイス)に延びていた。
そんな彼女の前で、当然ながら紘はガチガチになっていた。
そんな彼を見て刀子は優しく微笑む。
「あらあら、紘さん。そんなに固くならなくてもよろしいのに」
その言葉は紘をほんわかさせるが、緊張はまだとれない。
「は、はひぃ!」
ふふっ、と笑って向かいの椅子に座るように促した。
それに従って、腰を降ろすと、イスは結構フカフカだった。
「はい、では、そちらの方がリアちゃんが言っていた入学の希望者ですか・・・・」
「あ、はいそうです」
刀子が言う、リアというのは、紘の母親の愛称だ。
ほら、挨拶!というようにエリスの肩をつついたが、すごく仏頂面で刀子を睨んでいる。
「おい、私の身体に巻き付いた鬱陶しい"コレ"はなんだ?」
「は?」
何をいきなり言い出すのかとエリスを見ると彼女の身体のいたる所に青白い糸が絡み付いていた。
「なんだよこれ!?」
紘は、糸を掴んで引っ張る。
しかし、ゴムのような伸縮性があるのに千切れない。
一方、刀子は笑顔を絶やさずに口を開いた。
「いえ、ただ私も親御さんからお子様を預かる身なので"招かれざる者"をおいそれと侵入させるわけにはいかないもので」
するとエリスは、冷ややかな表情を浮かべて嘲笑した。
「クハハ、"招かれざる者"、ねぇ・・・・。
それなら-----」
エリスの姿が消えてしまった。
否、実際に消えてしまったわけではない。速すぎて脳の反応速度が追いつかない故に、そう見えただけだ。
エリスは刀子の背後に回り込みながら術式デバイスを操作する。すると突然、右手が赤く光り出して陽炎を浮かび上がらせた。
完全に背後につくと、脚に衝撃吸収の魔法陣が展開する。それによってエリスはスリップすることなく、かつ怪我することなく止まることが出来るのだ。
さっきより輝く強さを増した右手を振りかぶった。
「----こんなことをされても文句は言えんだろ?」
振り抜いた瞬間に爆発して刀子の身体が弾け飛ぶ。
「ふぅ」
部屋中を砂と血の混ざった粉塵が埋め尽くした。
「お、おい、エリス!なにやってんだよ!?」
なぜエリスがあんなことをしたのか解らない紘は刀子がいた場所を見た。
そこらじゅうに肉片が飛び散って鉄臭さが充満している。
エリスはそれに答えず、窓を見てから、紘の手を掴んで飛び出す。
「う、うあぁぁぁああ!?」
紘は叫び声にドップラー効果を効かせながら宙を舞う。
肉片が飛び散る室内にひとりの女が立っていた。
鋭い目つきをして、目の下から顎にかけて傷の跡があった。
名を志乃と言い、刀子の補佐をしている。
「まさか、『戒めの糸』を素手で切り落とすとは・・・・」
言葉とは別に抑揚の無い声音で床を見た。
そこには、エリスを縛り付けていた青白い糸、『戒めの糸』が千切れ落ちている。
本来ならば、これに縛られると身動きが出来ないはずだ。
だが、何ともないように歩いて、しかも術式も使わないで切るなんて感嘆を通り越して呆れる。
床にあるソレに触ると、瞬く間に粉状になって風に舞ってしまった。
「さすが、『破壊者』と呼ばれるだけはありますね・・・・」
志乃は背後に突然人の気配を感じたが、振り向かない。
「あら?彼女は、そんな名で呼ばれているの?」
のほほぉーんとした調子の声の主、"刀子"は首を傾げた。
それを見た志乃は心の中で眉を訝しんだ。
(まったく、この人は・・・・。
早朝にいきなり「豚肉を買ってこい」と言われて何かと思えば、肉で自分のレプリカを造って操るとは)
そうなのだ。
刀子はわざわざ志乃に大量の豚肉を買いにいかせて、魔術で自分そっくりの人形を造ったのだ。しゃがんで、自分そっくりのレプリカの肉片をこねくり回していた刀子は、顔を上げて微笑む。
「やあねぇ、そんな嫌そうな顔をしないでよ。ちょっとした遊び心じゃない」
「刀子様、相変わらず破綻した性格をしていますね」
ふざけた調子の刀子をバッサリと斬り捨てる。
だが、刀子は顔を赤らめながら胸を押さえてグッ、と親指を立てた。
「ハアハア・・・・グッドよ!志乃。とってもベリーグッドよ!!」
爽やかな笑みを浮かべてカモン系のジェスチャーをしている変態を無視して話を戻す。
「呼び名の発端はいろいろあります。
エリスは中世、魔女狩りが始まる頃から盛んに行動し始めました」
「発情期!?発情期なのね!」と騒いでいるが、反応すると喜ぶから放置する。
「その時に、発生したのが・・・・これです----」
備え付けのパソコンからファイルを開く。
そこには・・・・
「『聖ジョージ大聖堂、一夜で崩壊』?これって確か・・・・」
いきなり刀子は、真剣な顔になって首を傾げる。
新聞の切り抜きであろう。炎に包まれた写真と共に被害状況などが大まかに書かれていた。
「はい、一般的にはテロ組織によるものだと言われていますが、彼女がしたことです」
ですが
「これを知っているのは裏の人間だけです。
なので、後に起きた『300人殺しのエリス』などという通り名が広まりました。まだまだ調べれば山ほどこういった事件が出てきますよ」
襲撃された場所の惨状などから裏の人々は『破壊者』と呼ぶようになる。
刀子は志乃の話を頷きながら聞いていると、いきなり手を挙げた。
「せんせー、エリスさんは一度封印されたはずですよねぇ?」
「誰が先生ですか!
まあ、データによればそのはずですが見事に解けてますね」
当時は政府で暗殺部隊などを創設していたが、まったく役に立たなかった。
だが、1350年前にエリスの封印をやっと成功させた。
なんと、それは一般人が成し遂げたのだ。
それにはお偉いさんもびっくりしていた。しかし、封印が劣化したのか、誰かが封印を解いたのかは判らないがしがらみもなく動いていた。
「私にも判りませんが、封印が解かれているのは確かです」
お偉いさんには知られてないでしょうが、と付け加えて窓を見る。
もし、知られたらとんでもない事になります。
あの青空は殲滅部隊などで真っ黒ですね。
「それより、刀子様。本当に、彼女たちにアレをするのですか?」
窓から刀子に視線を戻す。
すると、刀子は志乃に、ニヤリと口の端を持ち上げた表情を見せる。
「当然じゃない」
いたずらを思い付いた子供のような笑顔を向けてくる。
辞職しようかな、と志乃は本気で考えた。
「・・・・・・・・という訳だから、私が吹っ飛ばしたのはレプリカだ」
日光を避けるように校舎の陰を走りながらエリスの話を聞いて紘は、ガクリと肩を落とす。
「それならそうと言ってくれよ。あまりのショックで死にそうだ」
ほっとする反面、あの人がそう簡単に死なないと改めて感じた。
「そういえば----」
しばらく走っているとエリスは、唐突に切り出した。
「あの女に「面白い事をするので楽しみにしていてください」と言われたが、ヒロ、あれは何の事か判るか?」
「さあ?判らん」
判らないが、なぜか紘は、ものすごく嫌な予感がしていた。
それは的中することになる。耳をつんざくように警報が鳴り響いた。
反射的に反応した紘はスピーカーを睨む。
「おいおい、何でこんな時に警報がなるんだよ!?」
紘の問に答えるように放送が流れる。
『校舎内に不審人物が侵入してきました。先生方は直ちに持ち場について下さい。
尚、その侵入者は高等部1年の須川紘さんと共に行動している模様です。
日頃の怨みを晴らすために、徹底的に始末するようにお願いします』
後半は思いっきり私情が入っていた。
「だとよ、どうする?」
「とんだ、熱き友情たなぁ〜おい!」
男泣きをしながら全力で走り、光の線が背後に流れた。
校舎と校舎の間をひたすらに走り続けると足元で、何かが切れた。
「やば!!」
咄嗟に立ち止まってから後ろのエリスを、タックルするように抱きかかえてその場を離れる。
すると、紘が立っていた場所から剣が突き出される。
振り返るように回転しながら止まると、地面から西洋の鎧にゴテゴテと鉄板をくっつけたようなもの、機動兵士が湧き出てくる。
戦闘用のAIが搭載されており、強固な装甲が特徴。
そのゴツゴツとした手には、黒の巨大なフォルムをした・・・・。
「M134ガトリング機関銃だと!?」
それは、7.62ミリ口径の六銃身ガトリング式機関銃で、毎秒五十発以上のペースで撃つ化け物だ。
紘は驚愕の声を挙げて回れ右をして逃げると同時に、一斉に火を吹いた。
それを抱えられながら見ていたエリスは、紘の腕の中から飛び降りて鉛の雨に両手を翳した。
「熱いのは好きじゃないんでね」
手のひらを中心として淡い赤の幕が展開されると同時に弾が接触する。
「跳弾って知ってるか?」
若干のタイムラグの後に全ての弾が跳ね返り銃口に向かってきれいに吸い込まれて中規模な爆発を幾つか、つくる。
ただ跳ね返るだけではこうはならない。当たる場所と向きを計算して別々に幕の形を変化させていたのだ。
しかも加速の術式のおまけ付きだ。
それを見ながら満足そうに頷く。
「即興だったから大したことはないと思ったが、そうではなかったな」
幾つか表示枠を展開させて文字盤で操作する。
その間に砂塵が薄れていき、機動兵士が突撃してくる。脚に付いたモーターの駆動音と人工筋肉が軋む音をさせながら手の甲から突き出す剣を横凪に振るわせる。
それを後ろに少し下がるだけで避ける。
目の前を通り過ぎると同時にボディに拳を叩き込んだ。
魔力を込めて音速まで速くした拳は弾丸のように装甲を貫通させた。
「な!あ、あの機動兵士を一撃で!?」
紘は、驚愕すると同時に目の前にいる機動兵士の頭を蹴りで粉砕する。
ぐらりと傾く機動兵士に飛びついて頭があった場所に手を突っ込んだ。
その間に機動兵士は乗っかっている邪魔者をどかそうと手を動かした。
「おわぁっ!」
慌てて紘はコードを引きずり出して後ろに跳ぶ。
すれ違いに機動兵士の手が掠めて冷や汗をかく。
紘を掴み損ねたが、代わりに自身のコードを掴んで引きちぎった。
ブウゥン、という気が抜けるような音をさせて前のめりに倒れる。
「ふぅっ、所詮は機械、か。闘うだけの薄っぺらい知能しかなかったのな」
ひと息ついてから機動兵士が出てきた場所を見るが、他に出てくる気配は無い。
「そうだ!エリスは・・・・・・・・って、げげ!?」
視線をゆっくりスクロールさせた先には、5体の機動兵士が平積みにされて、その頂点にコンパクトサイズの金髪少女があぐらをかいて座っていた。
「なんだか、歯ごたえのない連中で困る。雷撃ひとつで全員ショートとは・・・・」
そう、エリスは、紘が1体を倒している間に、5体も地に沈めたのだ。
「なんつーでたらめな」
開いた口が閉まらないとはこの事だと確信する。
周りが静けさを取り戻したのも束の間、機動兵士が出てきた穴の両サイドが開き、片方から黒龍が巨体を揺らしながら出てきた。
「ハッハッハ、どうやら貴殿らには機動兵士などでは甘すぎたようじゃな」
豪快に笑って鋭い牙を光らせる。
「どうじゃ?ワシと少し遊んでみてはくれんかのぉ?」
黒龍は右手を上げると、自身が出てきた穴とは違う方から装甲パーツが飛び出してきた。
宙を舞ながら、手、脚、胴体、翼と、それぞれ移動してボルトで留められて、そして最後に頭部が包まれた。
「事務員、アブソード・グリーダ参る!」
装甲に覆われた両翼を広げて腰を落として構える。
前進のために羽ばたいて飛ぶようにしかし浮かずに翔る。アブソードが通った場所に突風が駆け抜けて校舎のガラスを砕く。
その中、綺麗な音が聞こえてくる。
『水のように、風のようにすべてを包み、そして呑み込むがいい』
エリスは唄うように、舞うように唱える。
『神風水陣っ!!』
風が水を伴いながら竜巻のように吹き荒びアブソードを呑み込まんとする。
「うおぉー!」
だが、アブソードは巨体を器用に操って風と水の隙間を難なく突き抜ける。
「龍にとってはこのくらいのそよ風ごとき屁でもないわい」
拳を鉄砲のように振り抜いてぶつける。
「突衝拳っ」
固い物同士がぶつかる音が響くが、エリスに拳は届いていない。
当たる寸前に防護障壁を展開したからだ。
だが、
「甘いわ!!」
留めたはずの拳が震えてなぜか、防護障壁の内側で衝撃波が生まれた。
「ぐがぁっ!?」
エリスは衝撃に耐えきれずに壁に激突して穴をあけた。
「ワシの拳は防御などでは対象できんよ」
カッカッカー、と高笑いを響かせた。
瓦礫から立ち上がったエリスは術式デバイスを操作していく。
「えらく余裕そうじゃな?」
拳だいの石を投げつけながら挑発する。
それを見もしないで軽々と避けていく。
「実際に、余裕だからな」
操作を終えて、ニヤリと笑った。
「さぁ、老体。年寄り同士血みどろになるぐらい仲良くしようじゃないか!!」
紘は、暗い道に座り込んでいる。
ジメジメとしている地下道のようだ。
今、隣にはエリスはいない。
アブソードが出てきたのを見た後に、なぜか足元が落ちたのだ。
「なんだよまったく」
しかも、誰の仕業か知らないが、落ちた所は無数の剣がつきだしていた。
お陰で穴だらけになってしまった。
「ん〜、とりあえず進むか?」
明かりも何も無い暗闇でも紘にはシミひとつにいたるまですべてハッキリくっきり見えている。
「なあ?」
そう、後ろに呼びかけた。
そこにはさっきまで自分が刺さっていた剣があるだけなのだ。
だが、その剣の山が、床ごと盛り上がった。
それは、アルマジロにトゲトゲをつけたような姿の"ソドラス"という魔獣だと授業で習った。
「この学園ではこんな可愛らしいペットまで飼っているのか」呆れて手で顔を覆う。
「こんな成りで大人しい・・・・」
「グガァオオー!!」
「なんて展開はないのね」
壁を震わせるほどの咆哮に身体の芯まで響いた。
床にはドロドロの唾液を撒き散らして獲物を見つけて興奮しきっている。
「躾のなってないペットには調教が必要だよなぁ、えぇ?」
その言葉が火蓋となって二つの影は動き出した。
勢いで書いていると話の前後で違う内容になってしまったりして慌てます。