歩けば狐!?
久しぶりの投稿です。
話の筋は出来ているのに文が思いつかないのは困りものです。
薄暗い学校前の坂をエリスと紘は歩いている。
只今の時刻は5時をすぎたあたり。
普通はこんな早い時間に登校する人などいないだろう。
「なあ、ヒロ。こんな早くに登校しなくても良くないか?」
「ところがドッコイ。俺はゾンビだから朝日を浴びたらぶっ倒れる」
そう、いつだかも寝坊して家を出た瞬間に倒れて危うく警察沙汰になるところだった。
運良く紗幸が通りかかって学校まで引きずってくれたから良かったが。
「それは吸血鬼も同じじゃないのか?」
紘の疑問は当然のことであろう。
伝承などでは吸血鬼=ニンニク嫌いで日光が弱点、それが当たり前だ。
だがエリスはハ、と小さく笑った。
「まあ、それがお前ら人間が陥る間違いだな。
考えてもみろよ。そんなに解りやすい弱点があったら私はとっくの昔に死滅してるだろう?」
それもそうか、と納得。
「そんな俗説が広がったのはあらかた、最凶無敵の私を怖れたバカな人間が、すがりつきたいが為に創ったものだろうな」
エリスもふざけて苦手なふりをしたらたちまち広がったんだそうな。
いろいろあるんだろうと、紘は自己完結した。
話を変える。
今から話すのは、とても重要な事だ。
「これから学校に行くわけだが、注意事項がある」
紘は厳かに話す。
あの学校に1年過ごしてきて自分なりに考えた決まりだった。
いいか?
「一つ、誰かが奇行に及んだら真っ先に耳と目を塞げ。
二つ、誰かに何か頼まれても断れ。
三つ、自分の意見は力ずく。
そして、四つ、・・・・!」
紘は何かに気づいて飛び退いた。
そして、当然、さっきまで自分がいた場所に"火の球"が降ってきて爆発する。
アスファルトがひしゃげる前に溶けて飛び散った。
紘の頬にチリチリと焼けた空気が突き抜ける。
エリスの方にも幾つか命中したはずだが、どういうわけか当たる前に消滅した。
「こういう輩がわんさかいるから注意しろ」
目の前には火の球を浮かばせている少女が立っていた。
髪は金というよりなめらかなクリーム色をしていて巫女のような袴を着ていた。
ここまでは(火の球を抜かして)普通の人間だ。
いや、まあ。白昼堂々と(時間的に表現がおかしいが)袴着ている人を見たら目を疑うが、そこはまだ許容範囲内だ。
だがつむじの左右にある三角形、解りやすく言えば狐耳がピクピク、背後ではふわふわしてそうな尾が九つ風でゆらゆら。
そいつの正体を紘の代わりにエリスが答える。
「ほぅ、妖狐のたぐいか。
しかも九尾狐とはこれまた珍しい」
関心するような興味深そうな目で少女を見た。
それに対して少女はニタアと気味が悪い笑みを浮かべた。
「そういうテメェは『300人殺しの吸血鬼エリス』じゃねぇのか?」
「塑江霞!」
紘は眉を吊り上げて少女、塑江霞を睨み付けた。
誰がつけたかわからない呼び名を塑江霞がおもしろおかしく言っているのが許せない。
それを気にした様子もなくケタケタと笑い続ける。
「ハン、何だよ。
朝一番の幼なじみへの挨拶がそれか?」
「黙れよ!」
怒鳴って険を強くする。
「いいねぇ、ザコが粋がってくれちゃって。ゾクゾクしちまうぜ!」
ケタケタと腹を押さえて大笑いをする。
「思わず殺したくなっちまうなぁ、おい!!」
初動なしでいきなり突っ込んできた。
顎を目掛けて飛んできた蹴りを顔を横にずらしてよける。
すかさず紘は横凪の蹴りを塑江霞の腹に入れようとするが、後ろに跳ぶことで難なくよけられ"火の球"が紘を襲う。
・・・・ま、そうなるわな。
火の球を避けながら塑江霞を見る。
当たるとは初めから思っていなかった。
地面を削るように前へ出た。
相手は"火の球"による中距離攻撃と獣人特有の怪力を活かした接近戦が得意で、こちらは我が身一つ。ならば必然的に近づいていくしかない。
・・・・ここだ!
壁を壊すような思いで殴りつけ、蹴り上げる。
それを塑江霞は軽々と受け止めながら笑う。
「なんだなんだ、そのへなちょこな攻撃は。お遊戯でもやってるつもりかよ、あぁ!?」
腰に何かあるように掴もうとしたけど塑江霞の手はスカった。
「ちっ、あいつ『焔鬼』を忘れやがったな」
悪態をついて、しょうがねぇ、と塑江霞は人差し指を立ててクルクルと回す。
それに合わせで"火の球"が集まって回る。
それが段々と速度を上げてひとつの円弧となる。
・・・・あれは----まずい!!
紘は塑江霞がやろうとしていることに気づき慌てて後ろに跳ぶ。それを愉快そうに顔を歪ませて手を広げる。
「テメェには、オレからクライマックスをプレゼントしてやるよ。
そのカスみたいな手でありがたく受け取りやがれ!!」
天に掲げるようにしてから一気に振り下ろす。
それに合わせて火の輪が空気を切り裂き、焼きながら襲いかかってくる。
-----避けれな・・・・!?
紘は顔の前に手をかざしているがこんな事に意味がないのはよくわかる。
「ボサッとしてるな」
もうダメかと思った瞬間になにか強い衝撃で紘は地面を転がる。
そのすぐ横をかするようにして火の輪が通過して地面に当たって爆発した。
「おわっ!?」
文字通り、爆音に耳をふさいだ。
至近距離で爆発したにもかかわらず紘は無傷だ。
だが、紘に某上条さん的にミラクルな右手があるわけでも、どこかの魔法先生に出てくる、何でも気合いで解決しようとする筋肉野郎ではないので、普通は、バラバラになってるはずだ。
そうなっていないのは、それなりに理由があって、目の前いる吸血鬼が守ってくれたわけだ。
「あんな輪っか遊びで立ち止まってるなよ、スライスされたいのか?」
エリスは仁王立ちで火が立ちこめる砂煙の中、塑江霞がいるであろう方向を睨みながら言い捨てる。
周りを見ると、なぜか紘たちの周りを砂煙がドーム状に避けていく。
その半円の底面に魔法陣が青く光っていた。
これが防護壁だということは学校でも習っているが、実際に見るのは初めてだ。砂煙がかすれていき、塑江霞はそれを見た。
「おいおい、なにひとの獲物にチョッカイ出しちゃってくれてんだよ!?」
邪魔されてイライラしたのか、鋭くエリスを睨む。
「ハン、先にひとの所有物に手を出したのは貴様の方だろ」
あれ?俺って、物あつかい?
なんて紘は思ったが、悪い気はしないので何も言わない。
「まぁ、いいか。テメェを殺してからでも」
そう言ってから、塑江霞は天に向かって片手を挙げた。
『火は始まり、火は終わり、大いなる偉大な天の火よ。罪深き者に救いを』
手のひらに火が集まり、大きな炎になり、長い槍になる。
『焔火の断罪槍』
それは神々しく輝く天の火。
怒り、憎しみ、悲しみを焼き付くさんとして強まる神の慟哭。それがいま、エリスに解き放たれた。
空気を燃焼させてゴウゴウと唸る槍を見てまた笑う。
「まったく、封印が解かれてから退屈しない」
エリスは、ボクサーのファイティングポーズみたいに構えてからワンピースのポケットにある術式デバイスに電源を入れた。いくつかの、表示枠が現れては消えていく。
塑江霞の魔術、正確には妖術の分析をしているのだ。
「やはり、そうか」
またも、笑みを深くして何かをボソボソ呟くように言った。
何かの術式なのだと思うが、紘には判らない。
そして、いま、エリスと槍が激突した。
目を焼くほどの閃光が辺りを包み込み真昼みたいに明るくする。
「ぐがぁああ!?」
紘は光に焼かれて転げ回る。
目を焼かれ、皮がただれ落ちる。
だが、それも直ぐに治った。
紘は気付いていないが、薄く蔓のような紋様が身体を包む。
「し、死ぬほど痛てー!!」
いやいや、普通は死んでるはずなんですが。なんて、見ている人がいたらそんな事を言っていたであろう。
「アハハハ、ありゃあ死んだな。いくら不死身でも電子レベルで崩壊したら戻らないらしいからな」
塑江霞は腹を抱えて笑っている。
「そ、そんな・・・」
紘はその場で呆然と立ち尽くしてしまった。
いろいろな後悔が自分の中で渦巻く。
学校に誘っていなければ・・・・。
あの槍を自分で受けていれば・・・・。
どんなに後悔しても仕方がないことは判っているが、それでも・・・・。砂煙が晴れていくと、そこには何も無くなっていた。
そう、無くなっていたのだ。
塑江霞はそれを満足そうに見てから視線を紘に向ける。
「んじゃ、ザコ狩りでもするか。なぁ?」
肉食獣特有の餌を喰える悦びで興奮しきった目で睨まれ、膝が恐怖で揺れる。
その目が語る、「次はお前だぞ」と。
「まぁ、安心しろよ。殺しはしない」
ただ、
「精神崩壊するまで切り刻んでから死より苦痛な天国(地獄)をみせてやる」
懐から4枚の札を出してそれをばらまくように放る。
ヒラヒラと、だが、意志があるように飛び、紘を中心とした一辺が50CMの正方形になるように張り付いた。
『光に飢え、しかし、光を拒む混沌たる扉よ。新たな贄がきた。暗黒の扉らよ、いぞや開かん』
意味の通じない言語ではないはずかなのに判らない。
自分の耳には聞こえてるはずなのに脳の方で理解することができないのだ。
これは、高度な術によくある『不可認識現象』と呼ばれているもので、術の発動に必要になる「言葉を捧げる」という行為による膨大な情報を脳が無意識に取り込もうとするが、実際にするとパンクするのでそれをしないために認識できなくしているのだ。
その『不可認識現象』による理解できない言葉がその場を支配する。
突如、張り付いていた札が垂直に浮き上がり、禍々しい光を放つ。
そして塑江霞は宣言した。
『冥府の扉』
辺りを黒い稲妻が飛来する。
そして遂に、紘の足元が裂けるように開いた。
そこは、黒より深い闇が溜まっている。
足がズブリッ、と泥沼に浸かるように沈んでいく。
「ここには甘い快楽(苦痛)に支配されてる。それに溺れられる幸運に感謝しやがれ」
腰まで沈み、それを催促するように二つの黒い手が紘を掴む。
「あ、あぁ、うぁ」
嗚咽に近い悲鳴が己の口から漏れる。
額に塑江霞の右足が乗せられた。
「テメェの声なんか聞きたかねぇんだよ。さっさと消えやがれ」
グイグイと力が込められてどんどん沈んでいく。
このままでは、自分は絶望の底に墜ちてしまう。
もしかしたら、このままでもいいのかもしれない。
なんせ1人の少女を見殺しにしたんだから。
首まで浸かり始め、全てを受け入れようとする。
だが、
「おいおい、消えろなんて寂しいことを言うなよ」
紘のそばから、消えてしまったはずの少女の声がした。
そして、紘を掴んでいた手が塑江霞の足を掴む。
もう片方の手で紘を抱き抱えて這い上がってきた。
「え、エリス!」
突然すぎて、いま何が起きたのか判らない。
エリスもそれが判っているのか、塑江霞の足を横に凪払った。
ガードレール、に身体をのめり込ませて自分の型をつくる。
「あの程度の火力でこの私が消滅するはずなかろう」
塑江霞は身体を起こして背骨をゴキコキ鳴らし、鋭く睨みつけ、やがて弓にする。
「ハハ、アハハ、そうか、そうだよな。さすがは最凶の吸血鬼ってわけか。
あれぐらいじゃ無理か」
いきなり笑い出して、勝手に喋る。
それは新たな獲物を見つけた狩人のような獰猛さだ。
「ま、転校生イジメ及びクズ退治もできたからよしとするか」
「おいおい、やっとエンジンを始動させたのにおひらきはないだろ?」
「ハッ、そのうち相手してやっから、嫌と言うぐらいにな。それまでそのザコといちゃこらしてな」
それは楽しみだ、とエリスは言って空を指差して叫ぶ。
『フォースインパクト』
すると、超高速な何かが、塑江霞にぶつかる。速すぎてよくわからなかったが、バスケットボールぐらいの隕石だとおもう。
「ま、あいさつだよ。受け取れ」
エリスはニヤッと笑う。
爆風で周囲の窓ガラスが砕ける。
だが、その中でも塑江霞は傷ひとつ付いていない。
「ビビらせんなよ。嬉しくなっちまうだろ?」
「ハンッ、スパイスを効かせすぎてテメェのマゾ本能に火を付けたか」
お互いに高笑いし合っているのを見てダラダラと汗を流す紘。
すみません、ふたりの会話についていけない。
笑っていた塑江霞がちらりと腕時計を見ると、あちゃー、と額に手を添える。
「なんだ、もう時間かよ。この身体は制限があるのがいけねぇ。それじゃ、オレは引っ込むっか」
渋々といった表情で懐から小さな葉っぱを取り出して口にくわえた。
すると、光が溢れてきて全身を包む。
鋭い爪が丸みをおびて、狐耳は引っ込み、髪の毛が黒くなる。
光が退いていくと、懐から今度は眼鏡を取り出して装着。
「紗幸、おはよ」
紘が塑江霞だった人物をそう呼んだ。
すると、急にオドオドし始めて、頬を真っ赤にする。
「ひ、紘くん。おはよう・・・・ございます」
はにかみながらも、笑って、あいさつを返した。
この一見、口べたな文化系少女こそ、あの身体の持ち主、柿村紗幸なのだ。
「あの、すみません。塑江霞さんがまた悪さをしましたよね?」
ペコペコかなりの勢いで頭を下げている。
エリスはそれをポカーンとした顔で見ていた。
「おい、ヒロ。なんだあれは?」
たぶん、紗幸が、普通の人間が塑江霞、妖狐に取り憑かれているかの問だろう。
「よく判らないが、昔から紗幸にはアイツが憑いていたんだ」
初めて合った時にはもう、塑江霞と紗幸は一緒だった。
しかし、一族が全員がそういう家系かというと、そうではない。
一般的な平々凡々の人間の一族だ。
「半妖とはまた違った種類のものだな。これまた珍しい」
ジロジロと遠慮なくエリスは紗幸を観察する。
紗幸は身体を強張らせて怯えきった表情で紘に無言の助けを求めている。
「エリス、いきなりそんなことされてるから紗幸が怯えてるだろ。やめとけ」
「あ、あぁ」
名残惜しそうな顔をして紗幸から離れた。
「それより、なんで塑江霞は俺たちを襲ったんだ?」
「そ、それは・・・・紘くんが・・・・」
あれ?俺が何かしたのか?
紘は、そんな風に首を傾げる。
「俺がどうかしたのか?」
なんだか言いにくそうに俯いているが、やがて口を開いた。
「知らない女の子と歩いていたから・・・・」
その子は誰なの?と目で訴えてきた。
やっぱり訊いてくるか・・・・。
これに対しての反応は最初から決めてあった。
「こいつは、エリスだ。親父の知り合いの娘で、今日から俺たちの学校に通うことになった」
紹介されたエリスは不満があるのか、ムスッとしていた。
「そう・・・・なんだ」
理解したが、納得はしていないようだ。
誰もいない薄暗闇のなかを誤魔化すように少し早めに歩いた。
塑江霞は、某「お稲荷さま」をイメージしてます。
性格は違いますが。