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学校へ行こう

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朝の3時ちょっと過ぎに起きた紘は、隣に寄り添うように抱きついきながら寝ているエリス(服着用)を起こさないようにはがして、台所に向かい携帯片手に目玉焼きを作っている。


「おい、クソ親父。ちょっと頼みたいことが----って、あぁ?ピラミッドの欠片なんかいらねぇよ!

ならサソリの剥製(はくせい)はいるかだと?

んなもん家に置いてみろ、幼なじみ様に家を燃やされる。

やっぱり、テメェじゃなくて母さんと代われよ。

そうじゃないと話にならん」


ため息をつきながら目玉焼きをお皿に盛って、野菜などをトッピングする。


「あ、母さん」


途端に明るい声になった。


「ごめん、こんな時間に。忙しかった?----なら良かった。

もし辛かったら、あのクソ親父を刺して日本に帰って来てもいいから。

あ、大丈夫?

なら後ろで泣いてるむさい中年を静かにさせて。

うん、ありがとう。

それで、ひとつ頼みたいことがあるんだけどいいかな?

まずは-----」


そうやっていろいろ準備をしていると食卓の上には、いつの間にか朝食が出来上がっていた。


「ありがとう、頑張って」


と言ってから電話を切った。

「ふぅ」と一息ついてから濃いめのコーヒーを煽る。


「そろそろ起こすか」


なぜか痛い背骨をゴキゴキ鳴らしながら机の後ろで寝ているエリスを見た。

この少女は幾千も前から生きているらしい。

皆が死んでいく中、自分が生きていくのはどんな気持ちだろう。


「人間50年なんて嘘だよな」


暗い気持ちを吹き飛ばす為に冗談を言う。


「そもそもヒロ、私たちは人間ですらない化け物だろ?」


「まあ、そうだがな」


ってか、エリスさん。起きていたのですか。

それにしても、化け物・・・・ねぇ。


「そういや、クソジジイが言ってたっけな。小さな者にしたら人間も充分に化け物だって」


まあ、俺の学校のクラスを見れば化け物なんてレベルじゃないがな。


「とんだへそ曲がりな理論だな」


そう言って身体を持ち上げて術式デバイスを起動させていくつかの操作をする。

文字盤を操作しながら表示枠をタッチしてしばらくすると消えた。


「いま、何をしたんだ?」



「身体をある程度の範囲で洗浄するシステムを起動させただけだ」


そう言い終わる前にエリスの周りに半径5CMぐらいの小さな魔法陣が複数出現した。

そこから空間を割って出たのはハムスターをデフォルトさせたようにいい加減な生物が赤、青、黄の順番で現れた。


「エリスたま、洗浄ですね?」


「洗浄ですね?」


「戦場ですね?」


「扇状ですね?」


なんだか山びこみたいだと呟いたがなぜか無視された。

ってか、最初の2匹以外言葉のニュアンスが違っているが良いのか?


「こいつらは私の身の回りを世話してくれる召喚獣。

まあ、ブラウニーみたいなものだと思ってくれれば間違いはないさ」


ブラウニーとは、身長1M弱で毛むくじゃらのホームレスみたいなおっさん妖精で、人間がいない間に家事や家畜の世話をしてくれる一家に1匹は欲しい便利屋さんだ。

最終的にはサンタに弟子入りしてサンタになるらしい。

以上、goo Wikipediaより参照。


「おっさんじゃない」


「みたいなものだと言っただろ?

そもそも、絵面からして毛むくじゃらのおっさんは嫌すぎるだろうが」


まあ、この方が和むからいいんだけど。


「デネ、アル、ベガ。ささっと洗っておくれ」


『了解しました!』


言うなり、エリスは光に包まれたと思ったらすぐに消えた。

そこにはウェーブのかかった髪を後ろでひとつに結われてそれにマッチするように白のワンピを着たエリスが立っていた。

その間、コンマ0.5秒。


「ふぅ、スッキリしたぁ」



きれいになったからなのか分からないが、なんとなく光っている気がする。

それに、女の子らしい甘い香りがする。


「魔術ってすげぇ」


驚きの声をあげるとエリスはこちらを見た。


「やってみるか?」


「え!?いいのか?」


紘はパァっと目を輝かせた。

実をいうと紘は魔女っ子アニメのもうれつな信者で、オモチャの魔法のステッキを買って夜な夜な特訓する日々を(いま)だに続けていたクチなのだ。

それだから魔法を直にふれる事ができるこの機会を待ちわびていたのだ。


「じゃあ、おねがい----」


「ただし、人体を電子レベルまで分解されるのに躊躇(ためら)いがなければのはなしだが」


「----しなくていいや」


そんなもの躊躇(ためら)いがあるに決まってるだろ!!

天国から地獄に突き落とされた気分だ。


「なんだ、遠慮するなよ。失敗しても不死身だから運が良ければある程度は元に戻るぐらいのものだろうが」


「それが一番危ないんじゃボケー!」


思わず関西弁になるほどの心の底からの叫びだった。





そんなこんなで朝食の目玉焼きをパンに挟んで食べながら紘はエリスにある話題を持ち出した。

それはさっき電話で母に頼んでいたものと関係があった。


「今日は平日の水曜日だ」



「そうだな」


エリスはパンの端から黄身が垂れるのと葛藤していて紘の話は聞いていない。

こういう反応をされることは分かっていたので話を続ける。


「俺のように真面目な人間は働く必要がある」


「そうだな」


コーヒーを一口舐めて苦そうな険しい顔になる。

一度置いてから持っていたティースプーンをカップの後ろ(紘から見て手前)に置いて再び飲み始めると幸せそうな表情になった。

何も変わっていないように見えるが、ティースプーンを置くときに袖を通して角砂糖をこれでもかというほど入れていたのを紘は見逃していない。


「しかーし、社会人になるにはまだまだ未熟な人間には修行の場がある」


「そうだな」


一息ついてコックリコックリとエリスは舟を漕ぎ始めた。

ここまで言わせておいて紘の言いたいことに気づかないのはどうしてだと悩む。


「さあエリス。その修行の場というのは何だと思う?」


「・・・・zzZ」


エリスに話を振ったが、すでに夢の中。

ワナワナと肩を震わせて顔を真っ赤にする。

すぅー、っと息を吸い込んで大声で怒鳴る。


「人の話を聞けぇぇええ!!」


「ふぉ!?」


びっくりしてキョロキョロと周りを見渡す。

そして怒っている紘に気づいて恨めしそうに睨む。


「なんだ?」


「なんだじゃねぇよ。人が話しているのに寝る奴がいるか!」


「ヒロ、お前の話は要点を得ていないから何を言いたいのかさっぱりで眠くなる」


わざと遠回りで言っているのにそれを「眠くなる」のひと言で終わらされてがっくりとする。


「ぬぐぐっ、まあいい。ならハッキリと言うが今日、わたくしめは学校にて勤勉の義務を果たしとうございます。

ですがわたしめの周りには華が足りのうございまする」


「ふーん、それで?」


何ともないように言われた。


「ですからわたくしは華を追加したい」


ここまで言ってまだ分からないのか。


「だから俺はエリス、お前と学校へ通いたいんだ!」


面倒くさくなって本題を話す。

するとエリスはポカーンとした顔になり何を言われたのか分からないという表情になる。


「今、何て言った?」


「だから俺と華やかな学園生活を送りましょうと言ったんだよ」


ようやく理解したのかしばらくはフリーズしていて徐々に再起動した。


「はあぁぁああ?」


どこかの超サイヤ人の技が発動した時のように聞こえる。


「何を言っておるのだ、私に今更学校へ通えだと?冗談じゃない」


そのまま部屋を出て行きそうな勢いだったのでまあまあのと落ち着かせる。


「学校は楽しいぞ?いきなりズドンと校庭が爆破されたり、世紀末覇者みたいなバトルが展開されたり・・・・」


「何だそのカオスな日常風景は」


呆れた顔をされた。

エリスは「はぁ」とため息をついて少し真剣な顔になる。


「そもそも、お前は昨日。私に殺されかけただろ、忘れたのか?」


「確かにそうだが、それがどうかしたのか?」


「どうかしたって・・・・あんなことされて怖くなかったのか?」


紘はう〜んと唸ってから答える。


「怖くなかったと言ったら嘘になる」


「そうだろ?」


笑って頷くが、エリスの目が哀しげになったのを紘は見てしまった。


「しかし、それだけだ」


紘は少しエリスから視線を離して話す。


「もし、俺に本気で危害を加えたいなら俺が気絶したときに幾らでも出来たはずだ。そうなったらいくら不死身と言っても適うわけがない」


「・・・・」


エリスは無言で紘の話を聞いている。それは真偽を確かめるためもあるかもしれないが、紘にはエリスが救いを求めているように感じた。気のせいかもしれないが、いまは自分に都合の良い方を捉える。


「だが、見てみろ。俺は何もされてない」


身体全体を見せるようにくるりと回ってみせた。


「これはエリス、お前が危険な存在じゃないってことだろ?」


エリスを見ながら頷いている。

何かを思考するような仕草になってエリスはうすら笑う。


「ヒロ、お前の考えは甘すぎる。

身体が無事だから危険がないだと?

(さいわ)いにも、世の中には時限式魔法というのがある。

数日後に突然、ボンっ、なんてよくある話だ。

しかも、私は全世界共通の悪だ。

何をされても文句は言えないぞ?」


紘に問いかけるエリスは諭すように言う。

それに対して紘は何ともないように言った。


「大丈夫だろ」


「何を言って----」


目を吊り上げて怒鳴ろうとしたエリスの頭に手を置く。


「そう言うってことは、本気でやることはしないってことなんじゃないのか?」


紘に言われて目を少し見開いて、閉じた。


<ほぅ、見ていないようで見ているな。しかし、確信ではなくほとんど(かん)みたいなものか。馬鹿なのか違うのかの判断はしにくいな>


だが


<馬鹿は馬鹿なりに楽しめるか>


エリスは、紘を見ながら肩を震わせたが、怒りからくるものではない。


「くくっ、まあ何でも()いか。

わかった、学校にでもなんでも行ってやるよ。

その代わり、ヒロの血は私の自由にさせてもらうぞ」


「了解!」


ヒロは強く頷いてからエリスの手を引く。


「ならさっそく、学校へ行く準備だ」


それを聞いてエリスは驚き、足を止める。

紘は引っ張られてガクンとなった。


「待て待て待て、行くもなにも私は入学の手続きすらしてない」


エリスの問いに紘は問題ないと親指をたてる。


「エリスの入学手続きはもう終わらせてある」


「何だその行動の早さは。昨日、今日で出来るものではなかろうに」


「それが出来るのがうちの学校なんだよ」


だから安心しろと嫌に爽やかな笑みを浮かべて再び歩き出す。


「だから待てと言ってるだろ!

そもそも、私は制服を持っていない。それがなければ問題になるだろ?」


「それも大丈夫だ」


そう言いながら突き当たりの扉を開ける。

中は居間の半分ほどの広さの寝室だった。


「ここは母さんと人間のクズの部屋だ」


紘はベッドの横にある押し入れを開いて洋服棚の中を漁った。


「確かこの辺に・・・・あった!」


紘は手のひらサイズの5角形のものを取り出した。

そこれは、白い睡蓮(すいれん)刺繍(ししゅう)がされたワッペンだった。


「何だこれは?」


「これは我が校の校章だ」


「なぜこんなものを探していたんだ?」


「俺の学校は校則がゆるゆるで制服なんて着なくても問題ないんだ」


エリスは、ポカーンとした顔で魂が抜けている。


「おい、エリス!どうした!?」


はっ、と目を見開いて現実逃避はやめる。


「いや、何でもない」


エリスは、あんなこと言わなければ良かったと今更(いまさら)後悔した。

かくして、エリスのスクールライフは幕を開けたのでございまぁーす。

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