パパのいうことを聞きなさい!
更新が遅れ気味になっていますね。
「うまい!」
わざと薄暗くした居間にエリスが歓喜の声をあげた。
食卓の上には野菜いっぱいのスープとアジの煮物などが並んでいる。
それを瞬く間にエリスは減らしている。
その食べっぷりはちょっとした感動ものだ。
そしてまた紘に空になったお茶碗をよこした。
「はいはい、おかわりだよな♪」
エリスは、コクリと箸をくわえたまま嬉しそうに頷いた。
紘は炊飯器からありったけよそってからエリスの手に乗せる。
山盛りのご飯を受け取りエリスはいきなり思案顔になった。
「これはなんとも・・・・えっと-----」
どうやらリアクションを考えているらしい。
そして考えること120秒。
ゴホンっ、と咳払いをした。
どうやら考えがまとまったらしい。
最終的に思いついた究極のリアクションとは何かと紘は少し期待した。
「そう、煌びやかだ!」
「・・・・」
それは味覚ではなく視覚だろというツッコミはとっさには出なかった。
そして固まり続けて数分後にやっと再起動した。
はぁ、とため息をついて紘は残念な顔になる。
「おい、さんざん悩んでその科白は無いと俺は思うがどうなんだ?」
そう言った瞬間に顔を真っ赤にして「うるさい」と怒鳴った。
それに対して紘は温かく笑ってあげる。
「ま、気持ちはその表情だけで充分に伝わったから、無理に言葉にしなくとも大丈夫だ」
エリスは「そうか」と頷いて再び満面の笑みを浮かべて食べ始めた。
それが無性にうれしくて笑みを深くする。
もしかしたら俺に娘がいたらこんな感じなのかな?
だとしたら悪い気はしない。
そんな妄想をしているとエリスが訝しげにこちらを見ているのに気がついた。
「ヒロ、どうした。そんなにニヤニヤして」
おっと、どうやらニヤニヤしすぎていたらしい。
「いや、なに。可愛い娘が出来たみたいだと思ってな・・・・!」
そう言いつつやばいと思った。
たぶん子供扱いは拙い。
エリスみたいな、こういうキャラは決まって身長を気にするのだ。
それはエロゲの定番中の定番。
エリスをみると俯いてしまっている。
これは拙い、非常に。
どれくらいかというと、いつだか幼なじみである紗幸の誕生日プレゼントを忘れてボコボコにされた時よりだ。
何?訳分からんだと?
そんなもの作者が伏線を引きたいだけだから今は分からんでも良い。
とりあえずいま紘は、青い顔をして冷や汗をダラダラさせながら頭を下げる。
「え、エリス、すま----」
「・・・・・・・き」
慌てて謝ろうとしたらエリスが何かを言った。
「き」ってなんだよ!
訳も分からず混乱を加速させる。
もしかして相当怒っておられる!?
そ、そうだ!
我ら日本人にはこういう時の為の素晴らしい必殺技がある。
(DOGEZA)
そう、ご存知の技。土下座。
これだ、これで大丈夫なはずだ。
しかも俺のは他とは格段に違う。
その名も----。
『トリプルアクセル土下座』
これは凶暴になった紗幸の機嫌を直すために1ヶ月の山籠もりの果てに編み出した至高の一品だ。
そしていざ発動しようと初動準備をしていたら、エリスが顔をあげた。
「・・・・」
その表情におもわず絶句した。
ただし恐ろしい般若みたいな顔ではない。そこは我が幼なじみとは違う。
エリスはとても無邪気そうな笑みを浮かべていたのだ。それは小さな身体にとてもマッチしていてかなり可愛い。
そして次の科白でトドメを刺される。
「パパ、大好き♪」
「・・・・」
おい、なんだよ今の。
とんでもない破壊力じゃないか。
「・・・・え」
紘は今までない言葉にワナワナと肩を揺らしていてエリスの「冗談だ」という科白は耳に入っていない。
そして一気に感情が吹き出した。
「エリスぅー♪」
おもいっきり抱きしめてナデナデしてあげる。
ああ、なんて可愛いんだ。
しかも『パパ、大好き』だって?
おいおい、あえなく撃沈、黒焦げだよこんちきしょー。
「可愛いなぁ、お前は。ずっと抱いていたい」
ああ、ありがとうございます、ロリの神さま。
居るか分からないけど。
「こら、ヒロ。何をするか!!」
エリスが顔を真っ赤にしてどうにか逃げようとするが、逃がさない。
それでエリスはどうにかしようとジタバタと暴れる。
「おい、ヒロ。離せ」
それなりの強さで蹴ったり殴ったりしているがびくともしない。
(なんてタフな奴だ)
それにイラッとしたエリスは少し考えて不気味に笑いながら紘に抱きつく。
「おぉ、なんと!」
紘は自分の危機に気づいていないでバカみたいに喜んでいる。
「ねぇ、パパ?」
「なんだい?」
俯いたエリスの顔をのぞき込むようにする。
そこでやっとエリスが背筋の凍るような笑みを浮かべているのに気づいた。
慌てて離れようとするがエリスは紘をしっかりホールドしていて無理だった。そしてエリスは青ざめた紘にこう言った。
「しつこいぞ!!」
そのままエリスは力いっぱい引き締めて紘の背中を砕き、紘は激痛の中で意識を手放した。
明らかに変な格好で倒れている紘を見てエリスは荒い息を整える。
「まったく、とんだロリコンだな」
腰に手を当てて上体をそらせる。
腰の骨がコキコキなる。
それをしながら天井を見ながら落ち着こうとするが、ドキドキしてしまう。
紘の乱暴だけど優しい温もりが変な気持ちにさせて困る。
「むぅ〜」
紘が起きていないのを確認してから抱きつく。
「!?」
意外と厚い胸板でビックリした。
こんなんでも男の子なんだと思わせる。
感触を楽しむように頭をグリグリと押し付けた。
しばらくしてゆっくりと瞼を閉じてボソリと言う。
「パパ・・・大好き-----」
それは容姿相応の声、想いだった。
エリスの父は生まれる前にはもう死んでいて、母もエリスが6歳の誕生日を迎えてからしばらくしてやがて殺された。
親の温もりを、いや。
ずっと1人で生きてきたエリスは人肌の温かさを知らずに血の臭いにまみれて生きてきた。
これで良いと思った。
人の温もりなど邪魔なだけとも思った。
いつからか、だれも恨まず、恨まれるだけの存在になっていった。
冷酷に、残虐に、来るもの全てを拒絶していった。
だが、この男はいくら不死身といえど、腹に風穴をあけられたのに恨みもしないで逆に受け入れている。バカなのか、それとも・・・・。
よく分からない。
「ヒロ、ありがとうな」
小さく鈴が鳴るような声は虚空に消えていった。
その代わり、ヒロに回された腕に少し力が込められる。
これが、今思えばエリスの何千年分の甘えだったのだろう。
少しグダグダ感がありました。