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知らないことは幸か不幸か。

タイトルがあまり思いつかない

時計の針が22時30分を過ぎる頃にやっと家に着いた。


「ただいまっと」


声が広い玄関に静かに響いたが、返って来るのは外の乾いた風の音だけ。

遺跡マニアの両親が発掘の為に海外に発ってから早くも3年の月日が流れた。

最初は絶望的だった料理・洗濯・掃除は得意になり、今では趣味と言っても過言ではないだろう。

靴を脱いで廊下を歩き居間に入り、隣の客間に入る。

14畳と、それなりに広いタタミ敷きの部屋だ。


「取り敢えずこいつは起きるまで布団で寝かせてやるか」


押し入れから布団を引きずり出して誇りをたてないように置いてシーツを被せる。

そこにエリスを髪を踏まないように気をつけて寝かし、特別だからなと言いながら掛け布団をエリスの上に被せてやって紘は飯の準備をするために居間から台所に向かった。





「さぁーて、始めますか」


紘は袖を捲り、手を洗って戦闘準備をした。

あらかじめ用意しておいたニンジン手に取り、洗う。

それ以降は流れるような動きで工程を消化していく。

まさしくプロの主婦そのもので、完璧な作業だ。

そして仕上げの工程に入ろうとした時に居間から呻き声が聞こえた。


「うぅっ・・・・うぅん」


どうやらエリスが目を覚ましたらしい。

紘は野菜を煮ていた鍋の火を止めて居間に戻るとやはりエリスは起きていた。


「やっと目が覚めたか」


エリスはぼんやりとしていたが紘の声に反応してこちらを睨みつけた。


「貴様、何のつもりだ!?」


「なにが?」


分かっているがあえて聞いてみる。


「なぜ私をこんな所まで連れてきた!」


ほらな?


「理由か?それなら簡単だ。お前に聞きたいことがある」


「聞きたいこと・・・・だと?」


「そう、聞きたいことだ」


エリスは途端に険しい顔になった。


「ちっ、貴様もか・・・・」


明らかに不機嫌な口調で続ける。



「貴様、聞きたいこととは闇の秘術のことなんだろ」


闇の秘術?なんだそれ?


「そんなくだらない物は、いらん」


うんざりそうな顔をする紘を見て拍子抜けなのかエリスは肩を落としたが、その顔には少し安堵の表情があるように見えたのは気のせいかもしれない。


「なら、私に何の用だ。それに貴様は何者だ」


「おっと、そうか。

まだ名前を言ってなかったな。

俺の名前は須川紘だ、一応ゾンビをしている」


「はぁ?ゾンビだと?なんだそれは」


「お前ゾンビも知らないのか?ゾンビというのはなぁテレビやゲームなどで出てくる----」


「そんな事は知っている。だがそんなのが現実にいるなんて見たことも聞いたことも無いぞ!」


「んなもん知るか!ただ単に不死身で陽光に弱いからゾンビだと俺は思ってるだけだ」


もしかしたら他に呼び方があるかもしれないが専門家ではないのでわからん。

エリスは「陽光に弱いということは闇の何かか?いや、だけどそんなはずは・・・・」などとブツブツ言っていたがそこは説明のしようがないのでスルー。


「そうだ。なあエリス、お前の事を教えてくれ」


「私のこと?」


「そう。吸血鬼はどうのってのは聞いたが、よくわからん」


エリスはそうだなぁと顎に手を当てて何もない空間に表示枠(サインフレーム)文字盤(キーボード)が出てきた。


「なんだそれ?」


「ん?これか?これはだな、私が作った術式デバイスだ。

簡単に言えばパソコンみたいなものだ」


文字盤を叩いて表示枠を開いたり閉じたりしてながらあるところで止まった。


「ヒロ、これを見ろ」


エリスは紘に見やすいように移動してひとつの表示枠を指差した。


「これは自分で言うのはおかしいな話だが、当時世界でかなり騒がれた事件だ」


そこには信じられないものが映っていた。


(セント)ジョージ大聖堂、一夜で崩壊』


『300人殺しのエリス』


『エリス暗殺の任を受けていたイギリス騎士団壊滅』


など、数え切れないほどの事件が時系列順に載っていた。


「これはほんの数千年前の出来事だ」


「すうせん!?」


「そんなにびっくりすることはあるまいて。

伝承や物語などで聞いたことないか?吸血鬼は人の血を飲んでいるから不老不死だと」


確かに、アニメやマンガの吸血鬼はやたらととんでもない歳だった気がする。


「話を戻すが、欧州(ヨーロッパ)で魔女狩りが流行った時期があったんだ」


紘もそれは世界史の時に習った。

元々は中世末期の約15世紀に、民衆裁判の異端審問が始めとされており、その定義はかなり大きい。

例えばその昔、悪魔が人間に影響を及ぼすと考えられていてそれを受けた人間が魔女だとされていたのもその一つだ。


「まあ、私の存在はその時の旧教(カトリック)にとっては棚ぼただったらしく、魔女狩りに拍車をかけてしまう原因になったんだ」


現代ではあまり認知されていないが、未だ続く深刻な問題なのだ。

そのせいで迫害を受けている人もいるらしい。

それを広げるきっかけになってしまったエリスの気持ちは計り知れないものであるはずだ。

しかしエリスはおかしそうに笑った。


「どうだ、かなり愉快なものだろ?」


「んなわけ、あるか!」


紘は思わず怒鳴ってしまう。


紘は表示枠を見ていくとあることに気がついた。


「あれ?こっからしたになにも書いてないぞ?」


紘は指差してエリスに訪ねた。

そこには年号だけしか書かれていない部分があったのだ。


「ああ、そこはただ単に私が封印されたからだ」


「は?」


さらりとすごいことを言われた。


「はぁぁああ!?」


驚いて声を張り上げたらエリスはうるさそうに耳を塞いだ。


「何をそんなことで驚いている」


どうでもないように言ってめんどくさそうに頭を掻く。


「考えてもみろ、恐怖の根元が現れたら普通はどうする?」


「そりゃあ、みんなで倒そうと・・・・!!」


そこで紘は気づいた。

その表情を見てエリスは満足そうに頷く。


「そう、みんなで倒しに掛かる。そういうことさ・・・」


何ともないような表情を見せるが、少し哀しそうな雰囲気に見えた。

どんな理由があるにせよ、全ての人間に怖がられるのはあまり良い気分とは言えない。


「・・・」


何も言えなくなった紘を気にしないでエリスは視線をある場所に固定した。


「ヒロ、あそこにあるガラクタの山は何だ?」


指差した方向にはこの部屋に似つかない不自然な鉄くずの山がある。

しばらく言いずらそうにしていたが、やがて口を開いた。


「あ〜、あれはだな。クソジジイ・・・知り合いが持って来てどう扱って良いか分からないからそのままにしてあるんだ」


あれは確か、丁度2年前。

いつの間にか消えていたクソジジイが突然帰ってくるなり置いていったものだ。

話を聞いたエリスは立ち上がりガラクタの山に近づく。


「ヒロ、これをどこかに片付けたいと思ったことは?」


「あるけど?」


「ならなぜ片付けなかった?」


紘はなぜエリスがそんな事を聞いてくるのか分からない。だけど素直に答えなければいけない気がした。


「いや、なんとなく片付けちゃいけない気がして・・・」


もしかしたら片付けてないのを怒っているのかと思って申し訳なさそうに言った。

それを聞いたエリスは「やっぱりな」と呟いてガラクタに手を近づける。


「・・・・っ!」


触れるか触れないかという所まで近づけていたのに突然、エリスの身体が震えて手を引っ込めた。

心配になった紘はエリスに駆け寄ると、全身に鳥肌が立っていた。


「おい、どうしたんだよ」


紘の声に振り向いたエリスは青ざめた顔で短く告げた。


「これには、強力な術式が、かけられて・・・・い、る」


言い終わると同時に全身の力が抜けたようにグラッと傾いた。

慌てて肩を抱くと身体は氷のように冷たかった。


「おい、どうしたんだよ!おい!?」


どうやら気絶してしまったらしいが、息が荒く苦しそうだ。

どうしたらいいのか分からないが、とりあえず布団に寝かせて掛け布団を被せる。


「っくそ、どうしたらいいんだ!」


そう言っている間にもどんどん青ざめて真っ白になっている。

紘は分かる。このままではエリスが死んでしまうことを。


「かといって吸血鬼だから普通の薬が効くのか?・・・・・・いやまて、吸血鬼?」


紘は何かに引っかかっていた。

胸につっかえるような、何か大事な事を忘れているような。

よく思い出すように顎に手を当てて考える。

そして、あることに行き当たる。


「そうか、血だ!」


何でこんな簡単な事に気づかなかったのか。

吸血鬼といったら血ではないか。

そうと分かれば話は早い。


「待ってろ、エリス。いま助けてやるから」


紘は親指を口に当てて噛み切る。

口の中に鉄錆の味が広がるが無視してエリスに向けた。傷口を絞るようにしてなるべく多くの血が出るようにしてあげる。


親指の先端に溜まっていた滴は重力に負けてそのまま、下にある口に落ちていく。

ビクンッ!

エリスの身体が大きく揺れる。

それに驚いた紘は顔を覗き込む。


「おいエリスどうし----!!」


言葉は続かなかった。

なぜならエリスに顔を掴まれていたからだ。


「ぐぁっ!?」


万力のように締め付けに頭蓋骨が軋む。


「うぐっ、ふぅっ!」


そのまま投げ飛ばされて壁にぶつかる。

ベキボキッ!

背中で幾本かの骨が折れる音が響く。


「ぐあっ、ぐふぉあ!?」


エリスはゆっくりと立ち上がる。

肩に掛かっていた布団がずり落ちて埃を立てる。

見ると青い瞳が赤色に輝いて、血走っていた。


「・・・血を・・・よこせ」


地獄の底から響いてくるような低い声。

紘は、恐怖で足が震えた。


「バッカ!なにヒビってんだよ。

しっかりしろ俺!」


そうだ、逃げてはダメだ。

エリスに血を飲ませるのだから。


「うっし!」


頬を力強く叩いてから紘は、なけなしの根性を振り絞って意を決した。

エリスにゆっくり近づいてそして思いっきり抱きしめた。


「ほら、思う存分飲みまくれよ。

なんなら飲み干してくれたって構わない。

こんな機会は滅多にないから良い経験になる」


冗談を言って自分を落ち着かせる。


「血!ち・・・だ!」




エリスは震える手を紘の首の動脈に当てると、強く引っ掻く。

それだけでかなり深く切れて溢れるように血が滴る。

それに口を当てて強めに吸っていく。


「ちゅ、じゅる・・・ごきゅん」


なるほど、これが吸血鬼に血を吸われるってことなのか。ってか、蚊よろしく牙でガブリじゃないんだな。

やっぱりアニメなんて現実とは違うわけか。

あ〜くそ、いい匂いするじゃねぇかよ。

そういえば、女性をこんなに近くに感じた事は母親以外にないよな。

おいおい、なんつーやわっこい華奢な身体なんだよ!

少し力を込めたら折れそうだなこれ。

そんな感じで紘はいろいろ考え(悶え)ていた。

すると、目の前が白くなっていく。


「あれ、なんだこれ?」


身体が重い。

力が入らない。

そんな事に戸惑っているとエリスが傷口から口を離した。


「おい、ヒロ。なんだこれは!?」


どうやら気がついたらしい。


「なんだよ、自分で、やっておいて・・・」


そう憎まれ口をたたいたっきり、紘の視界はブラックアウトしてエリスに全体重を預ける。


「ヒロ!おい、ヒロ!?おい-----」


エリスの心配する声を遠くに感じた。




何が300人殺しのエリスだよ。

何が恐怖の根元だよ。

普通の女の子じゃないか。

紘はエリスにそう言ってやれない自分を悔しく思いながら意識を手放す。せめてこの想いのカケラでも伝われと願ながら。

魔女狩りはWikipediaで調べましたけどそれを活用するのは難しいですね。



おかしいと思うかもしれませんが理解のほどを。

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