厨房にて2
毒殺に失敗し、密使が自爆するという「怪事件」に冷や汗を流す副料理長。しかし、魔王軍への忠誠(と恐怖)に縛られた彼はすぐさま次なる工作に打って出ます
一方、カイは「このおじさん、次は何をするんだろう」と、完全にかぶりつきの特等席(副料理長の真後ろ)で見学することにしました。
副料理長は震える手で、禁忌の魔道具『地獄の業火粉』を取り出しました。
「毒がダメなら、これを勇者どものスープにぶち込んでやる! 常人の100倍の辛さ……10倍の味覚を持つ勇者なら、ショック死するか、少なくとも悶絶して戦えなくなるはずだ!」
彼は大鍋の前に立ち、タイミングを見計らって真っ赤な粉を振りかけようとします。
カイは副料理長の足元で、軽く、トントンと貧乏ゆすりを始めました。
10倍に強化された微細振動は、床を伝わり、副料理長が持つ「スパイスの小瓶」だけにピンポイントで共振を起こします。
現象: 副料理長が「今だ!」と小瓶を傾けた瞬間、瓶がまるで生き物のように激しく震え出し、中身が全部自分の方へ逆噴射しました。
「ぎゃあああ! 目がああ! 鼻がああああ!!」
副料理長は真っ赤な顔で転げ回り、勢い余って自分自身がスープの入った大鍋(の横にある洗い物用の樽)に頭から突っ込みました。
洗い物樽から這い出した副料理長は、もはや半狂乱。
「ええい、こうなったら秘蔵の『魅惑の媚薬エッセンス』だ! これを勇者たちに飲ませ、パーティー内で痴情のもつれを引き起こして空中分解させてやる!」
彼はドロリとしたピンク色の液体を、勇者たちが待つ食堂へ運ばれる大皿料理に垂らそうとします。
カイの介入: カイは「認識の空白」を応用し、副料理長の「手の感覚」だけを一時的に麻痺させました。
結果: 副料理長は、自分が媚薬を料理に垂らしているつもりでしたが、実際には自分のすぐ横にいた**「いかつい髭面の警備騎士」**のコップに全量をドボドボと注いでしまいました。
数分後。
「おお、副料理長……お前、よく見ると……なんて愛らしいんだ……!」
「寄るな! 来るな! 離せぇ!!」
屈強な騎士に抱きつかれ、王宮の廊下で熱烈なアプローチを受ける副料理長。その阿鼻叫喚の図を、カイはデザートのタルトを食べながら横で見物しています。
その頃、食堂では剛田や麗奈たちが、全く毒もスパイスも入っていない最高級の料理を堪能していました。
「……おい、聞いたか? さっき厨房の方で、魔王軍の刺客が『愛の力』に目覚めて改心したらしいぞ」
「私たちの10倍の正義感が、戦う前から敵を浄化したのね! おーっほっほ!」
勇者たちが「自分たちのオーラが凄すぎるせいだ」と確信を深める中、副料理長はついに精神が限界を迎え、白目を剥いて泡を吹き始めます。
5. カイの「お片付け」
「あー、面白かった。でもそろそろ、このおじさんを放置すると料理が遅れるな」
カイはトドメに、副料理長の懐に「私は魔王軍の工作員です」という手書きのメモ(副料理長本人の筆跡を10倍の精度で模写したもの)をスッと忍ばせました。
あとは、彼を助けに来た他の衛兵がそれを見つけるだけです。




