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全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


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第32話「包囲網」

裏口を守る三人の教団兵は、訓練された暗殺者の動きで散開し、レイドたちを三方向から包囲しようとした。

 彼らの手には通常の剣ではなく、教団の毒を塗り込まれた波打つ短剣が逆手で握られている。呼吸すら殺した、プロの殺し屋の間合いだ。


「遅いッ!」


 だが、今のガルドの前では小細工など全て無意味だった。

 左腕のギプスをものともせず、右手一本で新品のミスリルの大盾を構え、猛烈なシールドチャージを先頭の一人に仕掛ける。

 百キロを超える巨体と重金属の盾が生む衝撃は、まさに人間の形をした暴走列車。

 先頭の教団兵が盾の直撃を受け、肋骨が折れる嫌な音と共に石壁へと叩きつけられ、そのまま気を失って崩れ落ちた。


「な——っ」

「よそ見してる場合じゃないわよ」


 仲間の一撃での沈黙に動揺した残り二人の足元に、リーネが詠唱と共に放った鋭い風の刃が殺到した。

 足首を深く切り裂かれて体勢を崩した彼らの額に、遮蔽物の陰から跳躍したセレナの銀の矢が連続で突き刺さる。

 矢じりは急所を避けた角度で打ち込まれていたが、衝撃で完全に意識を刈り取られた二人はその場に崩れ落ちた。

 戦闘開始からわずか五秒。裏口の防衛線は呆気なく沈黙した。


「おいおい、俺の出番なしかよ」


 剣を抜いたまま立ち尽くすレイドが、苦笑混じりにこぼす。

 実際は、胸の傷の痛みで剣を振り上げることすら辛かったのだが、そんなことは口が裂けても言わない。


「病み上がりは大人しくしてな! ここからは俺たちの前衛だ!」

「ふふっ、その通りよ。あなたは後ろで偉そうに指揮官面でも出してて。それが一番役に立つわ」


 ガルドとリーネの心強い言葉に、レイドは小さく頷いた。

 ——変わった。確実に。

 一周目の彼らは有能だがどこか受け身で、レイドの指示に依存する部分が確かにあった。レイドが指示を出さなければ、次の行動が遅れることもあった。

 だが今は違う。それぞれが自分の役割と強みを完全に理解し、互いの弱点を補い合いながら、言葉を交わす前に自律的に動いている。

 ガルドの大盾は前線を圧倒し、リーネの魔法は中衛から敵の足を止め、セレナの矢は後衛から的確にトドメを刺す。

 息がぴったり合う三拍子の連携。レイドがいなくても、この三人だけで教団の精鋭兵を圧倒してしまうほどの戦闘力。

 これが、「死の運命」を乗り越え、互いの信頼を生身の血で確かめ合った、真のパーティーの姿だ。

 一周目でどれだけ望んでも見られなかった光景が、今ここにある。


「行くぞ。目指すは中央棟の二階、伯爵の執務室だ。あそこにヴェイン伯爵がいる」


 レイドを中心に、四人は伯爵邸の内部へと足を踏み入れた。


 屋敷内はすでに大混乱に陥っていた。

 正面から突入した王都第一騎士団の精鋭たちが、教団兵や伯爵の私兵たちと各部屋で激しい乱戦を繰り広げている。

 剣戟の響き、怒号と断末魔、そして魔法の爆発光。破壊される豪華な調度品の残骸が廊下に散乱し、そこら中の壁に斬撃の跡と血飛沫が飛び散っていた。

 何代にもわたって蒐集されてきた国宝級の価値がある壺も絵画も、もはや踏み砕かれた瓦礫でしかない。赤い絨毯は血を吸って黒ずみ、砕けたシャンデリアの破片が廊下にきらめいている。


「騎士団の方に教団の主力戦力が向いてるわね。おかげで奥までの廊下「レイドは体が動かないのよ、無理したら胸の骨がもっと折れるわ。俺たちがここに伯爵を連れてくるから、レイドは尻拭い的なのが来たら指示を出して」


 リーネが杖を構え直しながら言った。その瞳には、もうかつての「レイドについていくだけの少女」の影は微塵もない。自らの意思で戦場に立つ、一人前の戦士の目だった。精度を発揮し、壁の向こう側にいる敵の数と配置までをも正確に読み取っていた。


 『虚無の教団』の一般の戦闘員は、一人一人がC級冒険者以上の実力を持つ危険な存在だ。だが、国を代表する王都第一騎士団の精鋭三百名が相手では、さすがに分が悪い。

 伯爵の最大の誤算は、セレナがあの密書の証拠を騎士団の総長本人に直接叩きつけたことだ。王都の面倒な貴族の手続きや裁判を全てすっ飛ばし、いきなり完全武力制圧に踏み切れたことで、教団側の計画的な撤退戦術すら間に合っていない。


「——そこまでだ、侵入者ども」


 二階へと続く大階段の踊り場。

 四人の行く手を遮るように、全身を黒いローブで覆った二人の巨漢が立ちはだかった。

 一般の教団兵とは明らかに纏う空気が違う。その手には禍々しい紫色の魔力を帯びた巨大なバトルアクスが握られ、刃先から不気味な瘴気が立ち昇っている。


「……教団の特級兵か。ガルド、リーネ、気をつけろ! あいつらの斧の魔力に触れると、呪いで身体の組織が腐り落ちるぞ!」


 レイドが一周目の記憶から瞬時に警告を発する。

 教団の特級兵。教団の秘術で肉体を改造された半人半魔の戦闘専用兵器であり、通常の騎士を五人がかりで相手にしても互角以上に戦える、恐るべき人間兵器だ。


「げっ、マジかよ! 俺の新しい盾、買ったばっかりなのに一瞬でダメになっちまうじゃねぇか!」

「文句言わない! 私が風の結界で呪いの魔力を弾くわ! セレナさん、二人の関節を狙って動きを止めて!」


 リーネの杖が蒼白い光を放ち、ガルドの周囲に透明な風の鎧のような結界が展開される。


「グルルルォォォ!」


 特級兵たちが獣のような雄叫びを上げ、階段の上から巨大なバトルアクスを振り下ろしてきた。紫色の呪いの光が、弧を描いて切り裂く空気すら腐食させてピシピシと割れる音が響く。


「重ぇっ!!」


 ガルドの大盾が、二人の特級兵の同時攻撃を真正面から受け止めた。

 石畳が円形に砕け散り、ガルドの腕にかかる衝撃で右手のギプスが軋みを上げるほどの威力。だが、リーネの風の結界のおかげで呪いの紫色の魔力だけは完全に弾き返されていた。


「今よ!」


 セレナが階段の横の柱から跳躍し、空中で三本の矢を同時に放った。

 矢は特級兵たちの膝の裏の腱を正確に射抜き、彼らの巨体を大きく前に崩した。

 バトルアクスの刃先が、力を失って石畳の床にカランと転がる。


「トドメだ!」


 レイドが前に出る。

 胸の激痛を気力だけでねじ伏せ、床を蹴った。

 一周目の五年間の死闘で磨き上げられた洗練された一振りの銀の長剣が、空気を切り裂く音すらも残さず、体勢を崩した特級兵二人の首を一列に斬り飛ばした。


「……ふう」


 レイドが剣を横に振り払い、刃にこびりついた黒ずんだ血糊を床に落とす。

 傷が軋んで内臓が裏返りそうな痛みに襲われたが、表情には一切出さなかった。


「病み上がりにしてはいい太刀筋じゃない。流石はうちのリーダーね」


 セレナがふわりと着地し、軽く微笑んだ。


「これくらいできなきゃ、お前たちのリーダーは務まらないからな」


 レイドは剣を鞘に戻し、大階段の上を見上げた。

 その先に、 ヴェイン伯爵邸の裏口の門が、ガルドの身体ごとのタックルで破壊された。

 重厚な樫材で作られた扉が木片と化し、金属の留め具が裂け飛んだ。

 教団の私兵三人が秋風に落ち葉のように吹き飛ばされ、石畳の上に横倒しになる。ヴェイン伯爵に引導を渡すぞ」


 四人は大階段を駆け上がり、最奥の執務室へと向かった。

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